第42話得手勝手(えてかって)

「ん、んうん」

そう、小さな吐息をもらして彼女は目を覚ました。

俺はそれを病室の隅から確認するとそっと、部屋を離れた。

結局今回は佐美子という嫉妬に狂った一人の人間の狂気が起こしたことだった。戦いの終わりを思い返す。


激しい落雷の衝突のあと狒々は黒焦げになってそこに横たわっていた。

電気を操る敵に何が弱点なのか皆目見当もつかなかったがより大きな力をぶつけれるしかないと一瞬の判断で帝釈天をその身に降ろしたのだ。俺にとってもぎりぎりの戦いだった。また神を降ろしたことによって体中がきしみ、立っていることもままならない。

「くそ、一体なんだってんだあんたは、あんたさえいなけりゃ」

狒々がこちらを睨みながらぼそぼそと声を発する。まだ生きていたのか。さっさととどめを刺したいとこだが、こっちも体が動かない。

そんな時遠くから小刻みな鐘の音が、リズムを細かく刻み聞こえてきた。

遠くからだがかなり軽快な、そう祭りのお囃子といった感じだ。

こんなところ、こんな時間にそんなものがあるわけがない。このままだとやばい。そんな気がする、さっきより確実音は大きくなっている。なんらかの集団が迫ってきている感覚がある。だが俺も意識を保てない。

「かたしはや えかせにくりに くめるさけ てえひあしえひ われえひにけり」

俺は薄れ行く意識のなかで、ゆっくりを呟いた。

群れをなす魑魅魍魎ちみもうりょうたちのざわめきと歓喜を表現する。太鼓と笛が織りなす旋律は俺のそばを通り過ぎていく。そして狒々のそばに止まると、狒々を担いで連れて行く。

「ちょ、ちょっといったいなんなのよ」

「やめで、た、たすけて」狒々は激しく抵抗するように手足をじたばたしているが集団はそれを意に介さず進んでいく。

狒々の叫び声が小さくなっていく。そんな中何かが俺の耳元で小さく

「ありがとうな」と聞こえた。ああ、あいつが来てくれたのか。完全に俺は意識を手放した。


冷たい雨がほほにあたる。この感覚2回目か。気が付くとまだ林の中に俺はいた。やっぱり寝てるところに当たる雨は冷たいや。

雨に打たれながら俺は狒々を思い返してた。結局のところあいつら一家のなかで一番の恨みを佐美子が持っていたということなのだろう。そして娘と旦那は協調できてなかったから動きがおかしかったのだろう。


そして家に帰った俺は彼女を病院に連れて行った。彼女の枕元にあの鏡を置いてこれたことだけが救いかもしれない。人間より化け物の方が情に深いんだからなあ。

百鬼夜行に連れて行かれたものは一緒に化け物として現世を移ろうことになる。

あいつらは成仏することもなく永遠をさまようのだ。ある意味もっとも恐ろしい地獄とも言える。もっともそれでも生ぬるいと言えるかもしれない。


「お疲れ様」と聞きなれた声が。いつものごとく突然現れるな。

「神だからね」と一言返してくる。

まったく今まで何をしていたんだか。

「まったくまたあんたは神を降ろして」やばいまたシュリーのお説教が始まると思った

「すまない」と一言だけ呟くとそのまま意識がなくなった。

本当にね。と言うシュリーの声だけが耳に残った。


得手勝手

自分の都合のよいことばかり考えて、他人の利害などは考慮しないさま

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思うがままに生きるのはむずかしい 雪と凪 @yukikaze13

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