第20接種「勇者の軍勢」

「ギルレア様! お願いします! って土下座しながら頼み込めば、やっつけてやらないこともないわよ!」


――ギルレア様! お願いします!


「反応早っ!」


 尊厳などない。俺は迷わずに土下座する。ここで躊躇っている場合ではないからだ。ギルレアに全力を出してもらわなければ、この窮地を脱することはできない。


「ま、今のぎぃにはあれ全部やっつけるのは無理……なんだけどね……」


 ぽりぽりと頭を搔きながらギルレアは言った。


「え! 無理なの!?!? 魔王ギルレア様が!! あのつよつよ魔王のギルレア様が!?」


「できるに決まってるでしょ! ぎぃを舐めないで!」


 どうやら反射的に虚勢を張ってしまうようだ。先ほどと真逆のことを言っている。立派な二枚舌をお持ちのようだ。


「あいつらを倒すために、今からぎぃは太陽を生み出すから、ハウツはなんとか避けて」


「ん? 太陽?」


――万物創造!


 赫赫かくかくとした灼炎の球体、所謂いわゆる、詰まる所のを、ギルレアは生み出そうとしていた。


「いや、チート能力すぎんだろ……」


 太陽の温度は10000度は軽く凌駕する。中心核にいたっては、10000000度を超えるらしい。もはや、この領地ごと焼き尽くす勢いだ。てか、10000000度なんて想像がつかない。


「ギルレアさん? 一騎当千の活躍っていうか、敵をばったばったとなぎ倒す的なアクションシーンは?」


「はぁ? そんなことするより、太陽出して燃やした方が早いでしょ! 何言ってるの?」


 何言ってるのはこちらのセリフだ。魔王だけあって、やり方が豪快すぎる。


「ハウツ! そろそろ準備できるから、隠れていなさい!」


 隠れるってどこに、どうやったって無事ではすまない気が……


「す……る……?」


 呪文詠唱が途中キャンセルされたように、天から降る大火球は忽然と姿を消した。


「ちっ! 勇者の中に魔方式を崩せるやつがいるっぽい……」


 それって要はギルレアの力が通用しないってことじゃ……


「ハウツ! こいつを! 見つけて! 殺してきて!」


 3Dプリンタのごとく、勇者の全体像を創り出すギルレア。この10000の軍勢の中から一人を探して殺害するなんて、無茶な話だ。


「やらなきゃ、ぎぃもハウツも死んじゃうんだけど! さっさと見つけてきてよ!」


 どうやら四の五の言っている暇はないようだ。ギルレアにも焦りの色が見える。


「よし……」


――【6Gシックスセンス電波受信】!


 俺は便利で使い勝手の良い能力を行使した。だが、混線しているのかはっきりと目的の人物を特定することができない。


「くそっ、電波が悪いってか! 自力で探せってか!」


 人生は都合良くいかないようだ。


「ハウツ! さっさと見つけてきなさいよね!」


 サムズアップするギルレア。その姿がなぜかチオと重なった。やらなきゃ俺たちがやられる。俺はチオを蘇らせるために戦うんだ!


――【6Gシックスセンス電波受信】!


――【6G電波受信】!


――【6G電波受信】!


――【6G電波受信】!


 必死に勇者の中を掻き分けて進む。ギルレアは地中から土人形を想像し、健闘している。しかし、それも長くは続かないだろう。ギルレアがうまく勇者をひきつけてくれている間に、俺はギルレアの天敵ともいえる能力解除の能力を持った勇者を探さないといけない。


「どこだ……どこにいるんだ……」


 砂漠の中から一粒の砂金を見つけるが如く、それは無謀な行為だった。次第に、ギルレアが作り出した木偶人形ならぬ土人形たちは崩れ行く。目に見えて劣勢を強いられる戦い。俺が早く、見つけないと……


「よしっ! 魔王幹部を取り押さえたぞ!」


 その一言を皮切りに、一斉に大きな歓声が上がった。ギルレアが剣に串刺しにされ、高く掲げられている。


 必死に万物創造の力で何かを創り出すも、魔方式の分解によって、消失し無に帰る。


「そんな……やめてくれ……」


 ギルレアが、ほしいままにされる姿、それを見て俺の中の何かが弾ける。


――ドクン。


 胸の中に何かが生まれる合図があった。これは怒り、悲しみ、悲憤慷慨ひふんこうがいが生んだ力だ。


――【太陽性反応オルタナティヴ・サン】!


「太陽が出せなければ、俺自身が太陽となる!」


 ワクチンを打てば発熱反応があったらしい。免疫応答によって高熱がでるようだが、やはり俺を死に至らしめたワクチンは38度の高熱程度ではすまないらしい。


「遅いのよ、ハウツ!」


 これは魔法ではない。だから、安易に解除も分解も崩壊もできない。俺だけが持つ固有の力。これを阻害できる者などいない。


「形成逆転だ!」


「ハウツ! やっちゃえー!」


 燃やす、焼く、焦がす。燃やす、焼く、焦がす。燃やす、焼く、焦がす。


 自力で制御するの事のできない強大な炎。最初に使ったファイアの魔法の何千倍の炎。


 勇者たちに恨みはないが、仇成す者、立ちはだかる者は燃やしてしまうしかない。


――そう、俺は太陽、灼熱の太陽、全てを照らし、全てをく強烈な炎。


 気が付くと俺は、ギルレアの膝の上だった。


「……なかなかやるじゃん。ぎぃよりも年下のくせに」


 あれほど嫌悪感を抱かれていたはずだったのに、どうやら今回の一件でギルレアの好感度は上昇したようだ。


「ま、ぎぃにはまだまだ敵わないけどね!」


 ギルレアはそう言ってにししと笑った。その無邪気な笑顔は本当に魔王なのか疑わしくなるほど、純粋な笑顔だった。


「さあ、これからこの『フクハノウ』をどうやって繁栄させようか……」


 もう気分は一国の王だ。自分の領地、自分の好きに使わせてもらおう。


「そうだな……手始めに……」


 そう言って俺が言葉に詰まっていると、横からギルレアが言った。


「隣国侵略ね!」


 魔王らしい、非人道的で悪辣な考え方だ。


「ま、それは少し考えさせてくれ」


 こうして、俺と元魔王のギルレアの魔王領復興物語はスタートした。


――待ってろ、チオ、俺はお前を必ず、救ってやるから……


 俺は、そう心の中で呟いた。


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