第93話 最初の休憩地点
「今日と明日はこの宿に泊まってくれ」
護衛依頼を始め、10日後の今日、俺達は最初の休憩地点となる街へ辿り着いた。街に入ると、まず依頼主が人数分の宿をとった。
その宿の様子は良くも悪くも無いというのが正直な感想だった。ご飯は出なく、1人用の部屋はベッドがあるだけの部屋はあまり大きくないが、汚かったり古かったりなどは無い。
「今から明後日の朝まで自由行動でいいが、くれぐれも問題だけは起こさないでくれ。それから、街の外に行くのは構わないが、この街からあまり離れることも駄目だ。では、解散」
ここで解散となった。ただ、今日はもう日が暮れているのでご飯を食べるくらいしかやることはないだろう。
「よしっ!ヌルヴィス、飯に行くぞ!」
「おわっ!」
初めての街なのでどうしようかと思っていると、大男が後ろからのしかかるように肩を組まれ、そのまま引き摺るように移動させられる。
「前回来た時にここは美味かったんだ」
案内されたのはそこまで大きくない食堂のような場所だった。
「冒険者ギルドで食べるんじゃないのか」
俺はてっきり冒険者ギルドで食事を取るものかと思った。夜だからはっきりとまでは分からないが、この街は以前滞在していたイスブルクよりは小さく、栄えていないようだが、街ではあるので冒険者ギルドくらいはあるはずだ。
「よそ者の冒険者がギルドでご飯を食べてもいい顔はされないし、たまにトラブルにもなるからあまり使わない方がいいんだよ」
「なるほど」
これから滞在するならまだしも、少し立ち寄ったくらいの街の冒険者ギルドでご飯を食べると、酔ったガラの悪い冒険者に絡まれる時があるそうだ。特に大男のパーティにはまだ若い女の人も居るのでその傾向は強いらしい。これはいいことを聞いたな。
「どうぞっ」
席でそんな会話をしていると、適当に頼んでいた料理がどんどんと届き始めた。
「ここは先輩冒険者の俺からの奢りだ!どんどん飲んで食えよ!」
「ありがとう」
大男が食事は奢ってくれるようだ。別にお金には困っていないが、俺はお言葉に甘えて奢られることにする。
「それで全赤化ベアをどうやって倒したんだ?俺らでも倒すのは難しいぞ」
食事を食べながらそんな事を聞かれる。そう言えば、護衛依頼中は大男のパーティ全員と一緒にいる機会があまりなかったから聞かれていなかった。
俺はまずその時の状況を説明し、大鎌で傷をつけ、昔冒険者だった両親から貰っていた使い捨ての魔導具でトドメを刺したと話す。
彼らはリアクションを取りながらも、話終えるまでは遮ることなく聞いてくれた。
「お前は凄いやつだ!」
「おっ」
話終えると、大男が俺の両肩に手を置きながらそう言う。
「倒せるという確証がなく、自分の秘密兵器を捨ててまで知り合って数ヶ月の自分の教え子を助けられる奴はそう居ない!ほとんどの奴は見て見ないふりをするはずだ。それなのに助けに行ったヌルヴィスは本当に凄い!」
「…ありがとう」
大男の言葉に他のみんなも頷いている。
赤ベアを倒したことよりもまず最初に刹那の伊吹の面々を助けたことを褒められるとは思わなかった。しかし、何だか赤ベアを倒したことを褒められるよりも嬉しく感じる。
「全赤化ベアを倒したのならCランクに上がってもいいのにって思ってたけど上がらなかった理由は魔導具にあるのか」
「そうだね」
全赤化したベアはC+ランク以上の魔物になる。ギルドの見解だとB-では無いかとの評価だったはずだ。それを自力で倒せるならCランクでも十分やっていけるだろう。
「だが、魔導具抜きにしてもソロで全赤化ベアとまともに戦える力量をCランクでも持っている者は少ないだろうな。…よしっ!」
大男はジョッキを持ち、酒を一気に飲み干すと、テーブルにドンッと音が鳴る程強く置く。
「明日は街の外で俺と模擬戦をするか!」
「ああ、よろしく頼む!」
急な誘いに俺は即座に返事をする。正直、自分よりも高ランクの冒険者と戦ってみたかったんだ。
こうして、オフの明日は街の外で大男と戦うことになった。
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