第33話 トリプルプレイ

 六月も下旬となり、気温はぐんぐんと上がっていく。

 愛瑠も学校に来ることに慣れたようで、きちんと毎日登校していた。


 花菜さんの方もすっかりうちの学校に馴染んだようだ。

 転校してきた当初は常に黒瀬さんら陽キャグループに囲まれていたが、最近は他のグループの女子とも仲良くしているのをよく見るようになってきた。


「なぁんか転校生の奴、転校生らしさがなくなってきたよねぇ。すっかり馴染んじゃったっていうか」


 みんなと会話をする花菜さんを見て愛瑠がボソッと呟く。


「そう思うなら転校生じゃなくて梅月さんって呼んであげなよ」

「嫌。転校生は転校生なの」

「なんだよ、そのこだわり」


 相変わらず妙な対抗意識があるようだ。


「転校生のやつ、最近着々と交遊関係を広げてるみたいだよ。この前は二組の友野さんたちとお弁当食べてるの見たし」


 愛瑠はポケットサイズのメモ帳を見ながら顔をしかめる。


「愛瑠、そんな手帳に花菜さんの行動をメモしてるわけ!?」

「そうだよ。男といちゃついている現場を押さえようと尾行したり監視してるんだけど、今のところ女子としか仲良くしてないんだよね。よほどうまいこと隠れて逢い引きしてるんだな、きっと」

「なんで男子と仲良くしてる前提なんだよ」

「絶対尻尾掴んでやるんだから」


 愛瑠は鋭い目でジィーッと花菜さんを観察していた。




 放課後の帰り道、僕は愛瑠と共に歩いていた。


「おっかしいなぁ。転校生のやつ、今日も女子とばっかり話してた」

「だから女友達しかいないんだろ」

「蒼馬がそう思いたい気持ちも分かるけど、現実をちゃんと見ないと」

「現実を見てないのは愛瑠さんの方じゃないんですか?」


 背後から花菜さんがぬっと現れた。


「うわっ、転校生っ!?」

「私は蒼馬さんの婚約者なんで他の男性なんてはじめから眼中にありません」

「お、お人好しの蒼馬は騙せてもボクは騙せないんだからね!」


 友だち思いなのは嬉しいけれど、愛瑠はちょっと暴走しがちなところがある。


「そんなことより愛瑠さん、私と『ポート・ライト』しませんか?」

「ポ、ポートライトって、あのゲームの?」

「そうです。いつも愛瑠さんと蒼馬さんがやってるゲーム。私も練習したんです」

「は? 素人がちょっと練習したくらいでいい気にならないでよね。ボクがボコボコにしてあげるよ」

「さぁ? それはどうでしょう? そうやってマウント取ってられるのも今のうちだけかもしれませんよ?」


 二人は口許だけで笑いながら視線をバチバチとぶつけ合う。


「ちょ、落ち着いて。ポート・ライトのチームプレイは協力し合うモードだからね? 仲間は攻撃出来ないの知ってるでしょ!?」

「もちろんだよ、蒼馬。冗談に決まってるだろ」

「協力プレイで楽しむだけですよ」


 二人はにっこり笑って目を合わせる。

 その笑顔が余計に恐ろしかった。


 愛瑠の家に寄ってゲーム機を取ってからうちの家に向かう。


「花菜さんいつの間にポート・ライト練習してたの?」

「実は密かにゲーム機本体を購入してこっそり自室で練習してました」

「へぇ。知らなかった」

「難しいですけど、慣れると案外楽しいですよね」

「そんな子供のお遊びとボクのプレイを一緒にしないで欲しいな。ボクにとってポートライトは戦争なんだから」


 愛瑠は敵意剥き出しで花菜さんを嘲笑っていた。


 家に着くとすぐにゲーム開始となる。

 全員分の本体があるので、僕も交えたトリプルという三人チームモードを選択する。


 トリプルにせよ、タッグにせよ、チームメンバーは同じところに着陸して開始するのがセオリーだ。

 目的地をセットすると、二人は文字通り競いながらその地点へと落下していく。

 先に到着したのはやはりベテランの愛瑠だった。


「遅いな、転校生。あまりに遅すぎてちょっと寝ちゃってたよ」

「たかだか数秒早かったくらいでずいぶんな言いようですね」

「その数秒が戦場では生死を分けるんだよ。まあエンジョイ勢の転校生には分からないだろうけど」

「まぁまぁ。そんな言い争いしているうちに敵が来るよ」


 武器や回復アイテムを回収しながら進んでいくと右の方向から銃弾が飛んできた。


「きゃっ!? て、敵ですっ!」

「落ち着け、転校生。ここは戦場だ。銃弾が飛んでくるのが普通だ」


 愛瑠はアサルトライフルを構えて敵の方へと走っていく。

 物陰に隠れたり、飛び跳ねたりと撹乱し、あっという間に敵チーム三人を一人で一掃してしまう。


「さすが愛瑠」

「昨日今日始めた転校生とは訳が違うからね」

「それは失礼しました」

「ちょ、転校生! 仲間を撃つなよ!」

「失礼。手元が狂いました」

「駄目だよ、花菜さん。仲良くしないと」


 仲間を撃ってもダメージはないけれど、感じは悪い。


「おっとごめん、指が滑った」

「きゃあ!? 爆弾投げるとかひどすぎです!」

「そっちが先にしてきたんだろ!」

「銃で撃ってもダメージないですけど爆弾はダメージ受けるんですよ!」

「やりすぎだって、愛瑠」

「なんだよ! 転校生の肩持つな!」


 愛瑠は唇を尖らせて蹴ってくる。


「あー、ごめんなさい。火炎瓶投げちゃいました」

「ちょ、なにすんのよ!?」


 花菜さんの放った火炎瓶は建物を焼き、更に延焼して辺りの木々まで燃やし始める。


 慌ててその場を離れるが、火が身体に移り体力が削られていく。

 ついでに近くにいた敵も突然の炎で焼け死んでしまっていた。


「きゃあ! 燃えてます! 燃えちゃってます!」

「自業自得だろ!」


 花菜さんが燃え死に、続いて僕も焼けて死んだ。

 なんとか逃げ延びた愛瑠も待ち構えていた敵に撃たれ、敢えなくチームは全滅してしまった。


「もう、なにやってんのよ!」

「手束さんが煽ってきたのが最初ですから」

「だからって建物の中で火炎瓶使う?」

「も、もうやめよっか? そうだ。トランプでもしない?」

「はあ? まだまだやるから!」

「負けません!」

「やるなら仲良くやろうね?」


 その後も敵そっちのけで二人はバトりはじめる。

 でもいがみ合いながらも、それはそれで楽しそうだった。

 本来の遊び方とは違うけど、これはこれで新しい遊び方としてはアリなのかもしれない。




 ────────────────────



 仲良く喧嘩する愛瑠と花菜さん。

 もはや蒼馬がどうとか関係ない感じもしてきました!


 ちなみに三人がプレイしているポートライトというゲームは世界各国で大ブームのサバイバルアクションゲームです。

 ゲーム開始と共にプレイヤーは空から落下して戦場となる島の各地に降り立っていきます。


 武器は島のあちらこちらに散らばっており、それらを拾い戦います。もちろん銃弾も拾って集めなければいけません。


 愛瑠は中学生の頃からしているので結構な上級者です。

 蒼馬はまだ一年ちょっとなので愛瑠に下手くそ君とバカにされてます。


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