第17話 休日の過ごし方(ゆるゆる編)

 体育祭の翌日は休日だったが疲れて家でダラーッと昼過ぎまで過ごしてしまった。

 リビングでテレビを観てダラーッとしていると、梅月さんもやって来てコーヒーを淹れてくれる。


「どうぞ」

「ありがとう」

「筋肉痛とかないですか? マッサージしますよ」

「大丈夫だよ。梅月さんこそ筋肉痛なんじゃないの? 昨日あんなに活躍したから」

「私はあの程度で筋肉痛にはなりませんので」


 自分の分のコーヒーを持って部屋に帰るのかと思いきや、ソファーに座りテレビを観始めた。


「お昼はなににしますか? 冷蔵庫が心許ないので買い出しに行ってきます」

「作るのも大変でしょ? 今日のお昼はデリバリーにしよう」

「そうですか? 私は別に大丈夫ですけど」

「こんな日くらいゆっくりしてよ」

「はぁ。まあ分かりました」


 またテレビに視線を戻した梅月さんだが、二分もしないうちにそわそわと視線を動かし始める。


「天気もいいのでカーテン洗ってみますね。せっかく時間もあることですし」

「そんなに汚れてないよ」

「そうだ、エアコンの掃除をします。フィルターは汚れやすいですから」

「この前の週末掃除したばかりだろ」

「せっかく時間もありますんでキッチン周りの整理をしてきます」


 すぐになにか仕事を見つけてしまう梅月さんに苦笑いがこぼれてしまう。


「今日くらいゆっくりしようって言ったよね?」

「でもなにもしないのは逆に落ち着かなくて」

「のんびりしたらいいんだよ。そうだ、お昼はなにを注文する?」


 ポスティングされていたチラシを集めたものを見せる。


「そうですねぇ……じゃあこれで」

「ピザ? 意外だね。お寿司とかお弁当にするのかと思ってた」

「だ、だめですか?」

「まさか。僕も好きだよ。ピザみたいなジャンクなものを選ぶのがなんかちょっと嬉しかっただけ」

「蒼馬さんは私をなんだと思ってるんですか」


 言葉はムッとした感じだけど声色は柔らかだ。


「トッピングはなにがいい?」

「なにと言われますと?」

「チーズとかサラミとか色々あるでしょ」

「じ、実は頼んだことないんです。うちの親があまり好きじゃなくて……一度食べてみたかったんです」

「へー。そうなんだ。じゃあ適当に頼んでおくね」


 ネット予約でテリヤキチキンとシーフードミックスのハーフアンドハーフを注文する。


「あのっ」

「なに?」

「コ、コーラもお願いしていいですか?」

「もちろん」

「一度してみたかったんです、ピザにコーラ。アメリカの映画とかで出てくるじゃないですか。憧れでして」


 ずいぶんと可愛らしい憧れだ。

 結構梅月さんの実家は厳しいのかもしれない。


「ほかには? したいことないの? ホームサイズのアイスクリームを直でスプーンで食べるとか。昔のアメリカの映画でよく出てくるよ」

「ピザ食べた上にそんなことしたら太ります!」


 恨みがましく睨まれてしまった。

 ここで太ってないフォローをすると以前の二の舞だから自重する。


「してみたいことといえば……」

「なに? なんでもいいよ」

「ゲームがしてみたいです」

「そんなことお安いご用だよ。パズルゲームにする? ミニゲーム色々入っているのとかも面白いよ」

「そういうのじゃなくて、蒼馬さんが愛瑠さんとしているやつがいいです」

「え、『ポート・ライト』のこと!? あれサバイバル・バトル・ロワイアルっていうジャンルの銃で撃ち合うゲームだよ?」


 あんな物騒でモラルに欠けるゲームをしたいなんて意外だ。

 それにそもそも──


「梅月さん、ゲームしたことあるの?」

「いえ。何度か友だちにさせてもらったことくらいしか」

「操作方法難しいよ?」

「いいんです。私はあれがしたいんです」

「そう? まあいいけど」


 取り敢えずチュートリアルとしてNPCしか出てこないモードにする。

 操作方法を説明するがまともに移動するのも覚束ないレベルだ。


「あ、また敵が撃ってきました! もうやめて!」

「隠れて。突撃したらヤられるよ!」

「やられたまま逃げるなんて出来ません!」


 下手なりに楽しんでるみたいなので、まあいいか。



 一時間もしているとさすがに操作は多少スムーズになってきた。

 とはいえまだまだ未熟で、100人のプレイヤーで戦うバトルランブルモードでは50人にも残れずにやられてしまうレベルだ。


「あー、ズルいです! そんな物陰から撃ってくるなんて!」

「そういうゲームだから」

「正々堂々勝負しなさい!」


 梅月さんはすぐに突撃してやられてしまう。

 隠れて狙撃する慎重派タイプに見えるが、意外と猪突猛進で血気盛んなようだ。


 一区切りついたところでちょうどピザが届いたので昼食とすることにした。


「食べたらまたやりますからね。次こそは勝ちます」

「すっかりハマったみたいだね」

「だって悔しいじゃないですか。ズルばっかりしてくる人に負け──んああっ!?」


 テリヤキチキンを一口噛った途端、梅月さんは例の声をあげた。


「美味しい?」

「はい! なんですか、これ!? 炭火で焼いたような香りと甘辛いソースが絶妙です!」

「うまいこと作られてるよね」

「こんなに美味しいものを今まで食べてこなかったなんて」


 梅月さんは呆然としながらコーラをストローでチューッと吸う。


「うわ、コーラと合いますね! こってりとした口のなかが瞬時にさっぱりします」

「食レポ上手だね」

「いえ、全然です。この美味しさを全然伝えきれてません」


 はむ、はむっと大慌てで食べる姿が可愛い。

 本当に美味しいものには我を忘れてしまう人だ。





 ────────────────────



 休みの日、皆さんはどのように過ごしてますか?

 テーマパークに行ったり、映画やショッピングに行ったり、テニスなどスポーツをすることもあるかと思います。


 でもたまには部屋でだらーっとしたい日もありますよね。


 今回はそんなまったりお部屋デート編でした。

 まー、お部屋デートっていっても毎日同じお部屋で過ごしてるんですけどね、この二人。


 さて次回は新たな人物が登場します!

 どんな波乱が待ってるでしょう?

 お楽しみに!

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