16
今日は久々にしっかりめの朝食をとっていた。いつもの食パンと甘めのコーヒー以外に、スクランブルエッグとベーコン。それにサラダとヨーグルト付きだ。一般的な朝食は多分こんなもんなのだろうが。一人暮らしの私にとっては、手間をかけた贅沢な朝食だ。いつもより時間をかけて食べる朝食も、たまには悪くないな。
気分が良くない日から3日が経っていた。
今日は図書館へ行く。
本当は、すぐにでも気晴らしに行けば良かったのだろうけど、とてもじゃないがそんな気分にはなれなくて。何より、そんな気持ちで彼女と出会してしまったらと思うと、とてもじゃないが嫌だった。
「ピーピーピーッ」
洗濯機の止まる音を合図に、食器をシンクに持っていく。洗い物をさっと済ませて、洗濯機の中身を引っ張り出す。絡まる衣服をブンブン振って解くけど、大抵は解けない。解けないだろうなと思いながら、なぜかこの動作を毎回する。洗濯物たちと私の間ではこれが不文律だ。
洗濯カゴを抱えてベランダへ向かう。
「え。」
窓を開けて思わず声が出た。
毎晩あんなに群がって、翌朝に死骸を置いていく虫たちが居なかったのだ。よく見るとちらほらと小さな虫が床や手すりに止まって力尽きてはいるが、以前のことを考えると可愛いものだ。
正直なところ、あまり期待はしていなかった。昨日や一昨日は天気がぐずついていたから、ベランダに寄り付く機会がなかったにしろ。ルームスプレー…いや、アロマスプレーをしてからベランダを確認すらせずにいた。完全にナメていた。
「これが植物の力ってやつか…」
私は独り言を漏らしながら、もう一度ベランダと網戸を見回した。
(これは彼女に報告だな。)
洗濯カゴの中身に手を伸ばす。快適になったベランダでは家事も捗るみたいだ。さっさと終わった洗濯物に軽いステップを踏みながら部屋へ戻った。
私は定位置に向かいアロマスプレーを手にした。スプレーの残りはまだ十分にある。もう一度ベランダに向かい、窓から体半身だけ乗り出してシュッシュッシュッと吹きかけておいた。爽やかな柔らかい香りが鼻腔をくすぐる。
定位置には戻さず、そのまま鞄にアロマスプレーを入れた。
彼女に会えるかどうかは分からない。
歯を磨きながら、今日の天気を確認した。夕方から雨の予報だった。夕方までには帰る予定だ。洗濯物の心配もいらない。念のため折り畳み傘はもう鞄に入れてある。身支度を終わらせて玄関に向かう途中、ふと思った。
(このアロマスプレーを使えるのは、今日で最後になるかもしれないんだよな…)
徐に取り出して、彼女には少し悪いなと思ったが、約束の量まではまだ十分に残っていたので部屋に戻って柔らかな香りを部屋中に目一杯吹きかけた。
(まったく、我ながら卑しいやつだな私は。)
息をするように自虐する自分に呆れ笑いを漏らした。後で彼女にたくさん使ってしまったことを詫びようと思う。
胸いっぱいに爽やかな香りを吸い込んでから、柔らかな香りの部屋を後にした。
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