第27話 ちょっとくらい格好つけてもいいだろ!

 短槍を手に入れたアレスくんは、とてもご機嫌だった。短槍を持ったゴスロリメイド超可愛い。


 ダンジョンに隣接する大きな公園では、あちこちで剣の練習をしている冒険者の姿がチラチラと見えたので、アタシとアレスくんも適当な場所に移動して短槍の練習をすることにした。


 アレスくんがアタシのことを「師匠♥」ってキラキラした瞳で見つめてくるので、予め正直に告白しておく。瞳からキラキラが消えてしまうかもしれないけど、見栄をはってもしょうがない。


「アレス。アタシは槍も剣も学んだことはない。短剣の扱いについては人並み以上って自信はあるけど、それ以外は人が使ってるのを見て、見よう見まねで振り回してるだけなんだ。だからアタシがアレスに教えられることはあんまりない」


「わかった。ならシズカが教えられるところまで教えて」


 アタシの話をどこまで理解しているのか、まだアレスくんはキラキラした目でアタシを見つめている。


「アレスに槍を持たせた理由だけど、剣も短剣も最低限に使いこなせるようになるために要求される技量レベルが高いの。だからって基本を十分に身に着けないまま、適当に振り回してたら、自分の身体を切り落としかねない」


 アタシが右の手刀を剣に見立てて、左腕を切り落とす仕草をしてみせると、アレスくんが唾を呑み込んだ。


「その点、槍は最初の敷居が低い。リーチもそこそこ長いから、剣で相手に切り掛かるよりは恐怖心も少ない。動作もシンプルで突いて引くだけ。見てて……」


 アタシはアレスくんから短い槍を借り受けると、身体を開いて槍を構える。


 フッ!

 

 と気合と共に身体を捻って、石突側を握った右腕を、全力のストレートよろしく前方に打ち出す。


 ビュッ!


 と槍が前方に突き出されたかと思った瞬間、逆方向に身体を戻して、右腕を元の位置に引く。


 シュッ!

 

 引きの勢いで槍の先がしなって穂先がグルンと揺れた。


「シズカ、凄い!」


 アレスくんが拍手しながら、目のキラキラの輝度をあげてきた。アレスくんに褒められて、ちょっと嬉しい。というかめちゃくちゃ嬉しい!


 身体の動きを説明しながら突きの動作を何度か繰り返した後、短槍をアレスくんに返す。


「やってみて!」

「わかった!」


 短槍と言ってもアタシの背丈よりちょっと長い。アレスくんの体格では、ちょっと大きい過ぎるように見える。


 それでも槍を構えたアレスくんの立ち姿はかなり様になっていた。重心も安定していて、見ていて不安に思うところがない。


「こ、こうかな? これでいい?」


 アレスくんは、力を入れずに軽く突きの動作を繰り返して、アタシのチェックを求めてきた。


「うん。そんな感じでいいよ。だいぶ様になってきてる」


「ほんと! それじゃ今度はと突いてみるね」


「よし、いけ! アレス!」


 アレスくんが身体を開いて槍を構える。


 スッ。


 っと、ひと息吸った後、


 ビュンッ!! シュバッ!

 

 ものごっつい勢いで槍を突き出し、ものごっつい勢いで引き戻した。


 ブルンブルンブルン!

 

 槍がしなって穂先が扇風機のように高速で回転している。


 えっ!?


 ちょっ!?

 

 どいういこと!?

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