第10話 もうアレスはアタシの王子様でいいだろ!
いつものことで申し訳ないけど、まずは言い訳させて欲しい。
アタシがアレスを両腕でガッシリと胸のなかに抱きしめて、その白くて柔らかな頬っぺたに何度もチューして、ペロペロして、頬をスリスリ擦り付けているのは、痴女によるショタ事案ではない。
だってほら! アレスくんの様子を見て欲しい。
いつもだったらさ。アタシがこんなことをしようものなら、アレスはその両手をアタシの顔に押し当てて全力で拒否するところだよ!
それに確かな証拠がもうひとつ!
(……)
アタシの脳内でミシェパは静かに見守っているだけ。
いつもだったら、
「この変態女! アレスヴェル様に破廉恥なことをするんじゃない!」
って、ガーガーがなり立ててる。
つまりだ!
このアレスくんのマシュマロほっぺチューチュー、ベロベロ。耳元に顔を埋めてのクンカクンカ、スーハースーハーは事案じゃないの!
双方同意の上の行為なの!
法律上なんの問題もないの!
というか、ここまで捕まえに来れるもんなら来てみろポリスメン!
……も、もし来てくれるなら、素直にお縄になりますから元の世界に連れ返してください! お願いします!
少なくとも警察が来るまでは逮捕されることもないだろうし、それまではたっぷりアレスの頬をペロペロしちゃおう!
なんてことを考えたとき、ミシェパの声が脳内に響いてきた。
(……そろそろ大丈夫なようだな)
まだ大丈夫じゃない。アレスくん成分の追加補給を申請する!
(ふざけるな! というかふざけてる時点でもう十分だ! アレスヴェル様から離れよ! この変態女!)
なんて脳内会話をミシェパと始めていたら、
グイッ!
と、アレスくんがアタシの顔を両手で押しのけようとしてきた。
「にょっ、アレス……ペロペロできないじゃないの」
「もう大丈夫でしょ、シズカ! いつもみたいに元気になってる!」
そういってグイーッとアタシの顔を押しのけると、アレスくんはスルリとアタシのホールドから抜け出してしまった。
「アレス、あとちょっと! あとちょっとだけペロペロさせて!」
歩き始めたアレスを追いかけるように、アタシたちは再び道を進み始めた。
今はもう亡霊の姿はない。
ついさっき、息が出来なくなって死にかけているアタシに気づいて、駆け寄ってきてくれたアレス。
「シズカッ!?」
震えるアタシの手を、アレスが握ったその瞬間。
アタシ《私》の心からも、
それはもう一瞬で呆気ないほど簡単に。
(なるほど。さすがはアレスヴェル様。間違いなく魔王ヴェルクレイオス様の後継者であられるな。その威光の前には、亡霊など消し飛んでしまったのであろうよ)
うん。もうそれでいいよ。
だからもう、アレスくんはアタシの王子様ってことでいいよ!
(貴様! ふざけたことを抜かすな!)
ミシェパがギャーギャー喚き始めていたけど、アタシはまったく意に返さずに、前を歩くアレスと並んで歩く。
歩きながら手を差し出したら、当たり前のようにアレスくんは手をつないでくれたよ!
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