婚約ビザ

加福 博

懺悔

 私は、米国のコミュニティ・カレッジに留学したことがある。しかし、これは留学自体が目的ではなく、グリーンカードと呼ばれる永住権を取得するのが目的であった。カレッジにせきを置くと、日本のマイナンバー・カードのようなソーシャル・セキュリティ・ナンバーがもらえる。これがないと、永住権の前段階である正規労働ビザが取得でない。


 私は、アメリカに来る前にコンサルで経済調査をしてレポートを書くのが仕事だった。そこで、グリーン・カードを取得するまでの道筋を本にしたいとも考えていた。最初の一人旅が韓国であり彼の地に興味を持ち続けていたので、韓国系の友人を作り、韓国系のコミュニティとかかわりををもっていた。


 韓国系の友人は、ジョナサンと言って、私より5、6才年下だった。彼とは、カレッジの音楽の授業で、ソウルの音楽祭で新人賞をとったウィルソンという同じ韓国系のクラスメートの紹介で知り合った。ジョナサンが教会でバンドを組もうとしていてギタリストがいないので、一度会ってみてくれないかという事だった。私は、アルバイトをしており忙しかったが、結局一曲、ジョナサンの曲を教会で弾いた。


 ジョナサンは、勉強はできるやつでロサンゼルスの有名な大学の経営学部を出て、英語教師を日本に派遣するジェット・プログラムに受かり、日本の静岡の高校で二年英語を教えた。ただ、ジョナサンは、アメリカに帰国後プー太郎になってしまった。


 彼のお父さんは、韓国の東京大学と呼ばれるソウル大学を卒業し、高校の英語の先生をしていたのだが、アメリカに移住してカジノで働くようになった。お母さんは、バイオリニストだった。そして、お兄さんは、弁護士になった。お母さんは、ジョナサンがプーになって随分頭を悩ませていた。


 私は、彼にロサンゼルスの大学で経営学部を卒業しているのだから、どこへでも就職できるだろう、できないのなら経営学修士(MBA)でも取ってステップ・アップすればいいじゃないか、お前んち貧乏じゃないんだからと言っていたのだが、彼は、「競争、競争、俺はこれが嫌なんだ」と答えていた。それで、プーをやっていたわけだが、彼はロサンゼルスの大学時代、日本の国際基督教大学へ一年交換留学していた。


 ジョナサンは、その留学、ジェット・プログラムの期間に、日本人ガールフレンドを作っていたのだが、その数が尋常ではなく9人もの女性をとっかえひっかえしていたのである。あいつの何が良かったのか、さっぱり分からないのだが、まあ、リップサービスが良かったのだろう。一度、彼が属する教会に、アメリカに遊びに来た私の従妹いとこを連れて行った。すると、痛く気に入ったようで、目をランランと輝かせていた。もっとも、従妹には彼氏がいたの相手には、されなかったのだが。


 私は、お前、なんで白人のアメリカ人と付き合おうとしないんだと聞くと、「僕は、小学校の低学年の時に移住してきたけど、クラスで白人の女の子に取り囲まれて、『あんたみたいな、アジア系とは、将来絶対結婚しないわよ』って言われたんだ‼」。私は、そんなこと、子供の言うことじゃないかと言ったのだが、とにかく、白人女性が嫌いになってしまったのである。


 じゃあ、韓国系同志で付き合えばいいじゃないかと言うと、それも競争、競争でダメだと言う。ただ、思うのは36年間併合された韓国の男が、併合した日本の女を食い物にする、これは、さぞかし快感であっただろうなと思う。しかし、9人と付き合ったという事は、すぐにボロが出て別れて付き合ってとの繰り返しという事だろう。


 もっとも、最後の9人目とは、遠距離恋愛が続いていた。結婚の約束をしている言う。フィアンセからは、「ジョナサン、いつ私をアメリカに呼び寄せてくれるの?」とひっきりなしに、国際電話がきて催促されているという。そして、今度、日本に行って向こうの両親に会って結婚の許可を得てくると言う。でも、お前プーじゃ、どうしようもないじゃんと私は言っていたのだが、日本に行ってなんとか許可を得てきた。


 もっとも、創価学会をやってるお父さんは渋い顔をしていたそうだが、まあ、当たり前ですわな。しかし、帰国してフィアンセ・ビザという婚約者の呼び寄せのペーパーにどうしてもサインができないと言う。なんで、できないんだと言うと、「何度もサインしようとしたよ‼でも、できないんだよ‼」と、大きな声を出した。過去、日本人女性を散々食い物にしたことを懺悔ざんげするどころか、逆切れしとる訳やねえ。


 数日後、お前、それで例のフィアンセ・ビザ、サインしたかとまた、聞くと、いや、向こうに電話を入れたと。なんて、入れたんだって聞くと、「もう、僕に電話してこないでください‼」と言ったと。コイツ、本性出しよったなと思った。でも、彼女の方も、こんな奴と結婚なんかせんで、正解やわなあ。良かった。良かった。




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