第4話 到着



<菊池たちを見送った隊員たち>


菊池たちが出てゆき、ドアが閉じられた。

誰ともなく声が漏れる。

「なぁ・・どんな感じになるのだろうな」

「フフ・・戦闘と呼べるものではないだろう」

「あの菊池隊長と村上さん、そして山下さんの組み合わせだ」

「あぁ、相手は誰も気づかないうちに倒されているんじゃないか?」

「俺もそう思う。 大きな戦闘になることはまずないだろう」

「静かに、確実に一人一人が倒れてゆく・・それも確率などではなくな」

「・・想像したら俺、今震えたよ。 あの隊長たちが静かに近づいてくるんだろ・・怖ぇ」

・・・

・・

隊員たち皆がそれぞれ勝手に予想を口にしていた。

ただ、誰一人として菊池が傷つくことを予想していない。

予想できないのだ。

訓練においても常に冷静。

戦闘技術も派手さはない。

地味な動きしかしない。

だが、誰も勝つことができない。

かろうじて村上が引き分けることがある程度だ。

それも10回に1度ほど。


隊員たちは少し興奮気味に騒いでいたが、すぐに静かになった。


<菊池たち>


菊池は自分の車で特区の検問所に来ていた。

検問所で挨拶を受ける。

「菊池隊長じゃないですか? 街にお出かけですか?」

「あぁ、3日の休暇をもらったんだ。 少し買い物でもしてくるよ」

「ご苦労様です」

検問所の人たちが笑顔で見送る。

検問所を通過すると、すぐに道路の左側に人が立っているのが見えた。

市長だ!

菊池がゆっくりと道路の左側に車を寄せて、市長の傍に停車。

窓を開ける。


「気を付けて行って来てください」

市長は笑顔でその一言だけを告げた。

菊池は黙ってうなずくと、ゆっくりと車を発進させる。

途中、高速道路のパーキングエリアでブリーフィングを行う。

木村邸の本宅の見取り図を見ながら、構成員の顔写真を見て行く。

・・

「隊長、誰が松本を拷問したのでしょうか?」

「わからんな。 ただ、突入したら優先順位は木村のヘッドを確保することだ・・だが殺すなよ。 そして、松本を拷問した人物を特定する・・」

菊池たちは大まかな作戦と各自の役割を決めていく。

15分ほどで終わる。

村上と山下は菊池の真剣な顔を見ると、一瞬戦慄する。

そして、相手が気の毒だなと思ったりもした。


このパーキングから1時間ほどで木村邸の本宅に到着予定だ。

到着と同時に調査を開始する。

超小型ドローンを使って邸宅内を見て回る。

親指の爪の大きさくらいのドローンを使う。

カメラによる偵察がメインだ。

攻撃機能はないが、麻痺針が装備されている。

突入後の行動時間は最大15分とした。

次のパーキングエリアで完全武装する予定だ。

全員の雰囲気が静かに、重くなっていくのが感じられた。


<特区内>


市長が事務室にいた。

先程、菊池たちを見送ってきたばかりだ。

椅子に座ると、山本がそっと近寄る。

「市長、外の天気はいかがでしたか?」

市長は微笑みながら答える。

「えぇ、少し風が強くなりそうですが、おおむね晴天でしょうね」

「なるほど・・日本の政府は文句を言ってきますかね?」

「さぁ・・我々は何も知らないですから」

市長は椅子に深く座り直す。


<菊池たち>


最後のパーキングエリアで身支度を整える。

配線作業の作業服で身を包む。

その下は完全武装だ。

誰も口を開く者はいない。

黙々と身体を動かして準備を終えていた。

菊池は皆を見渡すと、うなずく。

車が静かに発進した。

パーキングエリアでは誰も気づく者はいない。

・・・

・・

木村邸の近くに到着する。

木村の組員たちに警戒されるといけないので、少し離れた場所に停車。

車両止めのポールを設置していく。

これで木村邸に行く車はなくなるだろう。

迂回路もきちんと確保する。

その作業をしている間に、菊池はドローンを飛ばす。

1mも離れれば、その存在すら気づかない超小型ドローン。


超小型ドローンは木村邸を上空から映していた。

PCの画面にはみるみる木村邸が近づいてくる。

菊池はゴーグルをつけているのでPC画面を見ることはできない。


案外、邸内はそれほど警備は厳重ではないらしい。

家の周辺を飛行していると、玄関に人が近づくのが見えた。

ドローンは玄関付近で待機する。

玄関が開くのと同時に家の中に侵入。

事前に手に入れた間取りは頭の中に入っている。

各部屋を確認していく。

・・・

・・

なるほど。

全部で24名か。

伏兵も用心すると、30名弱といったところだな。

菊池はドローンを操縦しながら確認していく。

顔写真と一致する人物が何名かいる。

大将首は・・この部屋か。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る