旅行帰りもいつも通りのお姉さん
最終日、とはいっても昼前には帰路に着く予定だ。あっという間の二日という旅行期間、温泉やご飯などまだまだ堪能し足りないが仕方ない。
「ふんふんふ~ん♪」
鏡を見ながら化粧をする真白さんを視界の隅に収めながら、俺は今更ながら見ているモノがあった。それは真白さんの情報を纏めているページである。有名になった段階でこのようなサイトが作られることは珍しくなく、真白さんだけでなく数多くの有名人を纏めたサイトは存在していた。
「……ふむふむ」
纏めサイトとはいっても特に気になることが書かれているわけではない。最近編集された部分としては俺という彼氏が出来たことが追加されていた。そして、無駄に俺がどんな人物かも簡単に書かれており、最後に仲睦まじいカップルだと締め括られていた。
「ヤバいな。めっちゃ嬉しいんだけど」
緩みそうになる頬を何とか我慢し、俺はもう一度だけ最初の部分に戻り簡単に流し読みしていった。そんな中、少しだけ気になる部分を改めて見つけるのだった。
【時々間が空くことはあったもののマシロの配信頻度は高かった。しかし、三週間ほど何も音沙汰なく配信をしない期間があった。ファンの間では学校が忙しいのではないか、飽きてしまったのではないかと数多くの心配があったものの、ケロッとした様子で配信を再開しリスナーを安心させた】
「ふ~ん?」
三週間、確かにほぼ毎日のように配信をしている真白さんを知っている分少し意外にも思った。でもこの時の真白さんはまだ高校生だろ? それなら定期テストや他の学校行事で忙しいこともあっただろうし別に珍しくはない気もする。
「た~か君!」
「おわっと」
化粧が終わったのか背中から真白さんが抱き着いて来た。俺の肩に顔を置くようにして体重を掛けてくる真白さんにスマホの画面が見えないように、俺はすぐに画面を消してポケットに仕舞った。
あれ、なんで俺は隠したんだろうか。真白さんの纏めページを見ていたことが恥ずかしかったのだろうか。
「あら~? もしかしてエッチなサイトでも見ていたの?」
「見るわけないでしょ!」
ニヤリと笑った段階で何を言われるかは予想できた。本当に見てないのでそう否定すると真白さんも分かっていたのか笑ってごめんなさいと口にした。
「そうよね。ネットに転がっているモノよりも、近くにこんなにエッチなお姉さんが居るんだもの。見る必要ないわよね?」
「……あい」
「うふふ~♪」
全然その通りなので否定は出来なかった。
それから忘れ物がないようにしっかりと周りを見てから部屋を出た。荷物を持って歩いていると、ちょうど向こうから明人さんたちが歩いて来ていた。
「あ、お兄ちゃんにお姉ちゃん!」
身軽な装いの加奈子ちゃんは俺たちを見るや否や駆け寄ってきた。俺の方へ向かって来たことが分かったので、俺は荷物を置いて加奈子ちゃんを受け止める姿勢に。加奈子ちゃんはそのままスピードを緩めることなく抱き着いてくるのだった。
「えへへ~」
ご満悦な様子の加奈子ちゃんの頭を撫でていると、明人さんと栞奈さんもこちらに苦笑しながら歩いて来た。
「やれやれ、本当に良く懐いたなぁ」
「そうね。もうお別れだし離れられなくなったら困るわね」
「……え?」
お別れ、その言葉を聞いて加奈子ちゃんの瞳が悲し気に揺れた。俺と真白さんを見上げるその表情は今にも泣き出しそうで俺はどうしたものかと考える。たった二日程度しか過ごしていないのにここまで懐かれたことは俺としても嬉しかった。だからこそこんな風に泣かれそうになると困ってしまう。
「ふふ、おいで加奈子ちゃん」
真白さんが両手を広げると、加奈子ちゃんは俺から離れて真白さんに抱き着いた。
「大丈夫よ。きっとまた機会があれば会えるわ」
「……いや」
いやいやと首を振って加奈子ちゃんは真白さんの胸に顔を埋める。俺と同様に真白さんも困ったように苦笑するが、意外にも先に離れたのは加奈子ちゃんの方だった。
「……迷惑は掛けたくないもん。お兄ちゃんにお姉ちゃん、また遊べる?」
その問いかけに俺と真白さんは同時に頷くのだった。
俺が在学中は分からないが、卒業した後ならいくらでも時間はある。それこそ明人さんとオフコラボなんてものを計画しても良いかもしれない。
「たか君、真白さん、君たちに会えて本当に良かったよ」
「隆久君、真白さん、本当に素敵な出会いだったわ」
それは俺たちもですよ。
その言葉を最後に俺たちと明人さんたちは別れた。俺たちと違い明人さんたちはもう少しゆっくりしてから帰るらしく見送られることに。車に荷物を積んで乗り込むまで、加奈子ちゃんはずっと俺たちに向かって手を振っていた。
「またねお兄ちゃんにお姉ちゃん!」
「あぁ、また!」
「またね加奈子ちゃん!」
車が発進してその姿が遠くなるまで、三人はずっと俺たちに手を振ってくれているのだった。
「予想外の出会いだったけど、やっぱり別れは寂しいわね」
「そうですね。まあでも、約束したしまた会えますよ」
その時が近くても遠くても、また笑顔できっと会えると俺は思っている。
「それにしても加奈子ちゃんったらすごくたか君に懐いてたわよね」
「嬉しいことですよ。それを言うなら真白さんもじゃないですか」
「まあねぇ。本当に可愛かったもの」
あれくらい小さい子と触れ合ったのは久しぶりだけど本当に良い子だった。二人でそんなことを話していると、明人さんから写真付きでメッセージで届いていた。写真には大泣きしている加奈子ちゃんと、その加奈子ちゃんを抱きしめて慰めている栞奈さんが写っていた。
「……あはは、これは大変だ」
「あら……ふふ」
後は任せましたよ明人さんっと。
それにしても、これで本当に旅行は終わったわけだ。祭りの後の静けさというほどでもないが、やっぱり若干の寂しさは感じてしまう。
「真白さん」
「なあに?」
「帰ったら少し甘えさせてください」
「もちろんよ。気が済むまで甘えてね?」
よし、帰ったらたっぷり甘えることにしよう。
あぁそうそう。お土産もちゃんと買っておいた。家族の分とお隣さんの林檎さんの分、そして宗二や秋月君に三好君のもだ。後は由夢さんと愛理さんの分、いつ渡すか少し迷っているけど急がなくても良いかな。
「ねえたか君」
「なんですか?」
「旅行、行って良かったなって思えた?」
「当然じゃないですか。隣に真白さんも居たから幸せでいっぱいですよ」
今回真白さんの発案での旅行だったけど本当に楽しかった。良い思い出もそうだしもっと真白さんとの仲が深まったようにも感じる。それはきっと、真白さんも感じてくれているのではないだろうか。
「たか君、覚悟してね」
「え?」
「これから先は凄く長いわ。一回二回の話じゃない、数えきれないくらいの思い出を作りましょう。もちろん、私たちだけでなく出会った人たちとの思い出も」
「……そうですね。いっぱい作っていきましょう真白さん」
「うん♪」
真白さんが運転する車での帰り道、俺は何度か眠りそうになってしまったが何とか耐えている。真白さんは寝ても良いと言ってくれるけど、流石にこういう場面で眠るのは少し気が引けるのだ。
「あぁそうだわ。たか君の将来は決まってるようなものだけど」
「はい?」
「実際に進路希望はなんて書くの?」
「……あ~」
動画配信者、なんて書いたらきっとやめとけって先生には言われるのだろうか。既に道は決まっていてどうなるかも形は出来ている。母さんたちの方から伝えてもらった方が確実かな。
「今では配信者って結構メジャーになってきたけど、まだあまり受け入れられてるものじゃないものね。何なら私が学校まで行って説明しましょうか?」
「やめてください……」
それはそれで大変なことになりそうなのでやめてくださいね。
まあでも、今真白さんが言ったように配信者ってのは大分有名になってきた。でも万人に受けいれられるものかと言われたらそうではない。
「ま、その辺りのことは追々考えましょうか」
「そうですね」
「でもそっか……進路ねぇ。真白さんのお婿さん、真白さんの旦那様、真白さんの婚約者……よくよく考えたらいっぱいあるわね!」
そう書いたら職員室に呼び出されるのは確実だろう。仮にそうなる未来が約束されていたとしてもちょっとそれは書けないかな当然だけど。
いいじゃないの~っと唇を尖らせる真白さんに苦笑しながら、小腹が空いた時の為にと買っておいた饅頭を口に含む。程よい甘さが口の中に広がり大変美味だ。
「私にもちょうだ~い」
「は~い。あ~ん」
「あ~ん」
お互いにもぐもぐ、もぐもぐ、ごっくん。
もう一つ袋を開けて食べようとした時、ふと真白さんが口を開いた。
「ねえたか君、すっごく唐突なもしものことを話すんだけど。私が記憶喪失になったとしたらたか君はどうする?」
「めっちゃ唐突ですね……う~ん」
それはつまり、俺のことを忘れているということだ。それはとても悲しいし辛い事だと思うけれど、それが真白だとするならそこまでの心配はない。だって、そう前置きして俺は真白さんに視線を向けてこう答えた。
「真白さんならすぐに思い出すと思うのでそこまで心配はしないかなって。何となく俺が不安そうにしていたらすぐに思い出して抱き着いてきそうですし」
ほぼそうなるだろうと俺は思うのだった。真白さんは最初ポカンとしたけれどすぐに笑顔を浮かべた。
「そうね。愛の前には障害なんてないのよ。私とたか君の愛を阻めるものなんて存在しないわ。もし居たら……フフ」
……俺は一瞬で顔を逸らした。
なぜかって? 真白さんが一瞬人殺しのような顔になったからだ。それでも様になってるあたり真白さんの顔の良さなんだけど。いやいや、真白さんに限ってそんなことあるわけないでしょうに。
「たか君、時には犠牲も必要なのよ」
「ずっと真白さんの傍に居ますから妙なことしないでくださいよ!? もうずっと引っ付いてますからね!?」
「あらあらあらあら~♪ たか君ったらそんなにお姉さんのことが好きなの!?」
「好きですけど何か!?」
結局、それから俺たちはずっとそんな感じのやり取りを疲れるまで続けた。ただ良く分からないのが疲れる俺とは反対に、真白さんはまるで体力が回復するように元気になっていたんだけどどうなってるんだ。
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