安産祈願のお守りを買うお姉さん
旅行の二日目、昨日は昼から寝てしまうというアクシデントがあったものの今日は睡眠バッチリである。旅館の人からもらったパンフレットを眺めつつ、一通り観光場所を周るのもいいだろう。
「う~ん、私としてはここで気ままに景色を眺めながらイチャイチャするのもありなんだけれどねぇ」
「それもいいんですけど、せっかくですし大切な恋人と色んな場所を周ってみたい気分ですね」
「うふふ~♪ 嬉しい事言ってくれるじゃないのたか君ったら! それじゃあ早速行くことにしましょう!」
待ちきれないと言った具合にワクワクしている真白さんと共に部屋を出た。近くだと街を除けば海があるのだが、今回は行く予定はない。また別の機会に真白さんとは海に行く予定を立てている。
あぁそれと、せっかくだし明人さんとも色々話をしたいなと思ったのだが、今回はお互いに大切な人との旅行ということもあり、そちらを優先してオフコラボは一旦お預けになった。
「たか君はどこか行きたいところはある?」
「ちょっとボートに乗ってみたいです」
近くに湖があってボート小屋もあるとパンフレットには書いてあった。今までボートになんか乗ることはなかったし、真白さんと綺麗な湖の中心にでも行きたいなと思ったわけである。
「いいわね。私は縁結びの神社が近くにあるらしいからそっちに行きたいわ」
「縁結びって……」
「あぁ安産祈願もありかしら♪」
安産祈願はちょっと早すぎるのでは……まあでも、将来そうなると思えば別にいいのかな。真白さんのことだし絶対にフィリアさんにお守りを見せびらかしたりしそうだけど。
それから俺たちは早速出掛けることにした。車に乗る必要はなく、少し歩く必要はあるもののちょうどいい距離だ。湖も神社もそうだし、観光客に合わせて数多くの露店が立ち並ぶ通りも近い。
「普段と違う場所でたか君と一緒に歩くのはやっぱりいいわね」
「それは俺も思っていますよ。というか、眼鏡をしている真白さんがやっぱり新鮮な感じです」
「ふふ、出来る女って感じでしょ?」
「エッチな家庭教師のお姉さんみたいな?」
「あぁそれはそれでありね。たか君だけのエッチな家庭教師、はてさてどんなことをお勉強するのかなぁ?」
真白さんのことだしそれはそれはエッチな……っていう冗談は置いておいて。真白さんには時々勉強を教えてもらうことはある。数学なども得意みたいだし、英語に関しても問題なく話すことが出来るのだ。もちろんロシアの言葉もすらすらである。
「あ、見えてきたわね」
「……おぉ」
とても小さい子には聞かせられない内容を話していると、俺たちはようやく湖に辿り着いた。綺麗な湖を囲むように多くの観光客の姿が見られ、そこには親子連れももちろんだが俺たちのようにカップルの姿も多く見られた。
「早速行ってみる?」
「行きましょう」
……ひっくり返って沈没とかしないよな? そんな若干の不安を感じつつ、俺たちはボートを借りるのだった。大暴れさえしなければ危険はないとのことなので、安心して俺と真白さんは湖の中心へと繰り出した。
「……こわ」
「ふふ、たか君ったらビクビクしすぎよ?」
どうやら真白さんには見透かされているようである。
漕ぐ手を止めて俺と真白さんは辺りを見回した。こうやってボートの上で僅かな水の揺れを感じるのは何とも不思議な感覚だ。遠目には多くの人が見えるとはいっても今ここに居るのは間違いなく俺と真白さんの二人だけだった。
「喧騒なんて何も聞こえないくらいに二人きり……良いモノだわ。あ、見てみてたか君アヒルが泳いでるわ」
「こっちに来ますかね」
大きな一匹のアヒルに続くように小さいアヒルが泳いでいるのは親子なのかな。こっちに来てくれるかなと淡い期待を抱くも、そうそう人に近づくはずもなくてそのまま行ってしまった。
その後ろ姿を写真に撮った真白さんはSNSに投稿した。
「……げっ」
「真白さん?」
ちょっと配慮が足りなかったわねと、真白さんは俺にスマホの画面を見せた。
;これは〇〇県〇〇の湖ですね
「……うわ」
まあある意味当然といえば当然の反応と言えるのかもしれない。俺はもしかしてと思い辺りを見回してみるも、純粋に観光を楽しんでいる人たちしか見えない。スマホを片手に何かを探すような人の姿は見られなかった。
「大丈夫とは思いますけど、ちょっと離れますか」
「うぅ……ごめんねたか君」
「いえいえ、アヒルに無視された悲しみを癒してください真白さん」
「……ふふ、分かったわ♪」
有名人にでもなるとこうやって特定のようなものもすぐにされるのはちょっと理不尽というか……まあ自分たちで気を付けろって言われておしまいなんだろうな。
ボートを漕いで元の場所に戻り、俺は真白さんの手を引くようにして歩き出す。やっぱり変な人が現れることはなかったので考え過ぎかなと真白さんと笑い合うのだった。
「さてさてたか君、神社の方に行くわよ~!」
「おっと、そんなに引っ張らなくても大丈夫ですよ真白さん!」
ま、そう言ってもはしゃいでる真白さんの姿はやっぱり可愛かった。
数人の人とすれ違いながら……中には当然真白さんに見惚れる人が居なかったわけじゃないけど俺が隣に居ると分かるとすぐに顔を逸らしていく。つまらなそうに舌打ちをしたり、或いは一瞬の視線の交差に嫉妬を織り交ぜたりと様々だ。
「好き好き大好きたか君~♪ 私はたか君が好きなの好きなのよ~♪ いつも二人でラブラブ甘々な生活満喫中~♪ 邪魔する人間は死刑デス♪」
何ですかその間抜けな歌は、そのツッコミは胸に仕舞っておこう。
カラオケに行ったらいつも思うことだが真白さんはとても歌が上手だ。だがこんな風にテンションが上がった時に口ずさむ歌は歌詞もそうだし音程も……こう言っては何だがおバカになってしまう傾向が多々ある。
「ねえたか君、今の私の愛の歌はどうだった?」
「え、えっと~」
そして死神の問いかけのような質問をしてくるのだ。
俺は何とかとても可愛らしい歌でしたと答えると、ぷくっと頬を膨らませて真白さんはこう言葉を返す。
「渾身の出来だったのにぃ」
「ある意味渾身の出来ではありましたね……」
っと、そんなやり取りをしていたら神社に着いた。
さっきの湖よりは人が少ないもののそれなりの数の人が居た。縁結びと真白さんは言っていたけどそれ以外の御利益も願ってのことだろうか。人と人の間をかき分け俺たちは神前の前に立った。
手を合わせてお参りをする真白さんが何を祈っているのか、何となくその表情から理解できてしまう。
「……これからもずっと、真白さんと一緒に居られますように」
まあ、こんな願いを口にしたとしても結局は俺自身の問題だ。これからの人生においてどんな風に真白さんと向き合っていくのか、どんな風に彼女との時間を過ごしていくのかはあくまで俺の……いや、真白さんと二人で考えていくことか。
「たか君とこれからもずっと、一緒に居られますように」
……お互いの考えていることが一致したことに顔を赤くした俺、そんな俺を見て真白さんが嬉しそうに微笑んだのもまた当然の流れだった。
「ねえねえたか君、買ったわよ~!」
「……おうふ」
そして、当初言っていたように安産祈願のお守りも買っていた。流石にそのお守りが実際に効力を発揮することはしばらくないだろうけれど、これからの未来のことを思ってお守りを頬にスリスリする姿は本当に可愛かった。
さっきも言ったけどその時が来るのはまだまだ先のことだ。でも、その時が来たら精一杯頑張らないといけないなと……まだ高校生のくせして生意気にも俺はそう考えるのだった。
たか君と神社に行ってこれを買いました!
真白のSNSに投稿された一枚の写真、安産祈願と書かれたお守りに対する反応はやはり二通りに分かれた。
真白と隆久を快く受け入れた意見、そして真白に執着し否定の言葉と共に隆久を侮辱する言葉を吐く人たちだ。とはいえ、やはり否定的な意見の方が少なく埋もれていくのだが、やはり万人に受け入れられるというのは難しい話だ。
セリーナ:出来たら会わせてね!
ちなみに、一番最初に返事を送ったのはセリーナだったりしてそれについて真白と隆久が笑うのも当たり前だった。
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