第2話―日本デビュー、失敗―

 日本で過ごし始めてもう2か月が過ぎた。6月の半ば頃、季節はもう夏に近く、雨が少なくなるにつれ蒸し暑い日が顔を出し始めていた。

 夏が来れば友達とプールで遊んだり、山や海に行ったりと様々なイベントがある。アニメやマンガでの鉄板だ。

 ここ、私立A女子高の2年3組でも皆が夏の予定を話し合っていた。

 だけれど私にはクラスにそんな友達がいない。

 そう、はじめの一歩で完全に躓いてしまったから。

「アメリカから来ました、マリナ・キャンベラです! 好きなことは音楽を聴くこととマンガを読むこと! マンガだと特にジョジョ、2部と5部が好きです! 好きなキャラはブチャラティと吉良吉影。使ってみたいスタンドはザ・ハンド。好きなバトルは」

 と、そこまで自己紹介して気が付いた。周りの人たちが皆ポカンとしていることに。

 その時の私はまだ知らなかったのだ、日本人が皆マンガやアニメが好きではないということに。それにロック好きな人も少ないし。

 完全にオタク丸出しの自己紹介で回りから引かれてしまったこともあるが、理由はもう一つあった。

「キャンベラさんってアメリカに住んでたんだよね? じゃあ英語得意でしょ? 教えてよ」

「えっと……私、英語はそこまで得意じゃなくて……」

 向こうに住んでいた時は日本語学校に通っていたし、家の中でも日本語だった。友達も日本語を話したし。

 英語なんて必要最低限しか学んでいない。それに勉強する英語と本場の実用的な英語は少し違う。

だから英語は教えられないのだ。

「え? キャンベラさんってアメリカ人なのに英語できないの?」

「アメリカ人なのに?」

 アメリカ人なのに。この学校では私はアメリカ人なのだ。

 思えばアメリカにいた時の私は、日本人と呼ばれていた。

 私はハーフだ、アメリカ人でもあり、日本人でもある。

 けれど周りの私を見る目が、扱いが、完全に外国人に対するそれなのだ。

 それが嫌で私は無意識のうちに壁を築いてしまった。

「……失敗だったかも」

 自分の席から窓の外を見つめ、溜め息を吐くが過去は変わらない。

 いや、もし過去が変わっても、心のどこかで私を外国人扱いしている人たちと仲良くなんてできないだろう。

 それもこれもこの見た目のせいだ。

 アメリカ人みたいな金色の髪なのに日本人形みたく童顔、日本人よりも白く、アメリカ人と比べると色味がある中途半端な肌の色。

 そして何よりも嫌なのが瞳の色だ。右目が黒、左目が青、そのせいで私はどっちつかず。デヴィッド・ボウイみたいでかっこいいと思っていた時期もあったが、このどっちつかずのせいで回りから浮いてしまっていた。

 それが嫌で髪を伸ばし、左目を隠した。日本に馴染めるように、アメリカ人の目を、だ。

「私が私を好きになれないのに、そんな私を好いてくれる人なんていないか……」

 私はポツリ呟いて、立ち上がり教室から出る。

 そんな私のことを見ているクラスメイトは誰一人いなかった。


 鬱屈した時は屋上で景色を見ながら風にあたる、それが私の習慣となってしまっていた。

 屋上は誰にも入れないようにカギが閉めてある。しかし屋上へ続く窓は別だ。

 古い机を足場にして窓によじ登り、スタっと着地する。

 外に出た瞬間、夏の訪れを感じる暑さと吹き抜ける涼しい風が肌に感じられた。

「やっぱりこの解放感、気持ちいい」

 私はぐっと伸びをする。教室で感じた窮屈さを紛らわせるように。

 その時だった、私の耳にギターの音色が聞こえてきたのは。

「この曲は……」

 私は辺りを見回した。普段誰もいない屋上に一人、ギターをかき鳴らす誰かがいた。

 この学校には軽音楽部がない、故にギターを鳴らす生徒などいないはずだ。

 それなのにギターを弾いているとは、なんともロックではないか。

 私は思わず早まる脚でその生徒に近づき、声をかけた。

「それってハガレンの曲! アジカンのリライトよね!? 私ハガレンもアジカンも好きなんだ!」

 その子は驚いた風にこちらを向いた。栗色のショートカットにクリっとしたリスのような瞳、少しなよっとしている雰囲気だが可愛らしい子だ。

「えっと……アジカン、知ってるの?」

 その子の声はどこか独特だ。女の子にしては低く、作っている感じの声。

しかしそんなことは気にしない。こちらに来て初めて出会うロックな子に興奮していたせいだ。

「うん! アジカン大好き! リライトもループ&ループも好きだし、アフターダークも! あ、でも一番好きなのは猿の惑星かも」

「ぼ、ボクも猿の惑星は好き……ボクの一番はRe:Re:かな」

 その子は嬉しそうにそう言った後、ハッとした風に口をつぐみそっぽを向いた。

 これ以上私と話したくない、そう言った風に。

「あ、ごめんなさい! 私、グイグイ行き過ぎてたみたい……向こうではみんなこんな感じだったから……ちゃんと挨拶からだよね。初めまして、私はマリナ・キャンベラ。よろしくね。あなたは?」

 だがこの子はまだ私と話そうとしない。やはりアメリカ人だからだろうか。しかし彼女はこちらを向き、瞳で何かを訴えようとしている。

「えっと……ごめん、あなたの言いたいこと、よくわからなくて……」

「そっか……海外から来たから知らないんだね……えっとね、ボクはおかしい人だから、近づかない方がいいよ……」

「おかしい人?」

 私は首をかしげる。この子のどこがおかしいのか、まったくわからない。

 まさかロックが好きだからだろうか。そうだとすれば私もおかしい人になってしまう。

 私が黙って首をかしげていると、この子はうつむいたまま、ぼそりと答える。

「ボクが、男だから……」

「男……? あっ……」

 その時私は思い出した。この学校にトランスジェンダーの生徒がいるという話を。

「ボクは男なのに女の格好してて、女子高に通ってるのがおかしいって……変態だって……だからボクに関わるとおかしい人って思われるよ……」

 私は嫌悪した。目の前の彼のことではない。彼のことをおかしいと思う人に。

「おかしいのはあなたじゃないよ。あなたをおかしいっていう、周りの人」

「え……?」

「だってあなたは自分が女の子だから女の子の格好してるんでしょ? 心が女の子ならもうそれでいいじゃない。それに日本はそういうのに遅れすぎなの。アメリカのドラマじゃジェンダーなんてゴロゴロ出てくるんだよ?」

「でもほら、郷に入っては郷に従えっていうでしょ? 日本にいるからには日本の常識って言うのが……」

 ぼそぼそと言い訳を並べる彼に私は溜め息を吐いた。結局はこの子も私と同じ。

 自分のことが嫌いなのだ。男の身体に女の心を持ってしまった自分が、大嫌いなのだろう。

 だから私は言う。彼、いや、彼女の目をしっかりと見つめてだ。

「私はあなたと友達になりたい。仲良くするのって、それ以外の理由がいる?」

「でも……」

「でももなにもないよ。私はあなたがどんな人で、周りからどんな評価を受けてても気にしない。それで私がどうなってもそれも気にしない。友達と同じ痛みなら、私も感じたい。ね? 私と友達になろう?」

 彼女は戸惑うように一歩後退った。

 しかし何かを受け入れるように頷き、私に手を差し出す。

「ボクは鈴原真弓すずはらまゆみ。よろしくね、キャンベラさん」

 そう、彼女にも孤独を紛らわせる友が必要だった。やはり私と彼女は似ている。

 だから私も手を差し出し、真弓の手を取った。

「よろしくね、真弓ちゃん。あと私のことはマリナでいいから。友達だもんね」

「わ、わかった……マリナ、さん……」

 こうして私に日本での初めての友達ができた。

 ロックな友達だ。

 この出会いが私の青春を動かしロックを響かせ始めるが、その時の私はまだ知らない。


 その日の放課後、私たちは屋上に集まった。

 真弓は静かにギターを弾き、私はそれを座って見る。

「あ、その曲銀杏BOYZだよね?」

「正解、マリナさんってロック詳しいんだ」

「まぁね。こっちのロックもいっぱい聴いたし。中でも神聖かまってちゃんと9mmは特にお気に入りかなぁ。あ、ブルーハーツも好きだなぁ」

 真弓は、へぇ、と嬉しそうに大きく頷いた。やはり彼女とはロックの話題ができそうだ。

「真弓ちゃんはどんなバンドがお気に入り? やっぱりアジカン?」

「アジカンも銀杏も好きだけど……ボクはやっぱり女王蜂かな。失楽園とか緊急事態が好きだなぁ」

 私は思わず真弓の手を取っていた。

「まさかこんなところで女王蜂好きがいたなんて……やっぱり私たち運命だよ!」

「そ、そうかな……?」

「そうだよ! 絶対そう! だからさ、バンドやろう! 真弓ちゃんがギターで、私がベース!」

 私はいつかのユウキのように真弓を誘っていた。

 彼女は考えるように顔を歪め、そして深く頷いた。

「わかった。一緒にバンドやろうよ。ボクも一人で弾くのにうんざりしてたんだ」

「やった! 明日ベース持ってくるから音楽室で練習しよ?」

 だがその一言でまた真弓の表情が曇った。

「音楽室は吹奏楽部が練習してるからやめた方がいいよ……」

「隅っこのほうで練習させてもらうだけでもダメかな?」

「ダメだと思う……吹奏楽部にはさ、風紀委員の塔山さんがいるし……」

「塔山……」

 私は思い出した。塔山美子とうやまみこ、風紀委員で融通が利かない奴だ。

 初日に登校した時ウォークマンを没収されそうになったことがある。

「学業に必要のないものは持ってくるな!」

 確かそんなことを言っていた気がする。それ以降私は塔山に隠れるようにウォークマンを持ってきている。

 それに会うたびに金髪が、とか、髪の長さが、とか言われる。

「でも塔山が何で怒るの? ギターも持ってきちゃダメなの?」

「違うよ……ボクが、男だから……女子高に男がいるから風紀が乱れるって……」

「なによそれ! ちょっと今から塔山殴ってくる!」

「ま、待ってよ……」

「止めないで! そういうので差別するって許さない! 友達がけなされてるってこともあるけど、人として正してあげないと!」

「違うよ……」

 真弓は私の前に立ち、うつむきながら言う。

 苦しそうに、今までの自分の境遇を。

「塔山さんじゃなくて、学校がボクを邪魔者扱いしてるんだよ……」

「でもここはジェンダーも受け入れてるんでしょ? なんでよ」

「ボクみたいな人を受け入れて支援金をもらってるからだよ……ここはジェンダーでも安心して通える学校ですって謳ってるけど、実際は違う。トイレは教員用の男子トイレしか使っちゃだめだし、着替える時も狭い倉庫みたいなところ。ボクがいろんな人から男だって言われて嫌がらせされてるのも見て見ぬふり……全然安心して通えない。だからこの学校にボクの居場所はないんだ」

 真弓は諦めるように小さく笑って見せた。しかしその瞳には涙が滲んでいる。

 ジェンダーだというだけでこの仕打ち、私の心に怒りが沸き上がってくる。

 しかしその怒りの一番の理由は、自身の無力さだ。

 彼女の話を聞いても、私は何もできない。教師を殴ったところで待遇は変わらないのだろうから。

 抗議しても無駄だろう。

 行動を起こして変に真由美の立場が危うくなってしまうこともあり得る。

「ごめんね、真弓ちゃん……ほんとに、ごめん……私だけは真弓ちゃんの味方だから……」

 だから私は真弓を抱きしめる。彼女の震える身体を抱きしめることで、私だけが味方だと教えてあげることしかできない。

 真弓は声を上げなかったが、私の胸の中で泣いていた。

 静かな涙が私の制服を通り越し、心に染みる。

 私は彼女の涙が乾くまでずっと、彼女を抱きしめ続けた。

 この日は真弓のことを考えてもう帰ることにした。

「真弓ちゃん、また明日ね。ちゃんとベース持ってくるから」

「わかった、マリナさん。また明日」

 そう言った真弓はどこか照れ臭そうに笑っていた。

「あはは……誰かにまた明日って言ったのっていつぶりだろう? なんだか、嬉しい」

「真弓ちゃん、私たちはもう友達なんだから毎日言えるよ。それを当たり前にしていこうね」

 うん、と真弓は頷いて歩き出す。

 私はそれに手を振った。彼女もそれに返してくれる。

 そういえば私も誰かとこんな風にさよならをするのは久しぶりだ。

 こうして別れを惜しむ相手はユウキ以来、少し胸が寂しくなる。

 しかし明日になればまた会える。

 早く明日にならないかな、私はそう思いながら家路についたのだった。


 翌日、朝。通学路でギターを担いだ真弓を見かけ、声をかける。

「おはよう、真弓ちゃん」

「あ、おはよう、マリナさん……」

 真弓は額からだらだらと汗を流し、足取りもぐったりしている。

 日差しはカンカン照り、セミの声も鳴き始めていた。

 この熱でやられてしまったのだろう。かく言う私も額から汗が止まらない。

 それは重いベースを担ぎ歩いている、というせいもあるだろう。

「ほんと、日に日に暑さが増してると思うんだけど、気のせい?」

「いえ、ボクもそう感じてます……ボクは家が遠い分なおさらきついかも……」

「はぁ……他の人はこんな日にプールなんて、うらやましいなぁ」

「あれ? マリナさんのクラスも今日からプールの授業じゃないの?」

 私は溜め息を吐き、首を横に振った。

「私、肌があんまり強くないから。塩素まみれのプールに浸かったら体がかゆくなっちゃう。だからプールは無し」

「じゃあボクと一緒に図書室で自習ですね。ボクは男だからプールに入れなくて……でも図書室って冷房効いてるし、ラッキーかなって」

 真弓はそう言って笑って見せた。その顔に昨日のような曇りはない。

 それを見て私も笑う。友達が元気になってくれるとやはり嬉しい。

「あ、そうだ、マリナさん。昨日のバンドのことだけど」

「うん?」

「バンドって、ボクたち二人、ギターとベースだけで?」

「あっ……」

 昨日は真弓との出会いで舞い上がって失念してしまっていたが、二人だけでバンドができるだろうか。

 いや、やろうと思えばもちろんできる。だがドラムやキーボードがいてくれた方がリズムが取れるし、なにより本格的だ。

「う~ん……勧誘したいけど……私たちの仲間になってくれる人なんているかな?」

 私も真弓も周りから浮いている。自分からそんな連中に関わりたいと思う者なんていないだろう。

「とりあえず今日は二人でやろうよ。あ、でもスタジオの予約とかもしないと……」

 二人でバンドについて話し合っていると、あっという間に学校に辿り着いた。

 友達がいるといつもの道も短く感じてしまう。嬉しいやら悲しいやら。

「じゃ、また後でね」

 教室の前で別れて私は自分の席に着く。

 頭の中は早く真弓とセッションしてみたいということだけ。

 授業中もそのことばかり考えてしまい、内容なんてほとんど頭に入ってこなかった。


 そうして時間は進み、4限目、プールの授業。2クラス合同ということで私と真弓のクラスメイトは皆プールへ。

 プールに入れない私たちは図書室で自習だ。自習と言っても担当の先生もいない、実質自由時間みたいなものだ。

 私たちのほかに二人の生徒がいるが、各々好きなことをしている。

(あれって……同じクラスの……)

 その内の一人は私と同じクラスの子、名前は榎本凪えのもとなぎ

 身長はやや低め、ショートカットの黒髪の女の子だ。無表情か不機嫌そうな顔しか見たことがない。

 そんな彼女の一番目を引くところ、それは右腕がないところだ。

 クラスの噂では生まれついてから無い、とのことで、私とは違う意味でクラスから浮いていた。彼女も私たちと同じ孤独なのだ。

「どうしたの、マリナさん? ぼぉっとして、何か気になることでもある?」

「いや、ちょっと……」

 だがどう彼女に声をかけたらいいかわからない。そのため友達になり損ねていた。

 たぶん彼女なら私を見た目で判断しない、ちゃんと中身を見てくれる、そのはずなのだ。

 私だって彼女を見た眼だけで見ないという自信があるから。

「あの子ってマリナさんと同じクラスの……」

「うん。前から気になってたんだ。いい機会だし、アタックしようかなって思う」

 ここならクラスのバカな連中もいない。もしかしたら話してくれるかも。

 凪は窓際の一番奥の席に座り、ワイヤレスイヤフォンで音楽を聴きながらノートに向かっている。

 私は一歩一歩凪に近づくが、彼女にどう話しかけるかはまだ決まっていなかった。

 初手で失敗すれば彼女はこの先心を開いてくれることはないだろう、そんな気がしていた。

 だから言葉選びは慎重にしよう、と私は頭にセリフを浮かべていく。

 どんなことを話そうか、結局決まらないまま凪の後ろを通り過ぎることに。

 だがその時だった、私の耳にロックが聞こえた。

 サカナクションのアイデンティティだ。それが凪のイヤフォンから漏れだし、私の鼓膜を震わせた。

「凪ちゃん! 今聴いてるサカナクション、私も好きなの!」

 私は我慢できずに彼女にそう声をかけた。その瞬間、ビクリ、と彼女は大きく肩を震わせこちらを向いた。

「うわっ!? びっくりした! 急に大声出すなよ」

 その顔にはうざい、と何重にも書かれていた。しかし私にはその奥に隠されているロックの話をしたい、という気持ちが見えている。

 多分、見えている。

「サカナクション、いいよね!」

「ま、まぁな……音作りとか丁寧で聴いてて心地いい。それに歌詞も心にぐっとくる。特にアイデンティティはあたしには響くな」

 と、言って彼女はハッと口をつぐみ、ノートに目を落としてしまう。

 だがこれで彼女の攻略法がわかった。やはり彼女も私と同じ、ロック側の人間だ。

 私は彼女のそばにあるウォークマンを拝借し、プレイリストを眺める。

「あっ! おい! 勝手に見るなよ!」

「サカナクションのほかには……へぇ、the pillowsも聴くんだ。趣味いいじゃん。他には……ゆらゆら帝国に人間椅子! 洋楽もある……えっと、キングクリムゾンにブラックサバス、エニグマ……イエスにピンクフロイド!? まさか凪ちゃん……」

「あぁ、そうだよ。悪いかよ」

 ぶっきらぼうに言う彼女に、私は首を横に振る。まさかこんな近くに同族がいるとは。

 興奮のあまり思わず大声で言ってしまう。

「ジョジョ好きなんだね!」

「……は?」

 だが彼女は訳がわからない、とでも言いたげに口をあんぐりと開けていた。

 まさかしらばっくれているのだろうか。

「えっと……マリナさん、ジョジョって何?」

 その疑問を口にしたのは、私たちの会話を見ていた真弓だった。

「ジョジョはマンガだよ。キャラクターとか、能力の名前が洋楽にちなんであるの。キングクリムゾンもブラックサバスもあるし、イエスはアニメのエンディングを歌ってたんだよ?」

 へぇ、とうなずく真弓。彼女にもまたジョジョを布教せねば、と思いつつ、私は凪に顔を戻した。

 彼女は呆れたようにため息をついていた。

「はぁ……あのなぁ、オタクアメ公。今の流れだとあたしがプログレ好きだって話だろ?」

「ぷ、プログレ?」

 首をかしげる真弓に私は答えてあげる。

「プログレッシブロック、ロックのジャンル分けのうちの一つね。革新的とか進歩的とか、実験的っていう人もいるかな。どういうロックかっていったら難しいんだけど、曲が異様に長くて演奏シーンが多かったり、メロディが今までにない感じだったり、あと一つのアルバムが一つの曲になってる、なんてのもあるかな」

「そ。あんた聴いたことない? キングクリムゾンの21世紀の精神異常者」

「ボクあんまり洋楽詳しくなくて……」

「♪ジャ~ンジャカジャンジャ~ン♪ って感じでござるな」

「そうそう、そんな感じ……って誰!?」

 突如私たちの会話に入ってきたのは、図書室にいた残り一人の子だった。

 彼女はゆっくりとこちらに近づいてくる。黒の長髪に、すらりとした高身長のシルエットだ。

 だが私は彼女の姿がはっきりと見えた瞬間、思わず息をのんでしまった。

 なぜなら、彼女の左目は眼帯に覆われ、身体には無数の継ぎ接ぎのような傷跡や火傷の跡があったからだ。そう、例えるならばフランケンシュタインの怪物みたい。

「あ、沢城さん」

 だがそんな見た目の彼女にも、真弓は臆せず声をかけていた。

 真弓に声をかけられ、沢城と呼ばれた彼女はニコリ、とほほ笑んだ。

「あーしは沢城純菜さわしろじゅんなっていうでござる。さっきからロックの話ばかり、あーしもロックが好きで混ぜてほしいでござるよ。いいでござるよね、真弓殿」

「いいよ。マリナさんもいいよね?」

「いいけど……真弓ちゃんの友達?」

「う~ん……友達って程じゃないけど……クラスで浮いてるボクにも声かけてくれるたり、体育で一緒に組んでくれたりして」

「ま、あーしも浮いてるでござるからね。この見た目でござるし……」

 純菜は寂しそうに、自嘲気味な笑みを溢した。

 彼女もまた孤独な一人だった。それならば私が受け入れてあげるしかない。

「ちょっとびっくりしたけど、その見た目、めっちゃロックだと思う! ね、凪ちゃん?」

「は? あ、あたし? う、うん……まぁ、かっこいいんじゃね?」

「気持ち悪く、ないでござるか?」

「気持ち悪いっていったら、私だって両眼の色違うし」

「ボクもこんな格好してるけど男だし」

「ま、あたしも腕ないし」

 皆で見つめあい、そして笑った。

 周りとは違う自分たちが、今、初めて笑いあえる仲間を持てた。

 自分と同じ境遇の仲間がいたと知り、彼女たちは心の底から笑ったのだ。


「へぇ、純菜ちゃんってツェッペリン好きなんだ!」

「ツェッペリン好きに悪い人はいない……あたしが保証してやる」

「邦楽ならSiMとかホルモンも好きでござるな」

「なかなかハードだね……もしかして純菜さん、パンクとか好き?」

「大好きでござるよ! 特にドラムのビートがたまらないでござる!」

 なんてロックの話をしているとすぐに時間は過ぎていき、授業終了のチャイムが鳴った。

「あらら、授業終わっちゃった」

 楽しい時間が過ぎていくのは惜しい。どうにかしてこの時間をこれからも続けていきたい。

「あ、そうだ! 凪ちゃん、純菜ちゃん! 一緒にバンドやらない?」

「それいいかも! ボクたちバンドやろうと思ってるんだけど、メンバーが足りないからさ」

 一緒にバンドをすればまたこうして集まれる、この時間を永遠にできる。

 けれど凪は不機嫌そうに顔を歪める。

「こんなあたしをバンドに誘うってあんた、頭悪い? それとも当てつけ? あたしの腕じゃ楽器なんて弾けないよ」

「ボーカルとか!」

「あたしはそんなに歌うまくないし」

「うぐぐ……」

 唸ってみても凪を誘う口実が見つからない。

「ふ~ん……ほんとにバンド、しないんでござるか?」

 純菜がにやにやしながら凪を見ている。そんな純菜を凪は敵でも見るみたいに睨みつけた。

 しかし純菜は怯まない。それどころか純菜に抱き着き、その手にあったノートを奪ったのだ。

「あーし、さっきから気になってたんでござるよ。凪殿が何を書いているか。で、あーしの予想だとこれは……」

「や、やめろ! 見るな!」

 必死に取り返そうとする凪だが、彼女の動きより早く純菜はノートを開き、中を覗いた。

 そして、やっぱりか、とでも言いたげなにんまりとした笑みを浮かべ言う。

「これ、作曲ノートでござるよ! しかも結構な量作ってるでござるな」

「作曲!? 凪ちゃん、曲作れるの!? ならその曲演奏させてよ!」

「こうなるからバレたくなかったのに……」

 凪は溜め息一つ、堪忍したかのように片手を上げて言った。

「わかったよ。あたしもバンドに入ってやる。入らないとうるさそうだしな……」

「やったぁ!」

 こうして新たなバンドメンバーが加わり、私たちの青春はさらに加速することになる。


「ねぇ、練習場所はどうするの? 音楽室は使えないし、屋上も音出しすぎたら勝手に使ってるのバレちゃうし……」

「それならあーしの家にするでござる。あーしの家には使ってない部屋もあるし、音を出しても誰も怒らないでござるよ」

 こうして練習場所も決まり、放課後。

 純菜の案内で彼女の家にやってきたのだが……

「これ純菜ちゃんの家? なんていうか……大きいね」

「和の豪邸って感じだよ……」

「そうだな……荘厳って言えばいいか……いや、ピリピリしてるか?」

 とても大きい。庭も広いし、部屋の数も多そうだ。

 豪邸、というか超豪邸。こんな家のお嬢様だったなんて、驚きだ。

 驚く私たちを他所に純菜が一歩、門を潜ったその時だ。

 いったい今までどこに隠れていたのか、大量の黒服の男たちが列を作るように現れた。

「お帰りなさいませ、お嬢!」

『お帰りなさいませ!』

 そして彼らは一秒の乱れもなく一斉に頭を下げ、純菜を出迎えたのだ。

 私はこの光景を見たことがある。マンガやゲームの中で。

「これが……YAKUZA!」

「マリナ殿、あーしたちはヤクザじゃないでござるよ。極道でござる」

「どっちも一緒じゃん……」

 そう言って肩をすくめた凪に、全員の視線が集まっていた。とてもぎらぎらとした瞳の群れに睨まれ、凪は思わず謝っていた。

「そ、その……ごめんなさい……」

「わかってくれればいいでござる。さて、練習でござるが……高藤たかふじ

 高藤、と呼ばれた男は前に出て、純菜の話を聞いている。聞き終えると皆に忙しなく指示を出し始めた。

「練習の用意は高藤たちに任せて、あーしたちはお茶でもするでござる」

 奥へ奥へ進む純菜に、私たちはおずおずと着いていく。

 辺りの異様な雰囲気に心臓がどくどくと不安げに脈打つのを感じながら、私たちは歩いた。

 そして一段と大きな和室に通される。そこには大きなちゃぶ台があり、その上には高級そうなお饅頭が積み上げられていた。

「じゃあお菓子でも食べながらお話を……と、言いたいけど、みんな緊張しすぎでござるね」

「そりゃそうよ。ヤク、じゃない、極道の家で落ち着けるわけないっての」

 凪は遠慮なくそう言って見せた。真弓もおずおずとそれに頷いた。

「まぁそうでござるよね……じゃあまずそれについてあーしが謝るでござる……」

 そう言うと純菜は畳の上に膝をつき、ぺこりと大きく頭を下げた。それも自分の頭が床に着くくらい深く深くだ。

 これが土下座というもの、日本人の最大の誠意を示す態度だと聞いたことがある。

「あーしは見ての通り、極道の、しかも組長の娘でござる……そのことを隠してたの、謝るでござる……ごめんなさいでござる……」

 私も純菜の前に座り、頭を下げる。見様見真似の土下座の姿で。

「私もごめんなさい。純菜ちゃんが、その、怖そうな人たちの娘だってわかって、びっくりした。でも、それで純菜ちゃんが変わることないのに……ちょっと怖くなっちゃって……友達として、そういうの、ダメだよね」

「え? マリナ殿が頭を下げる必要はないでござる! 全部あーしが」

「ううん。私も、私たちも悪いんだよ。だって純菜ちゃんは自分が極道の娘だって黙ってることもできたんだよ? 黙ってたらそんなことわかんないもの。でもそれを教えてくれた。私たちに隠し事したくないってことだと思うけど、それってとっても勇気がいると思うの。そんな勇気を私たちは……だからごめんなさい」

 私が謝ると、真弓も横に座り、頭を下げた。それに続き凪も頭を下げる。

「ごめんなさい……そうだよね、マリナさんの言うとおり、純菜さんは何も変わらないよ」

「あたしも、ビビっててごめんなさい……」

「みんな……ありがとう、でござる……」

 純菜の頬に煌めく涙が伝っていた。それは受け入れられたことによる安堵の温かな涙。

 お互いがわかりあえた証拠だ。

 私たちは純菜が泣き止むまでただそっと、彼女に寄り添っていた。


「で、あーしの身体の傷は組同士の抗争に巻き込まれてできたんでござるよ」

「これだけでマンガ一本出せそうな内容……これが仁義なきGOKUDOの世界」

「ほんとに日本なのって疑っちゃいたくなる話だったけど」

「残念ながらホントの話でござるよ。爆弾で吹き飛んでも生きてたのは奇跡みたいなものでござるよ。まぁその代償がこの見た目でござるが……でもそれでもかけがえのない仲間が手に入ったでござる!」

「あんた、そういうのよく平気で言えるわね……」

 お菓子を食べながら話している途中だった。先ほどの高藤という男が部屋に入ってくる。

「お嬢、準備ができました」

「ご苦労様でござる。それじゃあみんな、さっそく練習するでござるよ」

 高藤の先導で別の部屋へ通される。

 そこはまるでスタジオのように機材が揃っており、楽器を弾くには万全な部屋だった。

「すごい! こんなにいろいろ揃ってるなんて!」

「この機材、すっごく高いやつだよね? ボクたちが触ってもいいの?」

「鈴原、遠慮することないわ。沢城が使えって言ってるんだから、遠慮なく使わせてもらいましょう」

「喜んでもらえて何よりでござる」

 アンプにベースをつないで軽く音を出してみる。いい音だ。機材の質の高さがわかる。

「沢城、あたしはこのDJセット使わせてもらうから」

「いいでござるよ。それじゃあーしはドラムを……」

 そうして私たちはセッションを始める。

 軽く音を出すだけだが、とても楽しい。皆、これが初めて合わせたとは思えないくらい息があっている。

「すごいよ、みんな! 音がぴったり合ってる! やっぱり私たち、運命だって!」

「マリナさんのベースが安定してたから、結構弾きやすかったかも。それに凪さんも、欲しいときに良い音出してくれるし。純菜さんも、強弱がしっかりついてる良い音……これがバンドを組むってことかな?」

「真弓殿のギターもいい音でござるよ。聴いてて心が震える音でござる」

「ま、まぁあたしも結構楽しかった……かも?」

 みんなも手応えを感じてくれている。バンドのスタートとしては申し分ない。

「ねぇ、もっとやろうよ!」

「オッケーでござる! じゃあ次はもう少し早いテンポの曲、行ってみるでござる!」

 私たちは何度も何度も音を重ね、そのたびお互いの音を誉めあった。

 音が重なり合い、ロックのメロディを奏でる。それは私たちだけのロックの音だ。

 私たちの魂が込められた音。

 それは夜の帳が降り、みんながくたくたになるまで鳴り止むことはなかった。


「それじゃあまた明日ね」

「ご飯食べて帰らなくて本当にいいでござるか?」

「ママが家でご飯作ってるし。だからまた今度ね」

「ボクもお母さんがご飯作って待ってるし……」

「あたしもパス。親が過保護で心配性だから早く帰らないと」

「そうでござるか……では、また明日でござる」

 楽しい時間はあっという間に過ぎていき、夜。

外に出た瞬間じめっとした熱い空気が肌に纏わりついてくる。

「それじゃあボクはこっちだから。またね」

「じゃあね、バイバイ」

 真弓と別れ、私は凪と同じ道を歩いていく。

 住宅街、夜の闇を照らすのは家々から漏れる暖かな光だ。

 きっとこの向こうでは楽し気な家族団欒の時間があるのだろう。

「ねぇ、あんたはさ、家族のこと、好き?」

「え?」

 唐突に凪から投げられた質問。少し戸惑ったが、私はこくり、頷いた。

「へぇ、どんなところが?」

「どんなって……パパは家にあんまりいないけど、帰ってきたら私といっぱいお話してくれるし、勉強も見てくれたりするし、色々お土産も買ってきてくれたりする。ママはご飯がおいしいし、いつも私のことを気にかけてくれてる。まぁパパもママも優しいし、そういうところが好きかな」

「ふーん……」

 凪は自分から聞いてきたというのに、興味なさげにそう流した。

 いったいどういうことだろうか、彼女のツンと澄ました無表情からは何もわからない。

 だが家々の明かりを睨む彼女の瞳は雄弁に語っている。

「凪ちゃんは家族が嫌いなの?」

「……まぁね」

 彼女は少し間を開けて、話し出す。

「ほら、あたしってこんな体でしょ? だからさ、父さんも母さんも過保護なんだよ。何するにも親の許可がいるしさ。それがうざったくてたまらない。それに何よりうざいのは母さんだ。あたしを可哀そうな子だって常に思い込んでる。あたしの腕がないから人並みの生活が送れない、それが可哀そうだって、そんな体に産んでごめんなさいって」

 彼女はそう言いながらも、笑っていた。けたけたとした、さぞ愉快だとでも言わんばかりの笑みだ。

「別にあたしはこの体が普通なの! あたしにとって腕がない生活が当たり前、なのに母さんはあたしを可哀そうな子扱い! 腕がないのが異常だって、そんなあたしが普通じゃないって! 母さんはあたしを否定し続ける! おかしいよね! あんなに心配するくせに、それがあたしを否定しているって気づかないなんて!」

「凪ちゃん……やめて」

「は? なんで? あたしが何言おうとあたしの勝手でしょ?」

「違うよ……」

 もうこれ以上見ていられない。凪の自嘲に満ちた偽りの声を聞くのはもう、うんざりだ。

「凪ちゃんは、両親に認めてもらいたいだけなんでしょ? 別に自分は腕がないけど不幸じゃないって」

「……」

 凪は笑うのを止め、私を睨んだ。

 とてつもない憎悪を孕んだ瞳だ。こんな冷たい瞳、私は見たことがない。

「わかった風な口をきくなよ。あたしより持ってるくせして」

 彼女は表情のこもらない口調で言う。

「あたしは本当はバンドなんて嫌だった。継ぎ接ぎにジェンダーに腕なし、見世物小屋じゃないか。でもあたしがバンドをやれば心配性の母親に一泡吹かせてやれると思った。だから始めた」

「……」

「ただね、あんたは気に食わない。あんただけ、まともだからだ。あんたはただのハーフ、それだけだ。目だってボウイみたいなだけ、特に変でもない。あたしとは違う、持ってる奴の悩みだ。ハーフなんてこの世にどれだけいる? あんたと同じ悩みを持ってる奴なんてごまんといる。被害者面するのやめろよな」

 私は我慢できずに凪の頬を叩いていた。

 それは凪が私に悪態をついたからではない。

「ねぇ、凪ちゃんは自分が被害者だって思いたいの? それとも思いたくないの? 今の凪ちゃんの話だと、自分の身体のことを都合のいい言い訳の道具としか思ってないよ」

 彼女の矛盾が耐えられなかったからだ。彼女の本心が聞きたい。

 私は一歩、凪に近づいた。

「凪ちゃんは家族に今の自分を認めてもらいたい。けど、私には理解されたくない。それっておかしいよね? でもね、それよりも私が怒ってるのはね……友達をバカにされたから。真弓ちゃんだって純菜ちゃんだって、自分の体の悩みを頑張って受け入れてる。それを見世物だ、なんてバカにするのだけは、私は許さない」

 私はもう一歩凪との距離を縮めて、彼女を抱きしめた。

 彼女のやけに熱い体温が私の肌と重なる。

「なっ!? なにすんだよ! 離れろよ!」

「自分自身のこともバカにしてる凪ちゃんも、許さない。私はどんな凪ちゃんでも受け入れる……私、凪ちゃんのこと好きだよ?」

「はぁ!? 好き!? なにバカなこと言ってるんだって! 離れろ! 離れろよ!」

 抵抗しようとする凪を、私はぎゅっと抱きしめる。離れられないように強く強くだ。

「凪ちゃんが自分を受け入れて好きになれるまで、離れないから」

「あぁくそ! あたしはあたしが好きだよ! こんな体でも好きだ!」

「全然感情がこもってない。やりなおし」

「もうなんなんだよ! やめてくれよ!」

「……仕方ないなぁ」

 私は凪から離れる。凪の熱も体から離れていってしまった。

「今日のところは許してあげる。でも、次にみんなを、凪ちゃん自身もだよ? バカにするようなこと言ったら許さないから」

「……わかったよ、そんなこと、言わない。さっきはあたしもムキになりすぎてたから」

 凪はそう言って控えめに頭を下げた。

 彼女は口はあまりよくないが、ちゃんと謝ることができる。根はいい子なのだろう。

「ちゃんと謝れてえらいえらい。頭撫でてあげよっか?」

「子ども扱いするな! あぁもう! あんたといると調子狂う!」

 そう言った凪だが、その顔にはうっすらと笑みが浮かんでいた。

 彼女も徐々にだが孤独を抜け出そうとしている。

 そんな彼女に私は手を差し伸べてあげなければ。いや、私だけじゃなくて、バンドの皆でだ。

「じゃあね、凪ちゃん。また明日、待ってるから」

「わかったよ、キャンベラ。また明日」

「マリナって呼んでよ」

「は? 恥ずかしいだろ、急に名前呼びなんて」

「呼ばないとまた抱き着くから」

「……マリナ、また明日な」

「うん! じゃあね、凪ちゃん!」

 凪と別れ、私は一人歩く。

 涼しい夜風が吹き抜け、茹だった肌を冷ましてくれるよう。

 私は夜空を見上げ、願う。

 早く明日になってほしい、と。


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