ダンジョン配信のインフラ整備士をクビになったので、配信事務所のプロデューサーに転職して美少女たちを無双させます!
ヤマイ永次@電子書籍発売中!
第1部 転職! 元インフラ整備士
第1章 転職先は怪しい配信事務所?
第1話 ダンジョンのインフラ整備士は今日でクビ
ダンジョン配信。
それは世間を湧かす娯楽であり。
気軽に挑める身近な冒険であり。
そして――命がけだ。
「――はーい! 今日もやっていきましょーう!」
「お、モンスターはっけーん。ダンジョン配信始めたての頃はこの辺のモンスターにも苦戦してたけど、今となっちゃ楽勝だなー」
「でさぁ~、この前頼んだ奴がめっちゃ――」
「むむむ! せっかくお宝を見つけたというのに、これは罠だよ!?」
均等に取り付けられたランタンに照らされながらも、なお薄暗い洞窟の中。
ごつごとしたいかにもな岩石の壁や天井をモンスターのうめき声やそれらと戦う騒音が反響し、それらに混ざって人の声が聞こえてくる。
ある者は挨拶をし、ある者はモンスターを倒しながら奥へ進んでいく。
まるで町を散歩するかのように周囲を散策しながら雑談する者もいれば、目先のお宝に目をつられてまんまと罠に引っかかる者もいる。
異世界ファンタジーモノのゲームの中でしか見ないような広い洞窟を、服装も武器も様々な者たちが練り歩く。
そんなアンバランスな光景がここの日常だった。
ここはダンジョンの中。
そして、彼ら彼女らは――ダンジョン配信者だ。
日本を含めた世界各地にダンジョンへ繋がる入口が発見されたのは今からおよそ十五年くらい昔のこと。
各国がそれぞれの入り口から調査団を派遣し、その無限にも広がるダンジョンの構造に苦しめられながらも、そこから発掘される未知の技術やお宝に惹かれ我先にと各国がダンジョンの開拓に励んだ通称「開拓戦争」が起こったのが十年くらい前。
……とはいっても、全世界の表裏問わずの国と組織がせっせと探索しまわっても、現在に至るまでダンジョンの全てを調べ尽くせなかったわけだが。
どれだけ探索し、開拓してもその全貌がつかめないダンジョン。
しかし、それを調べるためにはどこの国でも保有する人員が足りなかった。
『国だけで手が回らないのなら、民間にやらせればいい』
なんて考えに至るのはどこの世界でも同じらしい。
ダンジョンの技術の解析が進んだことで一般人でも「まるでゲームのように」戦うことが可能となり、なんやかんやあって民間人がダンジョン探索に加わることになったのが……五、六年くらい前だったか。
元々は探索者の監視と生命維持のために設計されたモニタリングシステムを、これまた誰が言ったのか「これ、ネット配信にしたら上手くいくんじゃね?」と試しに公開してみた所みごとに大バズり。
近年の配信需要に乗っかかる形で盤石な人気を得て、晴れてダンジョン配信者が爆誕することになった。
まあ、小難しい話はさておき。
彼らダンジョン配信者はいわばダンジョンにおける花形だ。
華々しく目立って注目を集めて、それによって更なる
ダンジョン配信者たちがここダンジョンの花形だとすれば、俺のような役職はまさしく裏方だ。
言ってしまえば行政――このダンジョンへの出入り口を管理するギルドたちと同じく、地味で目立たない縁の下の力持ちであった。
その職業の名前は、インフラ整備士。
仕事の内容は名前の通り、花形であるダンジョン配信のためのあれこれ……インフラを整備すること。洞窟を照らすランタンを始め、配信者が問題なく配信できるよう各所へデータ通信用の基地局やその子機を設置、ないし整備したりなどなど。
明るく楽しく冒険するダンジョン配信者の影で、彼らが活躍するための土台をせっせと固めるインフラ整備士……
俺はそんな縁の下の力持ち、その一人だった。
『ごめんねぇ
なんて軽いセリフでクビを宣告されたのはつい先日の話。
そして、今日がその最終出勤日である。
「俺も今日で無職、かぁ……」
なんて呟きながら、すっかり馴染んだ手順で作業を進める。
ランタンなどの設置物や配信のためのネット環境を構築する機器のチェック、問題があれば修理や交換……この辺はとっくの昔に探索された区画だが、それでもモンスターは絶えず出没するので戦闘の余波などで壊れてしまう場合があるのだ。
俺の仕事は、これをちゃんとチェックすること。
最後の出勤なんだし、と上司からはダンジョン外での仕事を振られていたのだが、不運なことに今日の当番が病欠してしまい急にヘルプをすることになったのだ。
「ふぅ、こんなもんか。低いエリアでラッキーだったな」
もう少し深いエリアだった場合は機器類の損壊がもっとひどかっただろうし、インフラ整備士を狙うモンスターだって多かった。
急なヘルプがあったのは不運だったが、出向先が初心者向けの低エリアだったのは幸運だった。
「さて。まだ時間はあるし、少し見回りでも――」
「た、たた、助けてくださああぁぁあぁああぁあいいぃッッ!?!?」
洞窟の中を悲鳴が木霊したのはそんな時であった。
助けを求める声。それが轟くと共にドドド……という地響きが地面を揺らし、配信者たちの驚きや悲鳴がさらに続く。
「あれは……うわ、酷いな」
出所はエリアの奥からだ。
慌てた様子で逃げ出す配信者たちを尻目に、俺は出所の方を見て思わず呻いた。
「だ、誰か! 助け――助けてくださいいいいいい!!」
声の主は少女だった。
浮世離れした印象のある美少女である。
彼女が先陣を切るようにその綺麗な金髪とスカートを乱されせ、一心不乱に全力疾走している。
おそらく彼女もダンジョン配信者なのだろう。
そこはいい。
問題は――彼女を追いかける、モンスターの大群だ。
大小も種別も様々のモンスターの軍勢。
元から出来ている群れではない。
個々にあの少女を狙っていたら、いつの間にか大群となっていたというパターンだ。
モンスタートレイン。
ダンジョンに生息するモンスターと遭遇したにも関わらず、戦闘することなく逃げ回ることでどんどんモンスターたちを引き連れてしまう現象のことである。
昔のMMORPGで言われたりしたモノで、ゲームの中であれば単なる迷惑行為の一つに過ぎなかったのだが、残念ながらここは現実だ。
「おい、アレここよりもっと深いエリアのモンスターだろ!?」
「下のエリアからここまで逃げて来たってのかよ!?」
「ボス個体もいるぞ! あれが他のモンスターを引き連れてるんだ!」
「逃げろ、逃げろおおお!?」
異変に気付いた配信者たちが一斉に踵を返して逃亡する。
単体では大した脅威でもない個体でも、群れを成すことでとんでもない脅威となるのはどこの世界でも同じである。
モンスタートレインはいわば一種の災害。
しかもここは配信初心者も多いエリアだ。
これだけの数のモンスターと対峙した経験のある者は皆無で、全員が配信のことも忘れて半ばパニックとなって逃げだしてしまっていた。
「まったく、最後の出勤にこんなトラブルが起きるとはな……」
思わずぼやいてしまうが、嘆いていても仕方がない。
こういう事例は年に一度は起きてしまうものだ。嘆息を漏らしてから、俺は岩陰から飛び出した。
インフラ整備士の仕事は多岐にわたる。
ダンジョン内の設備や機器類の整備をはじめとして、ダンジョン内における配信者たちの困りごとをフォロー、解決するのも仕事の内だ。
「そら、冒険の時間は終わりだよ」
「え――きゃあッ!?」
もっとも重要なのは――トラブルの解決。
配信者たちの救助に加えて、荒事が起こった場合はその鎮圧も俺たちインフラ整備士の仕事であるのだ。
岩陰からいきなり飛び出した俺に驚いたのか、モンスタートレインを率いていた金髪の少女が足をもつれさせて転んでしまう。
しまった、と顔をこわばらせた少女と入れ替わるように俺は彼女の前へ飛び出し、今にも襲い掛からんと迫ってくるモンスター共と対峙した。
……なるほど。
どうにも数が多いと思っていたのだが、どうやらこの子、運悪くどこかのボスモンスターと遭遇してしまったらしい。軍勢の先頭に立ったそのボスに引き連れられる形で他のモンスターたちも彼女を追いかけてきたのだ。
だったら対処は手早い。
「これくらいなら武器も魔法もいらないか」
少女が引き連れたモンスタートレインは最初にボスモンスターと遭遇してしまったことによって発生したモノ。
つまり、
「――うそ」
「ボスさえ潰したら、後は烏合の衆になる」
言って、俺はボスモンスターを思い切り蹴り飛ばした。
デカい熊か虎のようなボスモンスターの顎を狙って一発。
こちらを食ってやるとばかりに牙を剥いていた顔がガクンと跳ね返り、後ろのモンスターたちへとダイブした。
ドシン、と巨体が仰向けに倒れて洞窟内が静まり返る。
冷や水のような沈黙。
それで他のモンスターたちも肝を冷やしたのだろう。
俺がボスを倒したことでモンスターたちはピタリと侵攻を止めて、一拍の後に蜘蛛の子を散らすようにして逃げ出した。
しかし、悪いがそれだけで一件落着にできるほどやさしくはできない。
俺はモンスターを指さして周囲の配信者へ声を投げた。
「全員、落ち着け! 数は多いが個々では大したモンスターじゃない! 落ち着いて倒せばお小遣いを増やせるチャンスだぞ!」
『お、おおおおおおぉぉぉッ!!』
自分で言うのも何だが、まさしく鶴の一声だった。
先ほどの沈黙と俺の言葉で逃げ出していた配信者たちが手の平を返すがごとく踵を返して散らばったモンスターたちへと襲い掛かった。
現金な連中だなぁとも思うが、それで飯を食べているのがダンジョン配信者だ。
俺一人でモンスターの残党を片付けると流石に時間がかかりすぎるし、ここは彼ら花形にしっかりと働いてもらうとしよう。
配信者たちが続々とモンスタートレインの残党を掃討していくのを尻目に、俺は少女へと手を差し伸べる。
「アンタ、ケガはないか?」
「え、あ……ちょっと、すりむいちゃって」
「なら上出来だ。後で治療してもらうんだな。にしても……ちょっとばかり危険すぎる冒険だったぞ。アンタ、見た所だがそんな無茶できるほどのライセンスは――」
「あ、あの!!」
ガシッ。
こちらの言葉を遮って少女が俺の手を掴んだ。
反省しているとかお礼だとかの語調ではないことはすぐに分かった。
なにせいきなり両手でガシッと掴んできたのだ。
せめてお礼が先だとか思う暇すらなかった。
さながら、見つけた獲物を逃がさないとばかりに。
「お願いです――私たちのプロデューサーになってくれませんか!?」
「…………はい?」
インフラ整備士として最後の勤務日。
俺は、再就職のオファーを受けた。
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