Life3-6 武闘派エルフ
レキとユウリの尻叩き合戦は引き分けで決着し、いよいよ目的地であるリュシカの実家の前までやってきた。
結論から先に述べると、俺たちは圧倒されていた。
「これがリュシカの家か……」
「先ほどまでとは比べものになりませんね……」
「リュシカ……お嬢様だったんだ」
「これでも一応ね」
俺たち三人は眼前に広がる大木にあっけにとられていた。
単純に目測でも、エルフの里で確認できた大木の三倍は優にある。
そして、玄関部分である入り口の前には着物を半脱ぎして肌をさらけ出したエルフたち――もちろん、全員男性――がずらりと並んでいた。
「「「お帰りをお待ちしておりました、リュシカお嬢!!!」」」
「「「魔王討伐のおつとめ、お疲れ様でした!!!」」」
筋骨隆々な男たちの一寸違わぬそろった出迎えの声はエルフの里全体を揺るがすほどの声量があった。
「なんというか……リュシカはエルフの里でたくさんの人から愛されているんだな」
「あはは……ありがとう」
当の本人は苦笑いだ。
勇者パーティーとして旅立つ前から、こういう対応をされて本人は辟易していたのかもしれない。
俺だって毎日これだと少し参ってしまうかも……。
やっている当人たちは悪気がなく、純粋にリュシカへの愛でやっているのだから特にこれといって愚痴もこぼせず……。
彼女が魔法研究に熱心で、こもり気味だったという事情が今まで以上にきちんと理解できた気がした。
「みんな、ただいま。いろいろと話したいことはあるんだけど……ひとまず、これ預かってもらえるかな?」
そう言ってリュシカはレキが担いでいる荷物(ゲインお兄さん)を指さす。
「承知いたしやした! ちなみに、中身はなんでいらっしゃいますか?」
「兄さん」
「ゲインお坊ちゃん!?」
ザワザワとざわめきだすエルフの男衆。
そうだよな。自分たちが仕えるエルフの族長の息子がグルグル巻で荷物扱いされていたら、誰だってそうなる。
「リュシカお嬢がゲインお坊ちゃんに歯向かうだなんて……」
「……成長して帰ってこられたんですね……!」
「さすがです、リュシカお嬢!」
違った。思ったより好印象に受け取られていた。
これも文化や考え方の違いなのだろう。
人間社会でいえば貴族の娘が兄弟をボコボコにするようなものだから、もっと大問題になっていたと思うが……エルフたちが問題なさそうだし、難しく考えなくて良いのだろう。
「エルフは貴族階級なんてないし、その辺りは緩いから。誰が族長の跡を継ごうとも、後継者がきちんと能力を持っていればそれでいいのさ」
しっかりと俺の疑問点を説明してくれるリュシカ。
この辺りのフォローはさすが年長者だなぁ、と感心していると、そっとリュシカが耳元に顔を寄せた。
「その……ジンには安心してほしいから言うけれど……兄さんにキスとかはさせていないからな……」
「えっ……ああ。それなら気にしていないから大丈夫だぞ?」
「そ、そうなのかい? でも、私が読んだ本では男性は女性の初めてでありたい願望が強いと書いてあったぞ……?」
「それは家族以外の男性となら、だよ」
「そ、そうか。なら、よかった。と、とにかく私の初めてのキスの相手は……ジン以外にさせるつもりはないから。……それを伝えたかったんだ」
「…………っ!」
……やばい。その言葉はときめく。
今すぐ照れ恥ずかしさで頬を赤く染めるリュシカを抱き寄せ、その艶やかな唇を奪いたい。
――だが、俺は耐えた。
こんな大勢の、それも知り合いの前でリュシカは恥ずかしい思いをしたくないだろう。
……それと背後からの視線がそろそろ強すぎて、俺の背中に穴が空くレベルだからな。
グッとこらえて、俺は前に向き直る。
なに、これくらい三人と添い寝して過ごす夜に比べたら屁でもないさ。
「ジン。おんぶ」
やきもちを妬いたレキが許可をだす前に背中に飛びつく。
これでジッとしてくれるなら、お安いご用だ。
いつもより密着度が高いせいで、彼女の体躯に似合わぬ豊満なものが押しつけられているがこれも耐えられる。
「ジンさん。抱っこ」
「ごめん、それはできない」
「ひどい! 私だけ仲間はずれなんですね!」
だが、ユウリの抱きつきには耐えられそうにない。
特にリュシカの照れ顔とレキの押しつけを喰らい、理性を削られた今では到底太刀打ちできそうにないのだ。
なので、ここは悪いがユウリには我慢してもらう。
「……おい、見たか。あのお嬢の表情を……」
「……あいつ。カシラが言っていたリュシカお嬢の男か……?」
「その割にはリュシカお嬢以外の女も侍らせてやがんぞ?」
「なに? リュシカお嬢がいちばんじゃねぇってことか……!?」
「もしそうだったとすれば……ワシが殺す」
……物騒すぎないか、エルフたちって。
さっきのゲインお兄さんといい、エルフ男衆といい、ずいぶんとイメージと違って好戦的だ。
おい、そこのエルフ男衆。
ひそひそと話しているつもりだろうが地声が大きいから全部筒抜けだからな。
あと、もう少し殺気は隠せ。
そんなに殺気をこちらに向けたら俺の背中にしがみついている【勇者】が暴れ出しちゃうから。
「ほら、お前たち。私たちを父さんのもとに案内して。どうせ二人とも待っているんでしょう?」
別の意味で修羅場になろうと重くなる空気を変えたのはリュシカだ。
パンパンと手を叩けばハッとしたエルフ男衆は乱れた隊列を再び正して、頭を下げる。
扉付近にいたエルフたちは重そうなドアを開けてくれていた。
「さぁ、行こう。大丈夫だよ、怖くなんてないから」
そこに関しては心配していない。
今まで通ってきた数々の死線に比べれば、これくらいなんとでもないから。
「父もきっと私たちのことを認めてくれるよ」
「……リュシカ」
ちらりとエルフ男衆たちを見やる。
どうも俺は舐められている気がする。ならば、ここで一つこちらからも男気を魅せておくべきだろう。
生半端な気持ちで、リュシカの夫になったつもりはないんだとわからせるべきだな。
俺はこんなにすごい子たちにもっと自信を持って良いといわれた男なんだ。
ここからは気合いを入れ直していこう。
「例え反対されたとしても俺は構わないけどね」
「……? それはどういう……」
「リュシカを抱きかかえて連れ帰るだけだから。俺たちの幸せな結婚は誰にも邪魔させない」
はっきりとエルフ男衆にも聞こえるように宣言する。
「っ……! いっ、いきなりそういうことを言うのは反則だと思うよ、ジン……」
「ハハッ、リュシカの照れている姿。俺はやっぱり好きだな」
「ま、またそんなことを言って……あなたは私を喜ばせる……!」
リュシカは見ないでくれと言わんばかりに両腕でバツ印を作って自分の顔を隠す。
だけど、横から覗けるエルフ特有の長い耳は根元から先まで真っ赤になっていて、彼女がどんな表情を浮べているのかは一目瞭然だった。
「これで安心できたかな?」
「……当然。私も協力する」
「……もうただの仲間とは違う。私たち四人そろっての『家族』ですからね。ふふっ、さすがジンさんです」
「……ったく、本当に頼もしい家族ばかりで、私は幸せ者だね。それじゃあ、せーのっ!」
リュシカは俺とユウリの手を引き、みんなで同時に敷居をまたいだ。
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