Life3-sub ヒナはジン様と結婚したいのです
◇こちら文庫版1巻のラスト、襲撃した王都からレキによって吹き飛ばされて帰宅したヒナというシチュエーションの続きになります◇
「王都からただいま戻りましたわ、お父様。お話があるのですが、ヒナはジン様と結婚することに決めました。私があの方と帰ってき次第、結婚式を開きますので準備をお願いいたしますね?」
「……待ってくれ、ヒナ。一向に話の全貌が見えてこないんだが……」
自室で書類仕事をしていたお父様は頭を抱えている。
あら、いけませんわ。ヒナってば興奮のあまり、事情を説明するのを省いてしまいました。
ジン様をあの忌々しき勇者パーティーから救おうと結婚式に乱入したのはいいものの、まさか敗北するなんて……。
それもジン様の正妻候補……つまり、ヒナのライバルである【勇者】の一撃によってそれはもう遠くへと吹き飛ばされた。
「それにどうしたんだ、その傷……。ずいぶんと過酷な旅路だったみたいだが……」
「いろいろとあったので順を追ってお話ししますわね。どこから話しましょうか……」
お父様の言うとおり、お気に入りのドレスもボロボロ。
なんとかここまで帰って来られたのも奇跡ですわね……。
なんてたって、ヒナ……方向音痴ですもの!
「実はヒナ。王都まで繰り出していたのですが」
「うん、それも初耳だね」
「そこでジン様という……素晴らしい殿方に一目惚れしましたの!」
「……それで?」
「しかし、残念ながらジン様は勇者パーティーの一員でして……それもパーティーメンバーと結婚式を開く前でしたの……」
「勇者パーティー? 待ってほしい、ヒナ。私に一呼吸置く余裕をくれないか」
「なので、結婚式をぶっ壊してきましたわ!」
「そんな予感がしたよ! おぉ……せっかく人類と共存しようと頑張っていたのに……!」
お父様はシクシクと涙を流しながら、机に突っ伏す。
なんとめそめそしい姿。
これも【勇者】によってやられてしまったせいですわ。
やはり【勇者】……【勇者】が全ては悪いのですわね……!
あのメスさえいなければお父様も魔王として人類を恐怖のどん底にたたき落とし、ジン様もヒナの手元にあったはずなのに……!
「……そ、そうだ! パルルカは? パルルカはどこにいるんだ?」
「私でしたら、ここに」
そう言って廊下で待機していた全身包帯まみれのパルルカが顔を出す。
ちなみに彼女は移動できるタイプの寝台に乗せられており、彼女の部下であるサキュバスが動かしていた。
「パルルカ!? どうしたんだ、その姿は!?」
「いえ、すっかり【勇者】にやられてしまいまして……」
「……ということは【勇者】たちと一戦を交えたのか!?」
「そうですわ。先ほどの続きですけれど……ヒナたちは【勇者】にやられて、パルルカはこんな姿になってしまいましたの」
「お嬢様が直撃をふせいでくださったおかげで一命を取り留めました。やはり【勇者】の一撃はすさまじかったですね……」
「当然ですわ、パルルカは私の大切なお世話係ですもの。【勇者】の実力は……少し想定外でしたが」
「そうか……。とにかく二人が無事でなによりだ。ひとまずはそれを喜ぼう。……ときにヒナ」
「なんですの、お父様」
「体に異変はないか? 【勇者】の光による一撃を受けたのだろう?」
「ええ、ダメージこそ負いましたが、それ以外は特に違和感もありませんわよ」
「……あれぇ?」
首をかしげるお父様。
きっと自身と同じく人類に対して愛情を抱いた様子が無いのが不思議なのでしょう。
確かにヒナは【勇者】の浄化する光を全身に受けましたわ。
しかし、ヒナは強い意志を持つ由緒正しい魔王の娘。
この野望! 野心はそう簡単には書き換えられませんわよ~!
「そういうわけでしてお父様。ヒナは身を清めて参りますわ」
「ああ、わかった。そのまましばらくゆっくりしておきなさい」
「ええ。しっかりと体を休めようと思います」
「お、おお……」
「……どうしましたの、お父様。ヒナ、変なことを言いましたか?」
「い、いや、なんでもないんだ! 決して素直に言うことを聞いてくれるなぁなどとは思っていないぞ!?」
全部口から出ていましてよ。実の娘に失礼ではなくて、お父様?
「それではお父様。ヒナは失礼しますわね」
「ああ、傷を癒やしてきなさい」
礼をして部屋を出たヒナはそっと扉を閉める。
「パルルカ。あなたはよくやってくれましたわ。その怪我が完全に治癒できるまでは自分の時間を大切にしなさい」
「ありがとうございます、ヒナお嬢様。……すみません、私が後れを取ったばかりに」
「関係ありませんわ。ヒナが実力で上回っていれば押し通せたんですもの。原因はヒナの実力不足」
「……ヒナお嬢様……!」
「あらあら、泣いては包帯に染みこんでしまいますわよ。ほら、自分の部屋で新しいものに変えてもらいなさい」
ヒナがパンパンと手を叩くと部下のサキュバスがパルルカを連れていく。
「……さて、ヒナもさっさとお風呂に入ってしまいましょう」
ツカツカとヒールを鳴らして、カーペットが敷かれた廊下を早足で歩く。
さきほどお父様の懸念……見事に的中ですわ。
ゆっくり? とんでもありませんわ!
ヒナがこうしている間にもジン様は勇者パーティーのメンバーと時間を過ごすんですのよ!?
じっくりもゆっくりもありませんわ。本当はすぐにでも跡を追いかけたいのですが……こんな汚れた姿で会いに行ってもジン様を幻滅させてしまうだけ。
お風呂にでも浸かって、新しい作戦を考えましょう。
なによりパルルカはしばらく実戦には出られないでしょうから、代わりの人員を探さなければ。
その前にジン様たちがどこにいるのかも調べなければいけませんし……やることが山積みですわね。
「……となると、あの子に頼むのが良さそうですわね」
主に前線に出て活躍していた魔王軍の幹部は悲しいことにすべて命を狩られてしまいました。
ですが、パルルカのように私のお世話係であったり、内部で魔王を支えている幹部はまだいましてよ、人類たち。
問題はどうやって引きこもり体質の彼女を引っ張り出すか……う~ん……。
「……お風呂に入れば何か思いつくでしょう!」
思いつかないことに固執して、うんうんとうなっていても良いアイデアは出てきませんわ!
意識を切り替えたヒナはそのまま魔王城ご自慢の大浴場へと向かった。
「……相変わらずどんよりしていますわね」
体の芯が熱くなるまでぬくもったヒナは新品のドレス――ではなくお古のドレスともう履かない予定の靴に着替えて、異質な匂いを発する部屋の前にいた。
ヒナは一度見た。もしくは、この身に受けた魔力を記憶できる。そして、ヒナの体にはまだあの戦いの残滓が色濃く残っていた。
それを頼りに探り続ければ、ジン様たちのおおよその居場所は把握できます。
お風呂に入っても特にいい手段を思いつかなかったヒナは腕力で言うことを聞かせることにした。
結局、これがいちばんですわよね!
「お邪魔しますわよ、マードリィ――ひぃっ!? なんですの、このゴミの山!?」
ドアを開けた私は視界に入った光景に思わずたじろぐ。
ゴミ、ゴミ、ゴミ……!
あっちらこっちら、本が重なって積み重なっていたり。食べ散らかした骨の周りに羽虫が飛んでいたり。床にはよくわからない青色の液体がこぼれていたり……。
……相変わらずですわね、ここは……。
「うへぇ……」
べちゃべちゃと音を立てながら、ゴミの山をかき分けていく。
本当に汚いですわね……ここは。
マードリィの研究ラボと呼ばれるこの一室の主はおそらく今も……と、想像通りでしたわ。
ゴミの山を突き進んでいくと、最奥に様々な実験器具が置かれた机が見えてくる。
その机の上で何やら怪しい液体をカップに注いでいる黒髪の少女。
彼女こそヒナが求めた魔王軍の幹部――マードリィ。
一日中研究、実験、研究、実験、研究……。
脳内全てが研究で埋まっている彼女はそれ以外の魔族としての役割を放棄している。
目の前のことに没頭し、周囲のことが見えなくなるのよね……。
だから、こうして背後に迫っても全く気にした様子もない。
この子、魔族じゃなかったらどうやって暮らしたのかしら……。
「マードリィ。ヒナが迎えに来たわ。外に行くわよ」
そう言って彼女の肩をグラグラと揺する。
すると、ゆっくりと彼女の首がこちらを向き、睡眠不足で鋭くなった赤色の瞳がヒナを貫く。
「………うわ」
「そんな表情しないでくださる? まるでヒナが面倒くさい相手みたいに……」
「……なに? ……私は忙しい。邪魔しないで」
「あなたに頼みたいことがありましてよ。実は一緒に侵入してほしいんですの」
「……パルルカに任せる」
「そのパルルカは休みでしてよ。ちなみに返事は『はい』のみ受け付けておりますわ」
「……はぁ……。それはお願いじゃない。脅迫」
長い、それは長いため息を吐くマードリィ。
彼女の背後で腕まくりをしていたかいがありましたわね!
ちゃんと行動の意図が伝わって嬉しい限りですわ。
「……いいよ。私も研究詰まっていたし……ちょっとくらいなら付き合ってあげる」
「ご安心くださいまし。移動は全てヒナが抱きかかえていきますから歩く必要はありませんわ」
「……そう」
なんといってもこの方、研究ばかりでこんな窮屈な部屋に困っているせいで身体能力がかなり劣っていらっしゃいますからねぇ。
ですが、いいでしょう。
ヒナは頭を働かせるのは苦手ですが肉体労働は大の得意ですから。持ちつ持たれつ。お互いの苦手なところを補い合うのが大切なんですわよ。
「……聞いておく。どうして私なの?」
「ちょっとあなたに研究してもらいたいことがありますの。そのためにも実物は見せておこうと思いまして」
「……なに?」
露骨にぴくりと反応しましたわね。
……あっ、そうですわ! 最初からこれで釣ればよかったのですわ! 研究お馬鹿なのですから!
「――【勇者】の聖剣の効力について」
「そういうことは早く言ってほしい! ついてくついてく! 絶対についていく!」
性格が変わったように飛びついてくるマードリィ。
やはり彼女も前から興味があったみたいですわね。
普通は【勇者】と対峙することを恐れるでしょうに……筋金入りのマッドサイエンティストとはまさに彼女ですわ。
だからこそ、連れていく候補にも迷いなく選べだのですから。
「うへへ……【勇者】で試したいことがいっぱいあるんだ……。幹部がいなくなって溜まるばかりだったから……楽しみだなぁ……」
「そうと決まれば早いですわ! さっそく――」
「……うん。行こう、【勇者】のもとへ」
「――お風呂に入りますわよ」
「………………え?」
ニタニタとクマができた目元を垂らしていた彼女の表情が絶望に染まる。
……まぁ、見ての通りですが……。
床まで伸びたボサボサの髪。
カサカサに乾ききった肌。
なによりツンと鼻につく体から発せられる匂い。
到底看過できるものではありませんわ!
「……いや……。面倒くさいし……魔族は匂いなんて気にしない……」
「ダメですわ。これからヒナの王子様であるジン様とも会うんですのよ? こんな匂いをさせたまま一緒に行動できるものですか」
「……私は関係ない。そのままでいい」
「いいえ、ダメです。さぁ、行きますわよ~」
「………………うぇぇぇ」
ヒナはマードリィを抱きかかえ、もう一度大浴場へと向かう。
食事をまともに取らないマードリィの体はガリガリで、到底ヒナに対抗できる力などない。
だから、こうして大人しく運ばれている。
「あと、いつもの服も味気ないですから……仕方ありませんわね。ヒナの服を貸してあげましょう」
「……もう任せる。はやく【勇者】に会えたらそれでいい」
「あなたのそういうところ、ヒナは結構好きでしてよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます