妹を美味しく食べる為に内緒で頑張る姉、実は知ってる妹が反撃を用意してる夜の話
きつね雨
第1話
姉、ソフィア
「ムルムルの尻尾はこれで良しと」
目の前には赤黒い身体を持つ怪物が倒れていて、長い尻尾の先は千切ったから短くなってる。ぱっと見は魔族っぽいかな。何かの絵で見た気がするけど、詳しく知らないから適当。
「後はライラの涙? 人型の魔物で、獲物を誘惑して食べちゃう。ふーん」
目を落とした紙にズラズラと並ぶ文字、斜線でムルムルの尻尾を消して。目的の薬を作るために必要な材料は次で最後。少し苦労したけど、長年温めて来た夢が叶うと思うと疲れないから不思議だ。
「場所は……ナイトメア級のダンジョンの下層に現れる、か。ささっと終わらせちゃお。リュシーに心配掛けたら本末転倒だもん」
確かナイトメア級は最難度ダンジョンで、国が管理してて一般人は入れない筈。捕まるのも嫌だから、認識阻害で入ればいいか。下層らしいし途中の魔物達はスルーで。面倒だし興味も無い。
「よし、と」
軽く集中し、魔法で一気に飛翔する。
地面を歩いて行ったら何日必要か分からないし、早く帰って大好きなリュシーの可愛い顔を眺めたい。思わず全力を出してしまって、体感では一瞬で着いちゃった。晴れてて良かったな。雨や寒さを魔力で防ぐ必要が無い。
「ん、あれかな。鎧姿の男の人が沢山見張ってるし間違いないよね」
遥か上空から観察してるから微妙だけれど。
「地図地図。ハナン山があれで……川があっちに流れてる。うん間違いない、ナイトメア級のダンジョンだ」
取り出した地図をお手製のポーチに収めたとき、贈り物された手鏡が目に入って思わず手にする。つい自分を見てしまった。まあまあの美人だけど、妹のリュシーには到底敵わない。髪も眼だって同じ色なのに印象が随分変わる。
「やっぱり、可愛げないなぁ」
垂れ目だけど可愛らしい訳なくて脱力系。唇も厚ぼったい気がする。よく眠いの?って聞かれるけど納得してしまう自分が可笑しい。
そのくせ胸もお尻も大きいのが気に食わない。太ってるわけじゃないけど、個人的にはちっちゃくて可愛いのが好きなのに。あと色気とか要らない。男達の目線も誘われるのもウザい。
何にしても、無愛想な私と明るい妹と比べるのが間違いだよね。
「お姉ちゃんはもっと身嗜みをしっかり、か。折角の美人がって言われてもなぁ」
寝る前の手入れ、朝の化粧。当たり前だとしても面倒は面倒。リュシーの肌なら幾らでも触ってられるけどな。
「よし、行こ。あの子が十五歳になる日……"生誕の祭夜"は明日だから、それまでに完成させないと」
「ただいま」
「あ、お姉ちゃん、おかえり!」
可愛い。
振り返ったその笑顔、可愛い。
何回見てもリュシーは可愛い。毎朝櫛を通してる銀髪は薄らと青色が混ざってキラキラ。まあナイショで魔力を送ってるから当然かな。田舎の村だから日焼け肌荒れが当たり前だけど、眠った後のリュシーにいつも回復魔法を掛ける事で健康的な白はそのままだし。垂れ目の優しい瞳は深緑で、毎日眺める日課が最高。身長も低くて、抱き締めると包み込めるから丁度いいのもやっぱり最高。胸だって慎ましやかに育ってくれて、これも私好みで大好き。大きいのは好きじゃない、私みたいに。
素直で、真面目で、お淑やかで、擦れてない。
つまり、精霊そのもの。見た事も会った事もないけど、国の王女様もそんな感じなのかな。
可愛い。
早く食べたい。
私色に染めたい。
あと少しの我慢。
今日の集めた材料で禁断の媚薬が作れるんだから。
明日……リュシーの誕生日、この世界で一人前として認められる大事な日に、私のモノにする。何年も掛けた計画も終わりが近い。いや始まりかな。
「今日は……わぁ、墨吐き兎が二羽も。きっと村一番の狩人だよ、ソフィアお姉ちゃんは」
村一番どころか、多分世界でも上の方だと思う。兎なんてダンジョンからの帰りに狩りしただけ。まあ本当の力を隠してるから分からないだろうけど。矢は念の為に二本捨てて証拠隠滅もしてる。
「墨袋は破れてないから高く売れると思うよ。血抜きはしたけど、任せていい? 水浴びしたいし」
「うん、任せて」
「お願い」
リュシーは手先が器用だから安心して任せられる。お裁縫も料理も、私より上手。ホント理想の女の子に育ってくれたな……まあ、そう仕向けたの私だけどさ。
水浴びの時間は色々と考えるのにピッタリ。
癖になってる独り言も聞こえないし。
「そういえば、女の子が好きって気付いたのいつ頃だろう。今まで何となく満足出来なかったけど、リュシーが居たからだよね」
大きめの胸を片方ずつ少し持ち上げて、濡らした布で拭く。ホント邪魔。
「あんな理想の女の子が目の前に居て、毎日一緒に過ごした訳だから仕方ないよ。素敵な姉であるよう頑張って来たけど……ごめんね。もう我慢出来ない」
計画は順調。間違いなくリュシーは私の事が好きで依存もしてる筈。それに、狩人として格好良いところ見せてるし……同じ狩人だったお父さんのこと憧れてたもんね。私達を一人で育ててくれたお父さんには心から感謝してるけど、死んで何年も経った。だから、もう、私の好きにする。
「媚薬を完成させて、初めて飲むお祝いのお酒に混ぜて……毒じゃないのは確認したから大丈夫。でも、幸運だったな」
リュシーが行商から偶然手に入れたらしい古書の中に挟まってた古い紙。其処には大昔の色々なヤバい薬の製法、その数々が記されていた。私に見せてくれたのは古代言語が読めないからだけど、それも幸運だったと思う。基本的にアレな方面ばかりだったから。でも、お陰で計画が早まった。
「最近は水浴びも一緒にしてくれないから、久しぶりにリュシーの身体を……ううん、油断しちゃダメ。最後の詰めを誤ったら最悪だもん。決行の夜までは優しい姉じゃないと」
酷い姉だと自覚してる。
だって血の繋がった妹を抱こうとしてるんだから。しかも媚薬を使って。
でも、きっと私は元々そんな人間。誰に対しても無理矢理は絶対しなかったのに。そんな昔も良かったけど、リュシーを抱いたら幸せで一杯になる確信がある。此れからは毎日毎日、ずっと一緒に寝よう。
沢山気持ち良くしてあげるよ。
「お姉ちゃん、今日村長さんから聞いたんだけど」
「なに?」
ご飯を食べながら、可愛い声に耳を傾ける。私はあまり喋らないから、殆どが聞き役。リュシーも慣れたもので、無愛想な相槌にも笑顔で返してくれた。
「王様が勇者様を探してるって。吃驚だけど、精霊様の御告げがあったらしいよ」
御伽噺を語るみたいに楽しそう。可愛い。
「ふーん」
「えっと、何て言ってたかな……勇者様は胸の上辺りに小さな紋章が現れて、凄い力に目覚めるんだって。ナイトメアン?のダンジョンから溢れて来る魔物から私達を守る為に戦うらしいよ。魔物なんて凄く怖いけど、きっと勇者様が助けてくれるよね。御告げだからきっと大丈夫!」
「ナイトメア級ね」
「あ、そうそう」
胸の上の紋章。まあ、あるね、私の身体に。
内緒にしてるから誰にも見つからない。嫌な予感だったけど、やっぱり当たった。昔から異常な力を自覚してたし、ありがちだ。ほんと勇者とかどうでもいい。面倒。そもそもナイトメア級のボスなら一年くらい前にしっかり脅してるから大丈夫なんだけど。
浅黒い肌した魔族の美人さん。背中に小さめの羽があって、何だか色気が凄かった。肌の露出も凄くて寒く無いのかなって。名前は確かアンデシュレンネ。まあ、レンネと呼んでくれとか言ってた。
でも、歳上お色気枠は好みじゃないから食指も伸びなかったな。最後辺りはこっちをお姉様とか言い出して鳥肌が立ったっけ。偶に行かないとダンジョンから出て来て会いに来そうだからウザイ。
兎に角、探すのはご苦労様だけど、それで許して欲しいかな。
私の生きる目的は、目の前に座ってニコニコ顔のリュシー。媚薬の材料も集まったから、精霊様に感謝します、一応。
「お姉ちゃんの胸に紋章があったりして」
え?
「……何で」
「……ふふふ! 冗談だよー。そうだったら素敵だなって」
「変な事言わないでよ。私はただの狩人」
「村一番のね! だって墨吐き兎なんて普通年に二、三度しか獲れないもん。お姉ちゃんって当たり前に狩ってくるから吃驚するのが大変」
格好良いとこ見せたくてやり過ぎたかな……あんなの幾らでも獲れるから。
「お父さんから習った事を頑張ってるだけだよ」
「うーん、お父さんが墨吐き兎を狩った事あったっけ?」
確か一度くらい……いや、無いかも。
「ほら、色々と教わって、組み合わせて、運が良いのも、あるし」
「お姉ちゃんて焦ると切れ切れの話し方になるよね」
「そんな、こと、ないけど」
「そうかなぁ」
無邪気な笑顔を見ると、益々気持ちを抑えるのが一苦労。綺麗な唇に指を這わせたい。息が出来ないくらいキスして塞ぎたい。でも大丈夫、もう少し。
「お祝いだけど、クウェルのローストでいい?」
「それは大好物だけど……狙って獲れる鳥じゃないよね? 大体高い木に住んでるし、魔物の一種だから危ないよ。市場で買ったら凄く高い……」
「一生に一度だし、リュシーをお祝い出来る家族は私だけだから何とかするよ」
「だからだよ! お姉ちゃんに何かあったら私はどうしたらいいの? お願いだから無理しないでって毎日言ってるのに」
クウェルの巣なら何箇所か見付けてるし、余裕なんだけどな。そう言えばアイツって魔物なんだ。まあ変にデカい鳥と思ってた。
「分かった。無理しない。他の獲物で我慢して」
嘘だけど。
「うん、勿論」
後は飲み易くて、媚薬と色の似てるお酒だ。まあ目星は付けてるし、味なんてリュシーに判るわけない。でも念の為確認しておこう。
「明日準備もあるし早く寝よっか」
「そうだね」
こんな姉妹の関係も明日の夜までだ。リュシー、ごめんね。
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