第6話 猫耳魔法少女

「んじゃーな、清隆に赤坂。帰りにラブホ行くんじゃねぇぞ」



 最後のチャイムが鳴ると同時に、俺は鞄を持って席を立つ。その時に一瞬望月に視線を向けるけど、いつも通りに姿勢よく座ってる後ろ姿が見えるだけで表情はわからない。

 まあ、もう気にする必要もないんだろうけど。



「うん。またねヒロ……ってそういえばさ、昼休み、望月さんとはなんの話しだったのかな?」

「あ、トモもそれ気になる! なんて怒られたの!?」

「怒られるの前提かよ。大したことじゃねぇよ」

「そうなのかい? 午後から何回か視線を向けてたから、何かあったのかと思ってね」

「目ざといやつだなぁ。ほんとになんもねぇよ。んじゃ」



 ホントの事を話す訳にもいかないから適当に返して教室を出る。まぁ、魔法少女とか言っても信じないだろうけど。


 って……ん? あれ? ここ、廊下だよな。なんで子供が? つーかチャイム鳴ったのに誰もいなくね?


 下駄箱に向かう俺の視線の先。そこには赤と黒のドレスを纏った小学生らしき女の子。目は宝石のように蒼く、髪は銀色に輝いていて、頭には猫耳のカチューシャが乗っている。そしてその小さく白い手に持った──



「魔法の杖か? ……っ!」

「君、魔法少女を知ってるのかニャ?」



 なっ! いつの間に目の前に!? 十メートルは離れていたはずだ。それに……その可愛さで上目遣いしながら語尾に【にゃ】だとっ!?



「どうなのかにゃ? 知っているのかニャ?」

「いや、知らない。毎週アニメで見てるからそう思っただけだ」

「……アレは私ちゃんも見てるニャ。CMカット高画質予約録画してBDに完全保存なんだニャ」

「俺もだ」

「仲間にゃ。ってそれは置いといて、知らないのならいいのニャ。私ちゃんはバイビーするのニャ」



 猫耳っ子はそう言うと俺に背中を向けて歩き出す。

 【ニャ】は語尾だけなんだな。「知らない」じゃなくて「知らにゃい」とかだったらもっと萌えるんだが……ってそうじゃねぇ! あ、あ、あっぶねぇぇぇ! あの子絶対に望月と同じ魔法少女だろ。

 え、なに? 魔法少女って一人じゃないの? もし知ってるって言ってたらどうなってたんだ?

 これ以上関わる前に逃げよっと……。


 そう思ってたのに──



「真鍋くんっ!」



 後ろから魔法少女に変身した望月が、俺の名前を呼びながら長くなった魔法の杖に乗って飛んできた。

 ああぁぁぁっ!! 知らないって言ったのにそこで名前呼んだら嘘がバレるじゃねぇか! つーか学校で変身して大丈夫なのかよ!?



「いきなり空間が存在固定されたから何かな? ってと思ったら……あなたは誰? それにその姿。もしかして……魔法少女?」



 望月が俺を庇うように目の前に立ち、猫耳っ子に手にした魔法の杖──名前なんだったかな? フェアなんとかタクトって言ってたような? まぁなんでもいいや。それを向けながら話しかける。

 なにやら殺伐とした空気が流れるけど、魔法少女同士って仲間じゃないの? みんなで力を合わせる朝魔法少女じゃないの? もしかして深夜放送向け魔法少女なの?

 俺がそんな考察を脳内で一秒にも満たない時間でしていると、猫耳っ子がやけに目をキラキラさせながら小さく口を開いた。



「…………可愛い」

「へ?」

「可愛いニャ! 魔法少女に変身する者の願望をそのままデザインとして反映する服を、そこまで可愛くする事が出来るなんてもはや才能ニャ!! そしてその杖! 可愛過ぎず無骨過ぎず、それでいてあざとくないスタイリッシュな形状! まさに王道魔法少女ニャッ!」

「ふぇ?」



 ……ほぉ。願望をそのまま……ね。へぇ〜。



「なぁ、も──」

「それ以上は言わないでっ! そして今はその名前で呼ばないでっ!」

「あ、はい」

「……って、なんで真鍋くんがこの空間で動けるの!?」

「そりゃ動けるだろ。何言ってんだ?」



 なんだよ。動いちゃダメなのかよ。不思議に思って説明してもらおうと望月の方を向くが、答えは別の方向から飛んできた。



「この空間は私ちゃんが固定したのニャ。存在固定って言うのは、指定した範囲のありとあらゆる物質、人、草や木に意識に至るまでの全ての存在を固定する力。思考も止まるから、解除するまで固定されていた時の記憶すら無いのニャ。ちなみに時間はとまらないのニャ。そして、この空間で動けるのは魔法少女だけニャ。………………な、なんで君は動けるニャッ!? 魔法少女知らないって言ったのも嘘ニャ!? 嘘ついたニャ!」



 いや、気付くの遅くね?




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