第6話 星暦554年 藤の月11日 いざ出発!(6)

「お、あれかぁ」

空滑機グライダーを清早の漠然とした指示に従って動かしていると、暫くして水平線の向こうに何やら点のような物が見えていた。


近づいていくと、それが段々形を成してくる。


「へぇぇ。

意外と大きいじゃないか」

近づいて明らかになた島の全容は、思っていたよりも大きかった。

北にある丘と山の間ぐらいな隆起した地形のせいで、空滑機グライダーから近づいた南側からでは反対側が見えない。


そのまま直進して進むと、やがて向こう側の海が見えてきた。

空滑機グライダーの現在の高さと速度を考えると・・・大きさとしては王都と近郊の村を合わせたぐらいという所か?


最初に近づいた南側の岸は砂浜になっていたが、北側はちょっとした山っぽい感じになっており、それがばっさり切れた崖になって海に落ちている。

「こちら側からの上陸は難しいな。東西はどうなんだ?」

南北より東西に長い形(というよりも、南東にちょっと斜めに伸びた感じか?)なのでまず西側をちょろっと飛んで見て回る。


南側からの砂浜が暫く続いた後に北側の山に変化していくという感じで、あまりどうという特徴も無い。


が。

小さな川が海に流れ込んでいるのを発見。

山から流れて来ているっぽい。

へぇぇ。

このサイズの山でも川が出来るんだ。

「川があるなんて、凄いじゃないか。

泉よりも綺麗にする手間が省けるんじゃないか?」

清早に声を掛ける。


「う~ん、まあねぇ。

でも、季節によってはこの川は水が涸れるよ?

一年中どんな季節でも流れ続けるほどこの山って水を蓄えてないから」

おっと。

そうなんだ。

川が季節によって涸れるとは知らなかった。


考えてみたら今まで実際の川ってあまり見たこと無かったからなぁ。

知識として『川』という物は知っていたが、どういう仕組みなのかは考えたこともなかった。


「川が涸れると言うことは泉も涸れるのか?」

季節によって水が無くなるというのはちょっと不便かもしれない。


「泉は地面の特定の地層に溜まった水があふれ出ているものだからね。

もっと長い時間を掛けて貯めているから、余程のことが無い限り涸れないよ。

まあ、一気に大量に水を汲んじゃうと、流れ込む水が追いつかなくって一時的に涸れるかも知れないけど」

ああ、なるほど。

温泉の地下水源と似たような物なんだな。


それなりに広さがある島だから、牧畜を飼うとなったら川に水がある季節はここら辺に放牧に来て、これが涸れる頃に泉がある辺へ移動すれば良いのかな?


まあいいや。

そういう農業的な事はプロに任せりゃあ良いんだ。


「ちなみに、清早が言っていた泉はどこ?」

西側を見終わったので空滑機グライダーを東に向けながら尋ねる。


「今のまままっすぐ進んだら見えてくるよ~」

とのことなのでそのまま進む。


面白いことに、北側の小山もきっちり真っ直ぐ島の半分を占めているとか丸く範囲が広がると言う訳では無いようだ。

場所によっては山がえぐれて平地になっている所があると思うと、反対に山岳部が南へ飛び出している場所もある。


そんな地形の不思議に思いをはせながら南東へ飛んでいたら、何かに光が反射した。

「うん?」


「あそこだね~」

どうやら、泉の水面に太陽の光が反射したのが目に入ったらしい。

ちょっと南にせり出した山に囲まれるような地形の真ん中にその泉はあった。

それなりに大きいな。

あまり『泉』というものに馴染みが無かったので、それこそ妖精の森の露天風呂みたいなもの(勿論木の浴槽は無いが)を漠然と想像していたが、それよりはずっと大きかった。


・・・と言うか、俺達の家の敷地ぐらいのサイズじゃないか、これ??

「泉ってこんなに大きいんだ?」


空滑機グライダーの前の宙に浮いている清早が肩を竦めた。

「これぐらいの大きさの池なんていくらでもあるよ?

川が流れ込むのではなく、地下水が湧き上がるのが泉。流れ出す先への高低差がそれ程無いから案外とここに水が溜まってるんだよ」


なるほど。

単に流れ込む川が無いだけの池だと考えたら、確かに俺たちが住んでいる村の端にも貯水池があって、それってこれよりも大きかったかも知れない。

あまり興味が無かったからよく憶えていないが。


取り敢えず泉から流れ出る小川にそって海岸まで戻り、そこから南東の島の出っ張りを確認して回る。


ふむ。

こちらはそれなりに平らなのに木が多いな。

考えてみたら、南側は平らなのにあまり木が生い茂ってなかったと言うことはそれだけ水が無いのか?


こちらの方が水が豊富にあるとしても、森を伐採して人間が住む場所を作るのは何か勿体ない気がするな。


こんなどこからも離れた島で木が生えて森になるのなんて凄く時間が掛りそうだ。

それを切って無くしてしまうのって何か・・・取り返しがつかないかも知れない感じ?


南の平地の辺に井戸を掘れるような地下水源がないか、清早に聞いてみっかなぁ。


島を中継地として開発していく際の流れなんぞよく分からないが、ここが上手く開発されたら俺の収入源にもなると思うと、色々と考えが浮かんでくる。


まあ、アレクやシャルロの収入源にもなるんだ。

1度王都に帰った後に、あいつらの実家の知り合いとかにも知恵を貰って、政府から派遣されるここの開発団(?)の手伝いにも手を上げてみるかな?

シャルロなんか、実家は領地持ちの貴族なんだ。

土地の開発のことなんかもよく分かっているかも知れない。


・・・とは言っても、由緒ある長く続く侯爵家だからなぁ。領地の開発なんて遙か彼方昔の話で、一から始める開拓なんかはあまりよく知らないか?

まあ、考えてみたら政府が派遣する開発団はそう言うのをよく知っているだろう。


・・・政府は開発団を派遣するよな??

中継地になる場所を発見した場合の権利についてはアレクがちゃんと文書化してくれたが、流れそのものはあまり聞いてないな。


まあ、なるようになるか。

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