第17話 依頼
王子のパレードが開始されるちょっと前。アルス王子の馬に乗る、巫女ソフィアは街の半分程を覆う魔力に気付き目を輝かせていた。
ソフィアは生まれた時からのスキル、先天スキルによってこの能力を得た。スキルの名は魔眼、このスキルは相手のMPまたは魔力に関係するステータスを肉眼で見る事が出来るという物なのだが、そのせいでソフィアは巫女に祀り上げられ更にはそのせいで怖がられていた。
彼女の魔眼は常時赤く光る。アルス王子達はその姿を見て怯えなかった。その事で少し巫女ソフィアは目を輝かせたがアルス王子の魔力を見てソフィアはがっかりしたのだ。
ソフィア達は信仰強国シュミットから内緒で外出をしていた。それはソフィアが神託を得たからである。その内容はアルサレムであなたを助けてくれる存在がいるとほのめかす物だった。そしてソフィアはアルス王子が助けてくれると思っていたがとてもじゃないが強さを感じなかったソフィアはがっかりしてしまったのだった。
だが今、正に街を覆うほどの魔力を魔眼で見て、期待を胸に街に入っていくのだった。
アルス王子の帰還パレードが始まった。
僕らも王子の通る道の見える位置へと移動する。城への一本道をアルス王子達は通るようなので正門から入ってくるようだ。
「みんなアルス王子を称えているのね」
「今回の功労者筆頭になっているらしいですよ」
「ほ~、アルス王子って強いんですか?」
メリアお母様が街中の人達の顔を見てそう話すとデシウスがアルス王子の単純な強さを聞いてきた。
「ツヴァイ様がいなくなったら実質この国のトップではないかしら?」
「ん、たぶん第一騎士団長のクァンタム様の方が一番だと思うよ」
「という事はその二人が今のトップ候補ということですね」
デシウスはララさんとシリカさんの考察を聞いて話す。シリカとララが言う、二人も強いがエルエスも相当な者だ。たぶん一位争奪戦に名乗りを上げられるほどには。
ただデシウスはその上をいっていてもおかしくはない。あの鎧は相当性能の良い物だ、大剣もしかり。その二つの本当の能力を覚醒した時、人族では到底かなわないだろう。その上を行くジーニはやはり化物である。
「王子様が帰って来なすった!!」
「アルス様~」
そんな声が正門の方から聞こえてきた。僕たちがいるのはお城よりなので相当な歓声であるのは確かだ。
しばらくするとその歓声の波が近づいてくる。するとアルス王子が肉眼で見える範囲まで来ると同じ背に乗る人と目があった。
その人は僧侶のような服に外套を被り身を隠している。だがその目はしっかりと僕達を見ていた。
その目から放たれる視線に僕は目を離せずにいた。すると目線を外さずにアルス王子と言葉を交わし合い通り過ぎていった。
パレードが終わるとすぐに王城より街を見渡せるテラスからアルサレム王が顔を出し拡声の魔法でお言葉が伝えられた。
「皆、王子の帰還を祝ってくれてありがとう。王子も大変喜んでいる」
王のお言葉はそう始まり更に伝えられていく。
「アドスバーンとの戦争も王子のおかげで終結した。これからは皆を騒がせることも少なくなるだろう。してアドスバーンと私アルサレムによってアステリアが王国になる事も知っていてくれているだろう。これはアドスバーンからの提案で私がお受けした提案であった。アドスバーンは大変平和的な考えの持ち主、皆も人種差別をなくせとは言わぬが共にこの世界に生きる者として嫌う理由を見つけるのではなく仲良くなる理由を共に見つけていこうではないか」
アルサレム王がそう話すとテラスの奥から王子が王の隣へと並んだ。
「堅苦しい言葉はお終いにしようか。今は王子の無事を祝ってほしい」
「王子~」
「王子バンザ~イ」
「アルス様は平和の使者だ~」
王の合図と共に国民から暖かい声が王子にかけられる。王子は少し不本意ながらその声を聞きはにかむ。
「皆さんありがとうございます。今お父様が言ったように私も差別のない国を目指したいと思っています。今回の戦争終結がいいきっかけになればと願っています。どうかこれからもこの国を支えていただきたくお願います」
皆、アルス王子の謙虚な言葉に感動して更に歓声があがる。アルス王子の言葉に本心なのだろう。昔からツヴァイに憧れていたアルス王子は平民とか貴族と言った考えには疎い。その為何者にも分け隔てなくとてもいい青年に育っているのだった。
「我が息子ながら素晴らしいな・・・皆すまんな少し親バカがすぎた。改めて王子の帰還を祝ってくれてありがとう。皆も元気にそして健やかに過ごせるように」
王の言葉に少しの笑いと感動でざわめいた。テラスから王と王子が姿を消すとみんな自分の仕事に戻って行った。
「人族にも素晴らしい国があるのだな」
「・・・ええ、アルサレム王は素晴らしいのだけどね」
「ん、まだまだ少数派」
デシウスの言葉にメリアお母様とララさんが答えた。デシウスは外の国を知っている為単純に褒めていたのだが二人には少し嫌味にも聞こえ答えが少し濁ってしまった。
「それより!シリカ。ジーニ様を独り占めはダメよ!」
「ちょっとデシウス!」
「アイ?」
ずっとシリカさんに抱かれていた僕をデシウスが奪う。急な事で僕は反応しきれずにいた。
スイッチ切り替え早いよデシウス。
「ちょっとそこの赤子を抱いているお方!」
「はい?」
お城の方から歩いてきた誰かの侍女なのだろう、メイド服を着た女性がデシウスを呼び止めた。
「何でしょうか?」
「ダ?」
何だろうか?、確かこの侍女さんさっきのパレードにいたよな~。と思っていると、
「お城であってほしい方がいるのですが一緒に来ていただくことは可能ですか?」
「今ですか?」
「どうしましょうか?」
「ん、予定はないから大丈夫」
メリアお母様はみんなで見合い相談をしていると侍女がコホンと咳払いして。
「あなただけで結構です。あとの方々は席を外してください」
侍女の言葉に少し不機嫌になるが王子の知り合いならば大丈夫だろうと思いデシウスは了承してお城に向かった。
お城に着くと僕は首を傾げる。何で僕まで来なくちゃいけないの・・・と。どうしてもデシウスが僕を離してくれないので侍女も諦めてしまったようだ。
すぐに僕たちは侍女に連れられ二階の部屋へと案内されて入っていく。
するとそこにはあのアルス王子の後ろに乗っていた僧侶の女性が立って待っていた。
「あ~来てくれたのですね。ああ、神よ。感謝いたします」
「む、信仰強国シュミットか」
僧侶の所作にデシウスは見覚えがあり、そう呟いた。僧侶は手のひらを天にむけ両手を広げ、そこからまっすぐと頭の上で揃えて顔の前で合掌の形に流れるようにやっていた。
「知っていてくれたのですね。よかった」
「それで?ご用件は?まさか私を取り戻そうとロクーデに何か言われたのでは?」
「ロクーデとは誰だか知りませんが・・・・」
デシウスの早とちりで僧侶が疑問符を投げかけた。するとすぐにデシウスは言葉をにごして僧侶に本題に入るように告げた。ロクーデって信仰強国シュミットにいるのか。なるほどお金かなんかで信徒になっているんだな。
「・・・あなたを呼んだのは他でもありません。私を助けてほしいのです」
「助ける?何から?」
「信仰強国シュミットからです」
「!?」
デシウスは驚愕した。信仰強国シュミットの僧侶がその信仰強国シュミットから守ってほしいと話すのだそれは驚愕するほかない。しかしなんでデシウスを選んだのか、この城にはほかにも有力な、それこそ王子に頼めばよかったじゃないかと。
「何故私に?」
「あなたから他にはない強さを感じたのです」
「は~」
言うまでもないが僧侶・・・巫女のソフィアが見ているのはジーニの魔力。ジーニを抱いていたデシウスが間違えられているのだった。
「ある神託が下ったのです。私は命が狙われ、それから守ってくれる人がこのアルサレムにいると」
「ほ~、そのような神託はしょっちゅうあるのですか?」
「いえ、今回が初めてです」
「「・・・・」」
僕とデシウスは無言で見合う。
「それで私に話が来たという事ですか?」
「そうです!、その類まれなき魔力に惹かれました。私の眼は魔眼なのです。その者の魔力が見えるのですがあなた様からはこの街を覆うほどの魔力を感じ、あなた様だと思いお声をおかけしたのです」
「「・・・・」」
再度僕とデシウスは顔を見合わせる。
「ジーニ様。この子、私とあなた様を間違えているようですよ」
「アイアイ・・」
僕と同じ考えのデシウスはそう呟く。どうしたものかと思いつつもこんだけテンションあげて喋ってもらっているので僕はデシウスに親指を立てて受けるようにと合図を送った。
「・・・あい分かりました。その話お受けいたします」
「本当ですか?」
「しかし私は何をすれば?」
「護衛です。私はシュミットへ帰ります。その護衛をお願いしたいのです」
「シュミットへ!?」
更に更に、僕とデシウスは顔を見合わせる。命を狙われていると言っていたのにシュミットに帰ろうとしているのだ。それは驚く。そして疑問をそのまま投げかける。
「何故狙われている国へ?」
「・・腐っていても私の国なのです」
「・・・いつ頃出る予定なのですか?」
「馬車を手配して頂くまではここからは出られません・・・ですから、三日ほど」
「そうですか・・・」
デシウスは少し嫌な顔をする。このままではジーニと離れ離れになってしまう為である。その間はいつもジーニはシリカにべったり・・・それを思うだけで胸が引き裂かれて行く。それほどデシウスはジーニに夢中である。
「ジーニ様。それでいいのですね?」
「アイ」
デシウスはジーニに問いかける。僕は親指を立てるとデシウスは目を瞑り開くと僧侶へといい返事を返した。
「了解しました。では三日後に城に来ればよろしいか?」
「ありがとうございます。そういえば名乗っていませんでしたね。私は信仰強国シュミットの現巫女ソフィアです」
「!?」
ここへきて一番の驚きを見せたデシウス。それもそのはず信仰強国シュミットの巫女と言えば引き籠りで有名なのだ。一日に一度テラスより顔を見せればいいほどの引き籠りである。もちろんこんな間近で顔を見ることなぞ叶う事はない。
「では三日後に」
最後にそう言って巫女ソフィアは席を外し部屋の奥へと歩いて行った。
僕たちはすぐに城を出て屋敷に帰るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます