第13章 帝王との戦い

 アレク君とその側近兵が加わったことで帝王の居城までの道のりと何処から攻め入れば一番安全なのかが分かり、私達は彼が描いてくれた建物の地図を基にどこに兵を配置するかを考えそしていよいよ乗り込む。


「いよいよだね。皆準備は良い?」


「こちらはいつでも大丈夫ですよ」


アオイちゃんの言葉にハヤトさんが力強く頷き答える。


「それじゃあ……行くよ!」


静かに開戦を告げると私達はアレク君が教えてくれた道を通り城の中へと乗り込んでいった。


「私達の事知られているから警戒していたけど……兵士達の姿がどこにもないね」


「罠が仕掛けられているかもしれません。姫、気を付けて進みましょう」


不気味なほど静まり返った宮殿の回廊を歩きながらアオイちゃんが言うとイカリ君がそう声をかけてくる。


そうして私達は兵士と一度もすれ違うことなく玉座の間へと向かっていった。


「ここまで人がいないとはおかしい。このまま玉座の間へと向かうのは危険だと思うが」


「そうだね。兵士が1人もいないなんて何だか変だもの」


キリトさんが待てと言った感じで足を止めるとそう話す。それにアオイちゃんも考え深げな顔で呟いた。


「そう思わせる事こそ帝王の作戦かもしれませんよ。ここで別の道を行き玉座の間へと向かったとしましょう。そうすると兵士達に周囲を取り囲まれ一斉攻撃を受けるかもしれません。姫様、ここはこのまま進軍を続けた方のが安全かと思われますよ」


「こいつの言うことは信用できない。俺もキリトの意見に賛成だな」


トウヤさんの言葉にユキ君がきつい口調で言い放つ。


「いや、トウヤの言う通りだよ。玉座へと続く道は他にもあるけどその道はとても障害物が多くてどこに兵士が潜んでいてもおかしくはない。この道は開けているからもし兵士が潜んでいたとしても直ぐに見つけられる」


「この城の中で生活していたアレクがそう言うのならば間違いはないでしょう。このまま進みましょう」


アレク君が首を振るとそう説明する。それを聞いたハヤトさんがアオイちゃんへと声をかけた。


「そうだね。行こう」


「「……」」


彼女も頷き私達はこのまま突き進む事となったのだがユキ君とキリトさんは腑に落ちないって顔をしている。まあ、まだトウヤさんの事信じれないんだろうけど、でもこのまま引き返して別の道へと進むのも危険だと思うし同じ危険なら真っすぐ突き進んだ方が安全だよね?


私がそんなこと思っている間に玉座の間へと到着する。アオイちゃんが小さく喉を鳴らすと扉に手をかけ開け放つ。


扉の先は広い空間があり赤い絨毯の道を歩いていくと玉座の前に背後を向いて立っている帝王と思われる人とそのわきには四天王がいた。だけど四天王達の雰囲気がこの前にあった時とずいぶんと違う気がするのだけど気のせいかな?


「ここまでよく来る事ができたな反徒ども。そして瑠璃王国の姫よ。だが貴様等の命運もここまで。貴様等の命ここで尽き果てようぞ」


「父上……」


こちらに振り返ったルシフェルさんが言い放つとアレク君が一歩近寄る。


「アレクシル。反徒どもとともに行動するとは国に仇なす行為だぞ。今すぐこの娘を切り捨てるならば、お前のした行いを許してやろう」


「父上……ぼくがアオイに刃を向けることはないよ。ぼくが刃を向けるのは……ルシフェル、貴方だ」


息子へと向けて最後の情けだと言いたげに話す帝王へと彼は悲しげな瞳でそう言い放ちロングソードを構えた。


「愚か者め。我に歯向かうならば仕方ない、瑠璃王国の姫もろとも殺してくれる。四天王よそいつらを殺すのだ」


「「「「御意」」」」


右手を掲げて命令を下すルシフェルさんの言葉に四天王が返事をするとそれぞれ武器を手にこちらへと向かってくる。何だか皆さんの目の色が赤く光っているみたいに見えるのは気のせいなのだろうか……嫌な予感がして私は左手にはまる腕輪を握りしめ祈りを込めた。


「!? その腕輪は……そうか、女。貴様が……か」


「え?」


帝王が何か言っているのだが声がよく聞こえなくて私は疑問符を浮かべる。


「その腕輪を持ちし者は危険だ。四天王よまずはその女を消し去るのだ」


「「「「御意」」」」


ルシフェルの瞳も赤く光ったように感じたとたん四天王達が一斉に私の方へと向かってきた。


「レナ」


「きゃっ……」


アオイちゃんが叫ぶと皆が私を守ろうと駆け寄って来てくれているのが見える。だけどシエルさんの大剣が私に振り下ろされる方が早くて私は斬られると思い目を固く瞑る。


「……これが腕輪の力か。忌々しい」


「レナ、大丈夫か」


「う、うん」


しかし私を守るように腕輪が光り輝き彼の剣を弾く。その様子に憎々し気に帝王が呟く。


ユキ君が駆け付けてくれると声をかける。それに私は答えた。


「レナに手を出すなんて許せない。ルシフェル、貴方が殺したいのは私のはず。なら、レナに手を出さないで」


「瑠璃王国の姫とその女が我を滅ぼす。ゆえに貴様等を消し去る。その腕輪さえなければ貴様等など簡単に殺せる。四天王よ、邪魔する奴等を排除せよ」


「「「「御意」」」」


アオイちゃんがきつい目で睨むと弓を構えて引き絞る。ルシフェルさんが言うと再び四天王が襲い掛かって来る。


やっぱり四天王の様子がおかしい。少し前まで話していた彼等と何かが違う。まるで人形の様に帝王の言いなりになってるような。……でもなんで?


「くっ」


「ユキ君」


シエルさんの攻撃を必死に受け止めるユキ君。背後にいる私を助けようと頑張ってくれているようだがこのままじゃ危ない。


「ばか、お前は下がってろよ」


「私が困ってたらユキ君が助ける。ユキ君が困ってたら私が助けるそう言う約束だったよね」


彼の言葉に私は穏やかな口調で言うと腕輪に力を込める。するとユキ君の体にピンクと黄色のきらめきが入っていった。


「勝手にしろ。だけど俺の後ろから絶対に出るなよ」


「うん」


それに好きにしろって感じで彼が言うので私は力強く頷く。


「アオイ下がってください。……くっ」


「ハヤトさん」


ジャスティスさんの両手剣がアオイちゃんを狙う。それに気づいたハヤトさんが彼女をかばうように前へと立ちふさがると受け止める。しかし思いのほか強いその衝撃に体が一旦沈む。


「この前戦った時よりもさらに強くなっている。こんな短期間でこれほど力が変わるものなのでしょうか?」


「だけど強くなってるんだから、強くなれるんじゃないの。アゲハ気をつけろよ」


イカリ君がアイク君の攻撃を受け止めてははじき返しながら言う。それにキイチさんが答えると背後にいるアゲハさんへと声をかける。


「……おかしいの」


「何が?」


アゲハさんが信じられないって顔で呟いた言葉にアオイちゃんが尋ねた。


「さっきから私の『魅了』を使っているのに全然効かないのよ」


「それってどういうこと?」


冷汗を流して言われた言葉に彼女がさらに不思議そうにする。


「つまり、魅了の術が通用しないってことは、何か別の力が働いてるって事よ」


「それって…どういう」


「くっ……アオイ。逃げて下さい」


アゲハさんの言った言葉の意味が解らず聞き返した時、ハヤトさんの切羽詰まった声が聞こえてきた。


「へ?」


「アオイちゃん!」


ハヤトさんをなぎ倒したジャスティスさんがそのまま背後にいるアオイちゃんへと突っ込んでくる。彼女は突然の出来事に動きが取れない様子で私はとっさに駆け寄りアオイちゃんをかばうように前へと立ちふさがった。


「っ……」


容赦なく武器が振り下ろされる様子に私は固く目を閉ざし斬られることを覚悟する。


「え?」


しかしいつまで経っても痛みも何も感じなくて目を開いてみると、そこには私の前でナイフを構えジャスティスさんの攻撃を受け止める男の人の姿が。その人の姿を見た途端私は言葉を失った。


だってそんなはずはない。彼がここにいるはずは……でも見間違うはずもない彼は――――


「仁さん?」


「申し訳ございませんお嬢様。俺は仁ではありません」


ずっと会いたいと願っていた人そして二度と会えないと思っていた人が目の前にいる。だけど彼がとても言いにくそうにそして申し訳なさそうな顔で謝る。


「へ?」


「俺はマサヒロと申します。以後お見知りおきを」


その言葉の意味が解らず不思議そうにしていると彼がそう言って答えた。瞬間目の前に2人の男性が駆け込んでマサヒロさんを手助けする。その二人の姿に私はまたまた自分の目を疑う。


「雪彦さん……聡久さん?」


「お嬢様申し訳ございません。俺は雪彦ではありません。俺の名前はタカヒコです」


「そんでオレはその兄のサトルだよ」


またまたずっと会いたくて仕方なかった人達が目の前にいる。だけど2人がとても申し訳なさそうな顔でそう言って笑った。


「えっと。どういう事ですか」


「誠に申し訳ございませんが今はご説明している時間は御座いません」


私は頭が混乱してきて尋ねるとマサヒロさんがそう言ってジャスティスさんへと蹴りを入れる。それをかわすため彼は一旦背後へと退くが再び武器を構えて駆け込んできた。


「ま、マサヒロさん。危ないですよ。怪我したりしたらいけないのでやめて下さい」


「……本当に貴女はルナ様そっくりだ。大丈夫ですよ。俺はこれくらいじゃ怪我をしませんし、死んだりしません」


「へ?」


私は慌てて声をかけると彼が柔らかく微笑む。困ったような顔で言われた言葉の意味が解らなくて不思議そうにしていると私の前にまたまた人が立ちふさがった。


「レナ。大丈夫。戦いは彼等に任せておきなさい」


「怖かったでしょ。もう大丈夫だからね」


そう言って優しく笑いかけてくれる2人は……もう一度抱きしめてもらいたい、また優しく頭を撫でてもらいたいと願っていた私の大好きな……


「お父さん……お母さん……」


「ごめんね、レナ。俺は君のお父さんではない」


「私も貴女のお母さんじゃないの」


「で、でも見間違えるはずなんかないです。貴方達はお父さんとお母さん……ですよね」


申し訳なさそうに謝る2人の言葉を信じたくなくて私はそう尋ねた。


「俺はカイト。この帝国に住む貴族だ」


「私はサキ。カイトの妻よ」


「カイトさんとサキさん?」


2人の言葉に私は理解が追い付かなくて疑問符を浮かべる。


「レナ、大丈夫」


「怪我はしていないな」


「っ? お姉ちゃん……お兄ちゃん」


その時私の両肩に優しい温もりを感じて振り返るとそこには私が会いたくて、そして優しく名前を呼んでもらいたかったお兄ちゃんとお姉ちゃんの姿があった。


「わたしはイヨよ。でも貴女の本当の姉ではない」


「ぼくはお兄ちゃんじゃない。ぼくはマコト。イヨの兄だ」


2人がそう言うのだけどますます理解ができなくなってしまい困惑する。


「えっと……貴方達は?」


「これはご説明もなく大変失礼しました。瑠璃王国の姫アオイ様」


突然現れた彼等にアオイちゃんも驚いて尋ねた。それにマサヒロさんが謝罪する。


「私のことを知ってるの?」


「はい。もうずっと前から……貴女が御父上を失くされた11年前からと言えばいいでしょうかね」


彼女が驚き更に尋ねると彼がそう話した。


「それはどういう事?」


「……レナ様。貴女に暗い顔は似合いませんと以前申し上げましたよね」


「へ……それじゃああの仮面の人はまさかマサヒロさん?」


アオイちゃんの問いかけには答えずに私へと声をかけるマサヒロさん。その言葉にここに来る前に出会った仮面の男の人のことについて思い出す。


「はい。あの時はああするしかありませんでした。貴女をこの世界へと送るためにとても怖い思いをさせてしまったことは謝っても謝り切れません」


「それじゃああのトラックは……」


彼の言葉にここに来る前にトラックに撥ねられたのはまさか関係があるのかと聞きたかったがその時四天王達が再び攻撃してきた。


「ゆっくり話してあげたいんだけどね。それはこいつらの目を覚まさせてからの方がよさそう、だ」


「目を覚まさせるとはどういう事ですか?」


その様子にサトルさんが言うと長剣で相手の剣を受け止めはじき返す。その言葉にイカリ君が尋ねる。


「それはね、四天王は邪神に操られてるんだよ」


「ルシフェルに取りついた邪神を倒さないとこの国の未来はないんだよ」


「!? 誰」


またまた新しい人物の登場にアオイちゃんが驚いて目を見開く。いつの間にかカイトさんの前には茶色い髪の男の子と金髪の女の子がいて今まで何処にいたのだろうと不思議に思う。


「ボクはケイト」


「ワタシはケイコ。お父様が作ってくれたからくり人形よ」


顔のそっくりな男の子と女の子がお互いの手をつないで自己紹介する。


「それじゃああんたもパペット使いって事か」


「君みたいにぬいぐるみではないがね。でもまあ、人形を操るって言うのは同じかな」


キイチさんの言葉にカイトさんが小さく笑って答えた。


「そんな事よりレナ。貴女の持っている腕輪を天へとかざすのよ」


「こ、こうですか?」


イヨさんの言葉に私は腕輪をつけている手を空へと突き上げる。


「そして彼等を助けたいと強く願うんだ」


「はい……」


マコトさんの言葉に従い祈りを捧げた。すると腕輪から7色の輝きが放たれ四天王達を包み込む。


『!?』


光に包まれた四天王達の瞳から赤い光が無くなり、彼等は自分達の身に起こったことが分からないと言った顔で突っ立ていた。


突然現れたお父さん達にそっくりな人達の手助けにより四天王達の目を覚まさせる事ができこれで形勢は逆転するのかな。


しかし邪神とか11年前の出来事とかって一体? 目の前で何が繰り広げられているのか理解が追い付かないまま戦いは続いた。

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