第45話 町を巡る

神礼祭しんれいさい当日。

アクスはヘルガンと共に、町へ出かけた。

ヘルガンとの約束である、メイド喫茶へ行くためだ。

町の中は、祭りで大きくにぎわっている。

普段よりも多い人の数が、それだけこの祭りを楽しみに待っていた人が多いという事だ。

「着きましたよ、メイド喫茶」

派手すぎず地味すぎず、いたって普通な店に、“メイド喫茶”と書かれた大きな看板が掛けられていた。

「以外と普通だな。てっきり、ヘルガンがいつも行く店みたいに派手な店だと思った」

「大人の店とは違いますから」

ヘルガンは一足先に、店へと入っていった。

あとからアクスも続いて入ると、早速さっそくメイドが出迎えた。

「お帰りなさいませ、ご主人様!」

メイドの対応に戸惑とまどうアクス。

「おいヘルガン、メイドってこんなんだっけ?」

「そうですよ!これでいいんです!」

城で見たメイドとの違いに、アクスは驚いていた。

その横でヘルガンは、楽しみにしていたメイド喫茶にすっかり浮かれていた。 

「どうぞご主人様、こちらの席へどうぞ!」

「はっ、はい!」

二人は奥の席へと案内され、メニューをながめた。

「意外と繁盛はんじょうしてるんだな」

「意外とは失礼な」

「いやだってよ、見ろよこれ」

アクスは、料理の値段を見せた。

「オムライスが二千にせんライラだってよ、冒険者ギルドの登録料と同じだぞ」

普段の外食の時よりも、倍以上の値段だった。

「その横を見てください、“メイドによるサービス付き”って書いてますよ。値段に見合ったサービスしてくれるんじゃないですか?」

サービスの内容が気になり、ヘルガンは近くに居たメイドを呼んだ。

「ご注文ですか、ご主人様」

「あの、このサービスってのはどういう?」

「そ・れ・は…ヒミツです!」 

「聞きましたかアクスさん!これはテンションが上がりますね!」

「俺はサービスよりも質と量だな。とりあえず、オムライス一つとソフトクリーム一つ」

「あっ、僕もオムライスで!」

「かしこまりした!」

メイドが下がった後、二人は食事が来るまでのあいだ、店の中を興味深く見ていた。

「おおっ!見てくださいよ、メイドさんにあ〜んしてもらってますよ!」

「別にどうでもいいだろ」

「良くないです!なんでアクスさんは女性に関心が無いんですか!」

「別に興味無いわけじゃないぞ」

「へ〜そうなんですか?ちなみに、どんな所に興味持ってます?」

「強さ」

「だと思いましたよ!」

「お待たせしました〜!」

二人のメイドが、料理を持ってやってきた。

その二人のメイドを、アクスはやけに見つめていた。

「どうしたんですかアクスさん?ようやく女性への恋に気づいたんですか?」

「いや違う。お前らリーナとユリだよな?なんでこんな所に」

「え!?」

メイドの二人とヘルガンは、声をそろえて驚いた。

「何を言ってるんですかアクスさん!あの二人がメイドさんな訳がないでしょ!」

ヘルガンがそれを否定する。

それはそうだ。そもそも見た目がまるで違う。

「ち…違いますよ〜!私はユリじゃなくて、マユリって言いま〜す!」

否定するメイドの顔には汗がれており、それを見たもう一人のメイドが、続けて否定する。

「も〜う!ご主人様ったら冗談がお好きですね!」

「いや、なにしてんだよリーナ」

「リーナじゃないです、マリーって言います!きらりん☆」

とてもリーナとは思えない演技をする。

しかしアクスはそれを認めず、しつこく問いかける。

「もうっ!しつこいですよご主人様!そんな悪いご主人様には、おしおきしちゃうぞ!」

アクスのくちびるに指を押し付け、顔を近づける。

大胆な行動に、他の二人が顔を赤くする。

しかしとうのアクスには効果が無かった。

それどころか、近づいていきたメイドのにおいをぎだした。

「やっぱり、この甘いにおいはリーナだ」

「ぎゃあああああ!!」

思いっきり、グーでアクスを殴った。


「痛ってぇなぁ…普通殴るか?」

「正体バラされた上に、急ににおがれたら殴るわよ!!」

アクスの言った通り、メイドの二人はリーナとユリだった。

先ほどまで姿は変装によるもので、正体がバレた今は、変装をいていた。

「それにしても、ユリさんはともかく、なんでリーナさんもメイド喫茶で働いているんですか?」

「私がお願いしたんです」

「へー、ユリに対しては優しいんだな」

「うっさいわね!またなぐられたいの!?」

「それはやだ。それよりオムライス食べたい」

「それじゃあ、私達がサービスしますね!」

ユリはケチャップを持ち、ヘルガンのオムライスにハートマークを描いた。

「もえもえキュン!」

おまけに、ヘルガンに向かって手でハートを作った。

「おおっ…これが、メイドサービス!」

「どうぞ召し上がれ!…先輩も、アクスさんのオムライスにやってください」

「はあっ!?あんたがやってよ!」

「駄目ですよ、リーナさんもメイドとしてサービスしないと」

ケチャップを押し付けられたが、リーナはまったく動けなかった。

何度もアクスを見ては、顔が赤くなって目をそむけてしまう。

リーナを応援するユリと、笑いをこらえながら見守るヘルガン。

二人はリーナに期待していたが、アクスが場をぶち壊す。

「オムライス冷めちゃうから、ケチャップ貸して」

あまりにもひどい態度に、リーナがキレた。

「あんたねぇ!!ぶっ殺すわよ!?」

「なんで怒るんだよ、ケチャップかけるのいやじゃないのかよ!」

「そこが問題じゃあないのよ!」

激しく怒るリーナをなんとか三人で止め、食事を続けた。


「お味はいかがですか?ご主人様」

ヘルガンは非常においしく食べていた。

しかしアクスは、口に入れては、何度も首をひねっていた。

「おいしいけど、やっぱり二千ライラは高いな」

「メイドさんのサービス付きですからね」

「ケチャップかけただけだろ」

「充分でしょ」

すっかりメイドにメロメロにされたヘルガンは、何を言ってもメイドを肯定した。

さすがのアクスもあきれて、それ以上は何も言わず、食事を続けた。

「それにしても意外ね、あんたがこういう店来るなんて」

「ヘルガンにさそわれたんだよ」

「私はてっきり、サリアと一緒にいるかと思ってたわ」

「ああ、夕方から一緒に祭りに行く約束してるぞ」

「え?」

冗談のつもりだったのか、発言したリーナ本人が驚いていた。

「ええっ!?デートするんですか!」

「デート?」

アクスはいまいち理解してないようだった。

かき氷を食べていたジベルが、アクスに説明した。

「デートってあれですよ、男女が二人きりで遊びに行くやつですよ」

「ああ…なるほど」

あまりにも無関心なアクスに、ヘルガンは悔しさのあまり不貞腐ふてくされて、机に顔を伏せて泣き始めた。

「どうしてアクスさんはそんなにモテるんでしょうね……」

「四六時中、頭ピンクの奴と比べたらそりゃモテるでしょ」

リーナの辛辣しんらつな言葉に、ヘルガンが顔を上げる。

「へぇ……つまり、リーナさんはアクスさんがかっこいいと、多少なり思ってるってことですか」

「はあっ!?なっ…なんでそんな話になるのよ!」

すっかりメイドだということを忘れ、こぶしを振り上げる。

しかしヘルガンはそれを無視し、アクスに話を振る。

「アクスさんはどうです?リーナさんのこと好きですか?」

アクスがその問いに答えようとすると、リーナがヘルガンをなぐり飛ばした。

「いい加減にしろやてめぇ!ぶっ殺してやる!!」

殺意をあらわに、ヘルガンに今にも飛びかかろうとした。

「ダメです!!先輩、やめて!!」

ユリが背後から動きを抑えるが、今にでも拘束こうそくから抜けそうだった。

「ヘルガン、店出るぞ!」

アクスがヘルガンを背負い、すばやく会計を済ませて店を出た。

店を出た直後、リーナが後を追って出てきた。

「二度と来んなカス!!」

町中まちじゅうに伝わるほどの大声で叫んだ。

アクスはこれ以上リーナを怒らせないために、大急ぎでリーナの視界から消えていった。


しばらくして、ヘルガンが目を覚ました。

「う〜ん……ここは…?」

「町のベンチ。お前なぁ…リーナ怒らせたらヤバイの知ってるだろ」

「いや〜…でも、あの反応を見たら、いろいろ気になりません?」

「………?いつも通りのリーナだったろ」

「………アクスさんのそういうところ、たまに腹たちますよ」

「そうなのか……ごめん…」

当のアクスは、本当にわけがわからず、ヘルガンの言葉に心を痛めた。

「じょ……冗談ですよ!」

へこんだアクスを見て、あわててごまかした。

「あっ…俺、そろそろサリアとの約束の時間だから行かなきゃ」

「ああ、そうですか…じゃあ僕もこれで…」

ベンチから立ち上がった瞬間、激しい頭痛がヘルガンを襲った。

「うっ!……これは」

「大丈夫か!?また、未来を見たのか?」

「えっと……まぁそんなとこです。でも気にしないでください、大した事じゃないので!」

「そうか?それならいいけど、何かあったら教えろよ」

問題無いと判断し、アクスはサリアとの待ち合わせ場所へと向かっていった。

ヘルガンは、アクスを笑顔で送り出した後に、再びベンチに座りこんだ。

体がちぢこまり、にぎりしめた手から汗がにじみ出る。

その様子を見たラックルが、ヘルガンのふところから顔を出す。

「きゅ〜……」

「……大丈夫だよ、ラックル。ただ…少しだけ付き合ってもらっていいかな?」

ヘルガンの顔は白く、生気が無い。しかし、目にはただならぬ意志が見えた。


そのころ、町から離れた森の中で、暗き影が町へと迫っていた。

大量の魔物。しかも魔物達は、強力な武具を身に着けている。

町の近くまで来た魔物達は、数を分けて、同時に襲いかかろうと企んでいた。

しかし、突然の炎がそれをはばむ。

森に火が燃え移り、多くの魔物が焼け死んだ。

生き残った魔物達は、森を出た。

森を出た先には、ヘルガンが待ち伏せしていた。

のこのこと出てきた魔物の急所を、短剣で的確に突く。

ヘルガンに気が付いた魔物達が、一斉に襲いかかった。

「ラックル!」

「きゅい!」

ラックル能力で、ヘルガンは未来を見る。

それで敵の攻撃をかわし、一体ずつ倒していった。

しかし、ヘルガンは弱い。

始めの奇襲は上手くいき、未来視による戦闘も悪くなかった。

しかし本人の強さが、あまりにも敵のレベルに追いついていなかった。

とうとう傷を負い、その傷による一瞬の遅れで、魔物の攻撃をもろにくらった。

鋭い槍が、脇腹わきばらえぐった。

痛みで、その場にひざを突く。

立ち上がる事も出来ないヘルガンを見て、魔物達が気色きしょく悪く笑う。

ヘルガンは途切れゆく視界の中で、先の未来を見た。

何を見たのか、口角を上げて笑い、その場に寝そべった。

その態度に腹を立て、魔物がとどめを刺そうとした。

その槍が届く前に、魔物が吹き飛んでいった。

ヘルガンが見た未来は、アクスの到来とうらいだった。

「ヘルガン、生きてるよな!?少し待ってろ!」

「ははは……すみません…」

アクスは魔物を次々と仕留め、数を減らしていく。

雑魚ざこはすべて片付けたが、残っていた魔物達が少々厄介だった。

アクスの攻撃を受けても倒れず、武器をたくみに扱い、アクスに手傷を負わせた。

「意外とやるな……そうだ!せっかくだからアレをやってみるか」

「今やるんですか?実戦で試すのは初めてですよ?」

ジベルはアクスのアレとやらを知っているようだが、それを使うのには不安があった。

「いざって時に使えないよりいいだろ。やるぞ!」

アクスは魔物から距離を取り、目を閉じた。

深呼吸を繰り返し行い、体の中の魔力を高めていく。

何かをしようとしたのだが、突然アクスの左手が崩れ落ちた。

雪の様に溶け、傷口からは、少し遅れて血が出た。

「駄目か…!まだ無理か」

「アクスさん!来ますよ!!」

すぐ目の前にまで、魔物が迫っていた。

アクスは冷静に、その場から飛び退き、冷気をばらまいた。

魔物が冷気につつまれたのを見て、アクスは右手をにぎめた。

魔物の体内に入った冷気が、アクスによって氷の刃となって、魔物の体内から突き破って出てきた。

絶命したのを確認して、残った魔物達に対しても、同じ技でまとめて退治した。


「大丈夫か!?」

回復魔法で傷は完治し、ヘルガンは元気を取り戻した。

「いや〜……助けてもらってありがとうございます。ところで、あの手は…」

溶け落ちたアクスの左手は、本物の雪の様に溶けて、水になっていた。

「あれはもう使い物にならないから、あとでサリアに新しく創ってもらうよ」

「すみません。僕がもっと強ければ……」

「魔物が来るってわかってたなら、教えれば俺がやるのに」

「せっかくのデートを邪魔するわけにはいかないでしょ」

「…………本当にそれが理由か?」

納得のいかないアクスは、ヘルガンに圧をかける。

しかしヘルガンは、なんの裏も感じさせない態度で答える。

「やだなぁ、僕なりの気遣きづかいですよ。本当にそれだけですって。それよりも、早く行った方がいいんじゃないですか?」

「いや、家まで送っていくよ」

「大丈夫ですって。もう魔物もいませんから」

アクスは納得がいかないようだったが、約束の時間もせまっていたので、先に戻る事にした。

ヘルガンは家に帰るでもなく、その場にとどまっていた。

倒した魔物達の武具を見ていたのだ。

武具には、一様いちよう模様もようがあり、ヘルガンはそれが気になっていた。

「やっぱり………。母さん、僕は……」






















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