第13話 深層の遺跡 Ⅲ
その姿、鳥に竜の要素を二割取り付けた感じだ。翼は
好戦的な性格が多く、視覚に入った瞬間には
しかし、真に恐ろしいのは繁殖力だろう。彼の
奴らには身を守る鱗や太い尾は持っていないが、鋭い嘴でつつき、滑空を使った奇襲は侮れない。地上戦も難なくこなせる。
*
真上からやって来る。くろろ、くろろと独特な鳴き声を上げながら迫る。
「
山羊達も危険を察知してか走り逃げる。
どすん
真上に居たモノが降りて土煙を上げる。
くろろろろ、くろろろろ。もくもく曇る煙の中で上げる鳴き声は威嚇目的だろうか。グリムレッド達に歓迎の花束を送る気はないだろう。
さて、降り立ったモノは
外見は橙色。顔は黄色く、目元は赤い隈模様。翼の外側の羽毛は色が少し落ち、成熟個体と推測される。脚は逆間接。ダチョウのような脚に黒く太い爪は立派だった。尾根からひょろひょろの尾は鞭のようだ。
顔は厳つい。頭の後には放物線を描いた鶏冠が動く。そして嘴は短く、『つつく』という機能より『噛み砕く』を優先採用した形状をしている。
くろろろろろろ。
この鳴き声を上げるのは『怪鳥』の異名を持つコカトロウス。
「コカトロウス、か」
渋い物でも食べたような反応を示すグリムレッド。過去開拓の半ば、何度も現れては農作と家畜に被害をもたらしている記憶がある。まさか
「
それを呟くと持っていた槍を突き立てる。
「何だか彼には嫌な思い出がありそうだ、
セザンが
かつて空から落ちて来た『
「うあ」と思わずフルーガが声を漏らす。
くろろろろろろろろ。
怪鳥コカトロウスが一鳴きし、体を大きく見せる。
「光の君よ、我に帰還の加護を。我らの闘いは御方への感謝にあり──」
最初の動いたのはグリムレッドだった。駆け出し、丸盾を前に突撃。コカトロウスは察知するや尻尾を鞭のようにしならせる。急ブレーキを踏み尻尾の攻撃を盾で受ける。
次に動いたのがフルーガ、
魔馬に騎乗し人馬一体となった時コカトロウスは恐ろしい事になっていたであろう。
転倒したコカトロウスが身を起こそうとした時、魔力の塊となった弾達かコカトロウスに飛んで来た。当たった箇所で爆発、数発は外れたが顔と首、胴や脚に当たる。
片膝立ちのハイネン。脇に抱えるは魔導式機関銃。クロスボウを大型化し、魔力を生成する魔導炉を有する。全体像はクロスボウの弦を取っ払い太く長筒を取り付けられメカニクルな出で立ちをしている。それは最早、『銃』というジャンルであり、魔導具と組み合わせた
しかし、これだけでは怪鳥コカトロウスは倒せない。
くろろろろろろ。大声量の鳴きを叫ぶ。
「おーお怒りになった」
フルーガがひひっと笑う。それにセザンが「笑い事ではないのだが」と呈する。まぁ確かにそうだ。生き物が怒りというスイッチが入ると目に付く物に何でも攻撃対象と認識したりする。
そしてコカトロウスのターン。喉から吐瀉物の塊を飛ばしそれを攻撃に利用する。しかも結構な距離から飛んで来る。一番離れたであろうハイネンに目掛けて吐瀉がやって来るが、横に避ける。
「危なっ──それと、
飛んで来たコカトロウスの吐瀉物に苦言を呈する。ゲロと酒が混ざったような不快な臭いが、と感想も添えてだ。
「どうします、
前衛の方にそう言う。それに対してグリムレッドが「ならこの
剣先を構えようとした時だ、グリムレッドの動きが止まった。兜の下、鼻孔に最近嗅いだ獣臭を思い出す。いやこの場合は、……そう擬臭と呼ぼうか。
「っ」
左向け左で直ぐ様に盾を構え防ぐ。ガンという鈍い音と唸り声、近日見た事ある姿形の
その
「この……っ、
対峙し、そう言い放った。鬱陶しさ腹立たしさの両方が籠った罵声をなり損ないの竜に向け罵る。
*
「
少し、傷付いたフルーガ。「バッサリ言わなくてもいいのでは?」と思ったが、「お前はあの
「それとセザンにこう伝えろ。このエリアは天井がないと」
「お、おう。伝える、伝えてやるよ。お前の取り前の四割寄越せよ!」
「くれてやるよ」グリムレッドの被る兜のスリットから鋭い眼光がフルーガに向く。一瞬たじろぐが気を付けろと一言言う。
眼光を
グリムレッドは丸盾の縁から実体刃を展開。魔力を流して音を立てながら回転。
見たことない物はどんな生物にも恐怖となる。無知は罪、だが知っている事もまた罪。
柄を持ち、垂れ下がった黒鉄の明星をぶん回す。
回転する刃を出現させた丸盾、明星というには似つかわしくない分銅。そしてそれらを持つ赤い鎧の男、
一歩、グリムレッドが踏み出す。二歩、次に踏み出した足に力み。三歩、それは駆けりへと変わった。
擬が長い前足を使うが、回転丸盾に逆に襲われる。切れ味は然程良くはない。良くないが大小の刃が肉や骨にダメージと
「うううっ」
まるで野獣のような唸りを上げるアジン《グリムレッド》。丸鋸盾を使って切り裂く切り裂く。切り裂きながら近づく。
そして今度は
「────ガアッ!!」
ゴシュッ、二撃目。ゴシュッ、三撃目。ゴシュッ、四撃目辺りで
ただ言えるのは赤い怪物が自分自身を滅多殺しにするのが終わる頃、その時解放されるであろう。
*
「ふむ、加減しなくていいんだな?」
グリムレッドの言伝てに対し、セザンが問う。デュナ=ダウとデュナ=ドウを構成しているは“特別な素材”と鉄鋼で構成されている。武器自体に『何か』が魔力と共に宿り、その『何か』と魔力が合わさった時は並みの
「ああ、そうだ。お前さんのその
間を一置き、下手に長引かせるのも癪だなと考える。擬も現れたなら怪鳥達の
今居る怪鳥が渡りならありがたいが早急に仕留めて仕舞おうとシフトする。
「
「オーケー、おい帝国軍人!!」
フルーガが遠くのハイネンに、
「俺があの鳥を脅かす。その後上に飛ぶように仕向けろ!!」
バカにデカイ
「いくぞぉぉぉぉ──」
マッチ棒を一本取り出し、それを着火する。
「
柄の下を持つとコカトロウスに突撃。当のコカトロウスも迎え撃とうと吐瀉物を何時でも発射できるように喉に留める。
距離的に
コカトロウスは喉に留めていた吐瀉物をゴックンと飲み込みも恐怖した。怖くなった怪鳥はバッサバッサと羽ばたかせ飛ぶ。
だが──。
「──はーい、
それも駄目だった。
自身の頭上を掠める魔力の弾幕達。上に逃げる事も出来なくなった。右にも左にも、下にも──逃げ場が失くなった。
それがこの怪鳥の最後となった。
「距離はそこそこあるが、──十分だな」
「“
色白い魔力が一閃の柱となって怪鳥・コカトロウスに向かう。防ぐ術はなかった、幻視した。“特別な素材”の力が形となったそれは怪鳥コカトロウスを消し去る。
クングーニール──その一撃は正に必殺の域。地上で放たれた場合、なぎ払うようにして扱えばどんな無敵の軍団も削り飛ばされ、塵屑となって生を終えるだろう。
もし、防ぎ生き残りたいのなら、同等のか別の“特別な素材”で作られたのでなければ不可能だろう。
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