第10話 新興クラン(偽)

 事の発端は副長が本拠地としている屋敷にセントラルギルドのマスター、通称“総長”を引き連れて帰ってきた。

 今思い返しても背筋が冷え込み、唾が喉につまりそうだった程。

 結論だけ述べてしまえば、『愚妹が白雪の戦乙女ホワイトリリィ・ヴァルキュリーの活動資金という財布の中身全てを、賭博ギャンブルに全て賭けた』との知らせがであるセザンに届いてしまった。

 “総長”はそんな副長を発見し保護した。所有経営のカジノから連絡が入り、就寝寸前に急に舞い込んだトラブルの対象には頭を下げるしかなかった。しかし、悪い知らせというのはどうして酷いのか、クランの資金に手を出した事を知った時は怒りを通り越し、メンバーの今後の生活を支えるか考えなければと。

 そんな彼女に“総長”が提案をする。

 そう、グリムレッドがいるククルガでの仕事をこなせ、と。

 クランの借金はセントラルで捻出し、セザンはただ仕事を無事こなすだけで良いと言う条件で承諾した。はせずに済む、そう考えるのがプラスと捉える。

 選出はセントラル主導の下に、との事。

 そして、今現在に至る──。


 *


 「……すーっ、ツッコミたい箇所がいくつかある。だがまず第一にだ、遊び人ギャンブラーな身内に今まで金銭管理を任せてたのか?」

 グリムレッドのこの問いに灰色の兜がガクンと頷き、これには呆れるしかなかった。

 「我々も聞いた時ははぁって変な声が出ましたよ」

 鳥の仮面ペストマスクが苦笑。

 「大物が呆れるな」

 鍛冶の民ドワーフがやれやれと肩を竦める。

 と、なんだかセザンが途端小さく哀れに思えてきた。愚妹のお陰でとんだとばっちりな話だ。何せセザンのクラン自体少数精鋭で構成されている。セザンと件の妹を合わせ他メンバーの合計人数はたったの六人と聞く。今その愚妹はメンバーの監視下か軟禁状態だろうか。

 しかし、金絡みはこんな大物さえも苦しめるのか感心が勝つ。

 「ところで、盛り上がってて水を差すかも知れませんが」

 鳥の仮面ペストマスクが挙手をする。そんな制度システムなのかと思う鍛冶の民ドワーフ

 「いや盛り上がっていない。何だ?」

 「自己紹介、してもいいですかな?大物さんがかっさらってしまってゴタゴタしてきたんで」

 「あ、あぁそうだった。そうだったな」

 「いやぁ、お見苦しいのを見せたね」

 申し訳ないと謝るグリムレッドとミレニアル。ほとんどグリムレッドの暴走の性でも有るが。

 「では、帝国機動師団所属ハイネン・クラッコーです。宜しくお願いします」

 両腕を後ろに回し、ピシッとそしてハキハキと所属と名前を答える。

 次はこっちかと整える鍛冶の民ドワーフ

 「俺はフルーガ。まあ、セントラルから呼ばれた黄金酒と赤山羊というクランからやって来た。宜しくな、赤騎士」

 柄頭をドンと床で鳴らす。

 赤騎士、ククルガ意外では蔑称に過ぎない名前。目の前のフルーガは彼の見たまんまの事を言っているのだろうか。……まぁ、どうでもいいことだ。

 「此方こそ、存分に世話になるぞ」

 「ハッハ、そう来なくっちゃだな」

 「それでだギルドマスターよ、今から俺達四名はククルガの迷宮ダンジョンに潜ればいいんだな」

 切り替える。場の空気が引き締まり緊張が走る。

 「んん、まぁそうだ。これは辺境伯様と総長様が擦り合わせた情報だが、五階層から更に深層に潜れると判断された」

 「……あの穴か?」

 以前の竜擬レッサードラゴンが這い出てたあの穴からどうやら潜れるようになったようだ。

 セントラルの手配により、簡易だが整備はなされたらしい。何処で見聞きしているのか恐ろしいが、ありがたいと感謝をした方がいいだろう。

 ギルドマスター、ミレニアルによれば深層の形態は遺跡との情報。整備は上層と唯一繋がる階段を建設。内部は詳しくは調査されていないが、一つだけ分かっているのは転移魔法が発動をしないとの事。これは頭にいれてなければ死に直結しかねない情報だった。

 転移それ以外なら使用が可能だそうだ。大方、小規模な実験でして結果を記録。後の調査はグリムレッド達がしてくれと、ミレニアルが語る。つまりは内部調査と言うことだ。

 「まぁ、このメンバーなら大丈夫だろう」

 「そうだな。大物の借金返済ついでと思いながらしたら、案外早く終わるかも知れんなぁ」

 かっかっとフルーガが笑う。小っ恥ずかしくなるセザン。

 「このネタはそろそろお開きだ。明日は我が身と返ってくるかもしれん」

 「お、庇うか?赤騎士よ」

 「馬鹿馬鹿しい、時間も勿体ない。それに」

 「……それに?」

 「迷宮ダンジョンの深層を急いで攻略したい。馬鹿が無断で潜航するかも知れない」

 この言葉にフルーガはそれもそうだなと言いながら顎に手を付ける。

 「では、諸君行動に移してくれたまえ。時間が押している」

 ミレニアルが号令す。

 グリムレッド、セザン、ハイネン、フルーガの混合即席クランの出陣だった。

 

 *


 ククルガ迷宮ダンジョン入り口、そこは通行が禁止されていた。

 「どうなっているんだ?!」「ですから理由がですね!!」「んな言葉ばかり繰り返してばっかじゃねぇか」「上の上のお達しなんです!!」「知るか入れさせろぉ!!」「ちょっ、ちょっと!?」

 入場口は混沌と混乱が常駐、押し入ろうとする冒険者クエスターとそれを阻止するギルドスタッフの衝突。力で勝る冒険者クエスターにギルドスタッフは制止を促すが強行突破寸前。

 「押せぇ!!」「止めろぉ!!」

 「……すげぇ事になってんな」

 ククルガギルドから迷宮ダンジョンまで蹴っ飛ばして来て到着して早々にフルーガが放った言葉。

 霊馬ホディナ、魔馬リバリーは疲れの色が見れなかった。ハイネンとフルーガが跨がる馬達はふーっ、ふーっと息を上げる。

 「何で入り口にギルドスタッフが?」

 「恐らく、セントラルの回しだな」

 「手が早い。流石と言うべきか」

 グリムレッドとハイネンが入り口のスタッフを考察する。実際はそうなのだろうが、しかし今スタッフが劣勢となっている。塞き止めていた水が今でも溢れそうな状態だった。

 さてどう止めるか、とふとグリムレッドが考える。

 ん、ん、ハイネンが道具を取り渡す。道具の正体、目にしたグリムレッドの兜の下はぎょっとする。

 その道具は火薬を燃焼させ、その燃焼を利用し粒玉の鉛を筒を通して発射させる。古くは古代の国々の跡地でそのプロットモデルは発見された。しかし、当時技術不足により不発や詰まりが原因で普及にならず、そして当時の最先端の魔法というライバルの登場に歴史の闇に消えた──筈だったが、近年になってから再注目の日の目を浴びる。

 ハイネンの持つ道具、それは最近連射可能となった物。輪胴式拳銃リボルバーという武器だった。

 「こいつで一旦、者共黙らせましょ」

 「……」

 始めて実物を目にした。帝国の噂は時々耳に届くが、長物かと思っていたが想像していた物より小型コンパクトなのが何よりインパクトがあった。

 「弾、入れてますんで」

 「どっちに向ける?」

 「上で」

 「了解」

 撃鉄うちがねは下ろされていた。始めて手に納める代物だが、引き金に人差し指を掛けて、それを引く。

 乾いた音により冒険者クエスター達、ギルドスタッフの双方は時が止まったかのように一瞬止まる。音のした方に一人、また一人向き直ってゆく。

 「思ったより、音出るな」

 「初めは皆そう感じますよ」

 ハイネンに輪胴式拳銃リボルバーを返却。筒の口先からは火薬の燃焼した臭いが漂う。

 「赤騎士?──と白雪の戦乙女ホワイトリリィ・ヴァルキュリー?!」

 誰かが叫ぶ。

 雄叫びを上げるは野郎共、黄色い悲鳴を上げる女郎達。冒険者クエスターやギルドスタッフ、その垣根が一瞬瓦解しセザンへと群がる。無論押し留まった又はそれを止めるギルドスタッフ、我慢出来ずに行ってしまう三者三様の結果となった。

 「相手してやってくれセザン」

 「えっ!?」

 「我々はお先」「じゃ~」

 「お三方!?あぁ!?!」

 群衆に囲まれて身動きが出来なくなる。魔馬リバリーが威嚇するが、熱狂という性もあってそれも恐れず取り囲む。

 「良かったんですかね~?」

 「現状を知らなければ天国さ」

 「お~いお前ら、サイン貰っとくなら貰っとけよ!今なら銀貨一二じゅうに枚払えば貰えるってよ」

 グリムレッド?!、後方からセザンの驚愕する声が。群衆は自分達の財布から銀や金の硬貨を取り出し、ねだる。ひー、と悲鳴は聞こえてくるが大物だから仕方ないよね。グリムレッドに対しちょっとと言いたげなフルーガがジト目をする。酷くないか、と。

 「グリムさん……」

 ギルドスタッフが駆け寄る。

 「五階層に行きたい、後足代わりを止めたい」

 「いや、そうじゃなくて」

 プチ惨状の事にだった。しかしグリムレッドは、

 「大丈夫だろう、さぁ行こう」

 「……」

 

 *


 五階層の床に描かれた魔方陣が紫色に輝くや。グリムレッド、ハイネン、フルーガが一瞬にして転移された。

 陣は最近書かれたと入り口のスタッフから聞かされてい。転移場所屋根のない石の家屋。少し崩れているが、がおかしかった。

 「……?」

 「ほう、ほう。此処がこの迷宮ダンジョンの現最深部か」

 「……、ああ。此処にまぁ中継地点キャンプをな」

 ほほう、感心するフルーガ。一方ハイネンは家屋の外に移動する。外敵の警戒に注視する。

 陣がまた輝く。転移したのは灰色の甲冑、セザンだった。

 「……」

 「お疲れ」

 「……」

 「あ、サインお疲れ様です」

 「……」

 「よし、揃ったな。では「ちょっと待ってくれ」

 割り込んだセザン。ガシャ、ガシャと鎧を鳴らしグリムレッドへ近づく。恐らく入り口前のあのプチ騒動の事だろうか。

 「何だ?」

 「何だ?ではない!!」

 「いやぁ、大物ビッグネームのクランだから退いてくれると思ったが。案外冗談で言ったら貰いに行ったなアイツら、返済金も手に入れて良かったじゃないか」

 「確かに、確かに返済金を少しだが稼いだ。だが、だからと言って勝手にサイン貰えるって!?」

 「……怒るか?」

 「怒るに決まってるだろ!!」

 「……これ、俺悪い?」

 フルーガにどうかと聞くが六割程との事を言われる。

 「そうか……、すまんかった」

 「ちょっと軽い!!……が、まぁ良い。時間が圧してる」

 さてさて、さてさてさてさて。では発見された遺跡の迷宮ダンジョン探索の始まり、始まり──。

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