第8話 同居人 Ⅲ
「──それで、辺境伯パスカーノ殿」
「だからそれを止めてくれ、此処は私の領地の中だ」
「では改めて、パスカーノ坊。何用で呼んだ?」
パスカーノ・ドゥンロオ。齡一六にして領地の監督者。僅か九つになる直前に先代領主が没する。先代の享年数は四六。
母親はパスカーノ一歳の中頃に死別。馬車の横転の下敷き事故と伝わっている。
そして身成も、清潔とは言えず昨日から衣類を着替えていない。ヨレは探せばいくらか目につく。
咳払いを一つ入れると話す内容は、
「今回は本格的に
「ほぅ」
感心の声がグリムレッドから出る。ギルマスのミレニアルにどういう事だと目配せする。
「ん?、じっと見ないでくれ。実は今回セントラルが本格的に
続けてパスカーノが繋ぐ。
「その白羽が立ったんだ。前々から独自で進めていたのは向こう側は様子見をしていた」
「成る程、しかしなぜセントラルが?それじゃあ、『我々にも協力させてくれ』と言ってるようなものだが?」
其についてとミレニアルが挙手し訳を話す。
「近年大型の
「生活圏拡大を目的とした開発の実施。裏では浮浪者と犯罪組織の
これにパスカーノは縦に頷く。
「そう、大型
「ギルマス、お前もセントラル側だろ?」
グリムレッドのツッコミが入る。しかし、
「しかし何故だ?」
「
親指と人差し指で丸を作るパスカーノ、口は笑っているが目には疲れが見える。
「成る程、嗚呼成る程。分かった協力しよう、頼む寝てくれ。十分でもいいから横になれ今、直ぐに、だ」
横になれ辺りからパスカーノの顔に近付きながら注意喚起をする。パスカーノは乾いた笑顔を浮かべ寝るからと答える。
「で、これで終わりか?それともまだあるか?」
「うん、辺境伯パスカーノ殿の“は”終わった」
「……、ギルドからか」
「そうだ、近い内にセントラルから
「…ふむ」
「じゃあ、失礼するよ」
パスカーノがソファから離れる。立ち上がる時ふらついたが、問題ないと補助を拒否。部屋を出ていく。
「んで、そのパーティーが何だって?」
「実はまだククルガの
「立会人と言うことか」
「そうだ、それと付け加えるがそのパーティーは有る所属からの出向だ」
「何処だ?」
「“クラン”だが」
にっこりと笑うミレニアル。対しグリムレッドは不安を覚える。
近年増加傾向のクラン、これはギルドから独立した独自勢力郡。規模は大きいのは七〇から一〇〇、小さいのは一〇も満たない。近年増加している理由は、セントラルによるクラン設立規定の緩和。これによりクランの乱立、一部が傭兵事業を展開。更には犯罪組織と悪化しシンジケート化するクランも現れ混沌としている。
クランとしての実力が足りずに人知らずに解散。
クエストの失敗続きと方針により空中分解。
クラン同士の抗争による衝突。
他に問題はある、だが名が知れているクランは良いも悪いも轟いている。
「……」
「新興のクランらしい。規模としては小さいが、実力は
「……拒否は?」
「残念ご指名だ。しかもある大物クランの
「それ、大丈夫何だよな」
腕組みし訝しげるグリムレッド。指名が入った場合、拒否は不可能である。よっぽどの事がない限りは。
*
「んー」
ギルド敷地内の
ギルドの規定には『従魔』の項目には“長距離の移動の足しになるものは、全てを従魔と認定す”と記載されている。
これは大小問わず、鼠だろうが犬だろうが猫だろうが像だろうが、跨がれる事が可か否か関係なしに『従魔』として認定される。
ギルド待機中は指定の厩に入れられる。
そして今厩に霊馬が入れられている。職員達には変な感覚が覚えてしかない。
霊馬、もとい霊獣は
要は、『自分達の匙加減でやって』との事になる。
「やっぱり従魔じゃない?
議論を繰り広げる職員達、その光景を不思議そうに霊馬は眺める。職員の中には早期引退した元
往年の魔術議会でも時々論争にもなる。古く遡れば議会が血の殴り合いに発展したと記述も存在する。
そうこうしていたら、
「まさか連れてかれるとは」
「元々複雑なんだ。いまだに霊獣を魔法で召還したらそれは魔法だ、これは従魔だの論争は早く決着をつけて欲しい」
「昔は多かったのに、今は居ないねぇ。寂しいねぇ」
そんな会話を交わすグリムレッドとエレノアが厩に来る。
「グリムさん!」
職員の一人が呼ぶと、手を上げて軽い挨拶をする。
「連れから聞いた、何か厩に移動させられたって」
「あー、今霊馬はどうだこうだしてた所でして」
「難しいな、こればっかりは」
「ですね」
霊馬を厩から出す。頭を撫でて職員はどうだったとエレノアが聞く。返答は来なかったが。
「またしばらくククルガに来る。それと
「え?」
「足として使う。天に還ってくれないなら、もう使い潰してやっから、今からいいか登録?」
「は、はい此方に」
「他も戻ってろよ」
*
ククルガが
「時間掛かったな」
「あぁ、ちと承認手続きであたふたしてたな」
「遅飯は、売った干し肉か」
かじりながらエレノアが皮肉る。それについてグリムレッドは済まないと謝る。
「謝るな。まぁお前は何か食わないが、何かあったら鳴いてくれよ“ホディナ”」
「ホディナ?」
「霊馬の名前だよ、さすがにずっと霊馬霊馬はどうかと思って」
「いや名前を付ける良いが、そのー。その名前をエルフ語で訳したら」
「ふふ、こう言うのは
「……、俺は。お前達エルフのそういう所が嫌だな」
ホディナ、エルフ語を人間語で翻訳すると『花弁散らし』となる。エルフ語の隠語として使われ、よく『初めての夜』に相当がされる。
霊馬“ホディナ”よ、……頑張れ。
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