自殺志願者に告白を
長月瓦礫
自殺志願者に告白を
静寂があたりを支配している。遠くに見えるビル群は人を試すように、そびえ立っている。
紺のスカートが風になびく。
ちらりと見える禁断の領域に唾をのんだ。
「それ以上はだめだ! どうなるのか分かってんのか!」
「るっさいわね! アンタに私の何が分かるってんのよ!」
彼女の絶叫が響く。
屋上を囲う柵の向こう、一歩踏み出せば空中だ。
短く切られた黒髪が青空によく映えるが、のんきなことを言っている場合ではない。
授業をさぼるために、俺は屋上へ向かった。
鍵はすでに誰かに壊されており、出入り自由だった。
あくびを噛み締め、目を開けたその瞬間だった。柵を乗り越え、向こう側に立っていた彼女だった。
情けないことに叫ぶだけ叫んで、驚いた拍子で彼女も真っ逆さまに落ちた。
すべては一瞬のことだった。
助けることもできたかもしれないのにと、悔いても仕方がなかった。
「それでも! 俺は君に言わなければならないことがある!」
「何よ! そんなんで人を救えると思ってんの?」
「君はもうすでに死んでるんだよ!」
一瞬、沈黙が下りた。
口を大きく開け、俺を凝視する。
「君はこの後、ここから飛び降りるんだ! 俺はそれを止めに来た!」
「……だから何! アンタ誰なの!」
「隣のクラスの山田だ! 君の自殺を止めるために来た!」
じとっとした目で俺を見る。
このやり取りも何度繰り返しただろうか。
「これが答えだ文句あるか!」
「知るか! 誰に言ってんのよ!」
その後は、自殺した彼女の話で持ちきりで、落ち着いて授業を受けることもできなかった。
何もかもが慌ただしく、何も分からないままに一日が終わった。
俺は彼女が飛び降りる瞬間を目の前で見ていた。あの叫び声だって聞こえていただろう。
不安を抱えつつ、登校した。
校門で彼女とすれ違った。即死だったと聞いたし、生きていること自体がおかしい。
まさかと思って、その日も授業を抜けて、屋上へ行った。
彼女は柵を乗り越えていた。
「待った待った! 止まれーっ!」
うるさそうな表情で振り返った。
俺のことを一瞬だけ見て、飛び降りた。
しばらくしてから、彼女を見たと言う人が何人も現れた。
校門をくぐり、自分の席に着く。
同じ時間に廊下を歩き、屋上へ向かう。
彼女は自殺を繰り返している。
その理由は未だに教えてくれないが、今日で記念すべき100日目だ。
「とにかく、自殺してもいいことない!
諦めるんだ!」
ここまで付き合っているのも、自分が何もできなかった悔しさと彼女の最期の姿を見届けた者としての責任があるからだ。
「うっわー……」
呆れた表情を浮かべ、柵に手をかけた。
「いつも思うけどさ、ナルシストっていうか……どんだけ自分好きなの?」
「そういうことじゃないんだよ!」
「でも、ごめんね。そういうの聞き飽きた」
彼女は少しだけ笑って、屋上から飛び降りた。
今日も救えなかった。
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