第18話 決断と責任について(真面目に)

さぁ!どっちにするんですか!」と二人は、俺に迫ってくる。


頭の中で色々な知識が混ざり合って、まるで美術の時間の色々な絵の具を洗った濁った水みたいになっている。どうしたら良いだろうか。

考えてみたらこれまでイレギュラーなことだらけで、常に受け身になっていた。何もしなくても、自分の環境が変わるっていくのは、多分すごく珍しいだろう。

そういえば、大学のクソみたいな人生を説くだけの授業の中で有名大学を出ているだけの偉い社長がこんなことを言っていた。

『自分の決断に自分で説明と責任を付けれない奴は何をやってもダメになる。逆にバカでも責任と決断の説明さえできれば成功する』

多分、俺のこの状況に当て嵌めて良いことかどうかは、わからない。だけど、自分で選択するということに初めて責任を持とうと思った。

こんな感じのモノローグをしていると濁った水は、一色の水に変わっていた。

呼吸を整え俺は口から答えを出した。

「俺は、250T Rを選ぶよ」

二人の顔が面白いほど変わった。北極姫は、口角を上げて小さく手を握り『よっし!』と内心喜んでいるように見えた。一方の小鳥遊さんは、口を閉じ『無!』という精神が顔にまで溢れ出ている感じだった。これは、説明がいるなと少しだけめんどくさいと思ってしまった。

「なんでT Rにしたんですか?」と小鳥遊さんは、神妙な表情で聞いてきた。

「うーん、何でだろうな。何となくのフィーリングかな」

「何ですかそれ?私にはわかりません」

小鳥遊さんは、少し呆れた感じで最後の疑問詞をつけた。

「勘違いしないで欲しい。俺は、セローが嫌いなじゃないよ。ただ、初めてこのT Rを見たときにビビビってきたんだよ。今回は、そのよくわかんない感覚に従ってみようかと思っただけだよ。ちょっと、辛い想いさせてしまってごめんね」

「何ですかそれ?私には、全くわかりません。感覚に従うなんてそんなのギャンブルじゃないですか。そんなふうに選ぶのなんて馬鹿としか思えません。ちゃんと考えて選んだほうがいいに決まってます」

多分、向こうのほうが正しい事を言っているんだと思う。

「良いじゃない!『馬鹿!!』なんて男らしい言葉なんでしょうか!貴方にぴったりで、それでこそKAWASAKIを乗る者の証よ!」

そう言って、何だか楽しそうにスッテプを踏んでいる北極姫だった。

「別にお前に言われたから決めたんじゃねぇぞ!後、馬鹿で納得してるんじゃねぇよ!普段の言動は、お前の方がめんどくさくて馬鹿みたいだからな!」

「だれがバカよ!」

「お前だよ!Kawasakiに乗っている全員に謝れ!」

「そこまで言う!?そこまで酷いことした?私?」

俺の胸を掴んで問いを続ける北極姫に小鳥遊さんは、強引に割って入った。

「あの、兎和さん話を元に戻しましょう。本当にそんな決め方でいいんですか?後悔はないですか?」

「うん、ないよ。まぁ、さっきフィーリングて言ったけど普通にこのバイクの見た目も好きだしね。小鳥遊さんのおかげでセローの良さもいっぱい知れたから、いつかセローの方も機会があったら乗ってみたいな」そう言って少し笑ってしまった。何でだろうか。

「ふふふ、何ですかそれ。変です。すごく変です。だけど、何だかわからないけど、もう大丈夫です」そう言って最後に笑顔を見してくれた。その笑顔で抱いていた小鳥遊さんが傷ついてしまうんじゃないかと言う不安は解消された。


「おーい、もう茶番は終わったか?このバイクに決めたなら、よし、篤士が所有するという手続きをするからちょっと、こっちにきて書類を書いてくれ」

ゴンザレスが初めてバイク屋らしい仕事をしている。そうか、こいつも働いているのだなぁと実感した。

「お前のこのバイク買う理由、少しかっこいいと思ったぞ」

「ふん、ただのギャンブルですよ」

「いいじゃねぇか、ギャンブルしようぜ。ギャンブルのない人生なんてわさびの無い寿司みたいなものだよ。そんなの、つまらんだろ。もし、それで失敗してもそれはお前の経験になって無駄じゃなくなるんだよ」

「そうですか。そんな真面目なことを言ってくれる人だと思いませんでした」

「おい!」

「ちょっと、先の私が馬鹿てどんな意味よ!」

北極姫は、まだそこが喉元に引掛かていたらしい。やっぱりこいつめんどくせぇな。

「お前は、うるさいから少し黙ってろ!」


こんな感じで俺の人生で今のところ一番高い買い物が終わった。あー、貯金て大事だなと実感した。

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