企み③

・・・・はぁ?

なんなんだ?

なに言ってんだ、彩。


何ひとつわからないまま。

部屋に戻ると、そこに小夏の姿は無かった。


「・・・・小夏?」


思わず呼んではみたものの、隠れる場所も無いくらいの、狭い部屋だ。

間違いなく、小夏はいない。


『他にも、無くなってるのがあるかもな。』


ふいに彩の言葉を思い出し、俺は慌ててPCを確認した。


マジかー、小夏めっ!


俺はその場で天を仰いだ。

とは言っても、見えるのは、見慣れた天井だけなのだが。


PCからは、アップしたはずの話がきれいさっぱり無くなっていた。

元データも確認したが、フォルダからも削除されている。

ご丁寧に、小夏にファイル添付で送信したメールまで、削除されていて。

代わりに。

画面には、小夏からのメッセージが表示されていた。


『怪盗 ココナッツ 参上!

この話は、わたしがいただいた!』


バカなのか、小夏。

怪盗ココナッツの正体なんて、バレバレじゃないか。

何考えてんだよ、もう・・・・


俺はため息を吐きながら、小夏に電話をかけた。

意外にも、小夏はすぐに出てくれた。


「こなつー、なにしてんだよ。」

”えー、なんの話~?”

「うちに、怪盗ココナッツが現れて、俺たちの話、盗まれたんだけど。」


えへへ、と。

スマホの向こうから、決まり悪そうな小夏の笑い声が聞こえる。


”だって、大好きなバンブー・ブックが・・・・爽太くんが初めて書いてくれた、わたし達の話だから。わたしだけのものに、したいの。宝物にしたいの。誰にも読ませたくないの。

・・・・でもね。

みんなに読んでほしい、とも思うの。

だから、もうちょっとの間だけ。

わたしだけのものに、させてくれないかな・・・・ダメ?”


・・・・こなつ~・・・・


電話で良かった、と思う反面。

この距離感が、もどかしい、とも思う。

もし今小夏が目の前にいたら、頭をワシャワシャして、ギュッと抱き締めてるぞ、間違いなく。

可愛い彼女にこんなお願いなんかされたらもう、答えなんて決まってるじゃないか!


「わかった。小夏がそうしたいなら。」

”ありがと、爽太くん!新作も、楽しみにしてるからね!”


きっと今、小夏は俺の大好きな笑顔になっているに違いない。

真夏の太陽のような、キラキラした笑顔に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る