天晴れ、小夏!②

ゴンッ


「うっ・・・・てめっ、なにすんっ・・・・」


聞こえてきたのは、DV男の声だった。

続いて聞こえてきたのは。


「わたしの彼に、何してくれてるのよ。」


たった一度だけ聞いたことのある、ドスのきいた、低い小夏の声。


えっ・・・・小夏・・・・?


「椎野・・・・」


俺の下で、彩が驚きの声を漏らす。

間違いない。

小夏がそこにいる。


バカ小夏っ!

なんで来たんだっ!

こんな状態じゃ、俺はお前を守ってやれないじゃないか・・・・


絶望感に襲われた俺の耳に、再度聞こえてきた小夏の低い声。


「今度こんなことしたら・・・・殺すわよ。」

「ぐあぁぁっ!」


直後にあがった、DV男のうめき声。


なんだ?

一体、何が起こった?!

小夏は無事なのかっ?!


「爽太くん、大丈夫っ?!」

声とともに、近寄ってくる足音。

やがて、肩に柔らかくて温かい手が添えられる。

「あ・・・・あぁ・・・・うっ。」

だが俺は、息を吸うだけで背中にズキンズキンと痛みが走り、とても『大丈夫』とは言えない状況だ。

「しっかりしろ。」

彩が、俺の下からゆっくりと体をずらして抜け出し、俺の体を抱え起こす。

「いってぇ・・・・」

思わず声をあげた俺に、彩は小さい声で呟いた。

「ごめん、爽太。ありがと。」


何言ってんだよ、彩。

昔、どんだけお前に守ってもらったと思ってんだ。

これくらい、どうってこと、ない。


そう言いたかったのだが、何しろ背中の痛みが酷すぎて、恐る恐る息をするのがやっとの状態。

我ながら、情けない。

「立てるか?」

小さく頷くと、彩は小夏に言った。

「椎野、左を頼む。」

「わかった。」

右を彩に、左を小夏に支えられながら、俺はようやくのことで立ち上がる。

と。

DV男が苦悶の表情を浮かべ、股間を押さえて呻き声を上げ続けているのが見えた。


まさか・・・・?


俺の左を支える小夏の顔を、そっと盗み見る。

気付いた彩が小さく笑って、言った。

「気持ちいいくらいに、思い切り踏みつけてたな。当分使い物にならないぞ、アレ。」


マジか・・・・


同じ男としては、想像もしたくない。

確かに、あの時の声からすると、小夏は相当怒っていたんじゃないか、とは思う。

キレていた、と言っても、いいかもしれない。

その怒りのままに、思い切り踏みつけたのだとしたら・・・・


小夏は、怒らせてはいけない。

絶対に。


「ん?どうしたの、爽太くん。痛む?」

俺の視線に気付いたのか、小夏は心配そうな顔で俺を見る。

「いや。」

「じゃ、このまま爽太の家に行くぞ。」

「うん。」

こうして、俺は彩と小夏に支えられ、家に帰ったのだった。

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