嫉妬 Challenge 2-5
「わたしだって、そのバンド大好きなのにっ!」
小夏の瞳は、怒りで感情が昂っているせいか、潤んでいるようにも見える。
ウルウル目の小夏は、怒っていたって、メチャメチャ可愛い。
いや、今はそんなことを考えている状況ではなかった。
想定外の小夏の言葉に、俺の頭はどうもショートしてしまったらしい。
言葉が全く、出てこなかった。
黙ったままの俺に、小夏は更に怒りをぶつけてくる。
「行く前に、一言声掛けてくれれば良かったじゃないっ!会場限定グッズだって、あるんだよ?わたし、欲しいのあったのに!」
まだまだ怒りは収まりそうになく、小夏は欲しかったグッズを列挙し始める。
俺は、と言えば。
・・・・なんだ、そっちか。
ようやく頭が働き始め、破局の危機はとりあえず免れたらしい事を理解し、ホッと胸を撫で下ろした。
そして、小夏が列挙したグッズのいくつかは既に購入済みであることに、胸の内で昨日の自分を盛大に誉めちぎった。
偉いぞ、俺!
よくやった、俺!
ブツブツ言っている小夏の前にもうひとつのバッグを起き、中から取り出したものを小夏に手渡す。
「えっ・・・・これって?!」
とたんに、パッと小夏の顔が輝いた。
昨日手に入れたグッズを一通りバッグから取り出し、小夏の前に広げて並べる。
「すごーい、爽太くん!」
先ほどまでの怒りは何処へやら。
小夏は目をキラキラさせて、グッズを眺めていた。
「これ、小夏にやる。」
「え?」
「ごめんな、先に言わなくて。」
「えー、いいよそんな。だって、せっかく爽太くんが買ってきたのに。」
「いいんだ。俺は、ライブ楽しんできたから。」
「ダメだよ!・・・・じゃ、半分こ、しよ?じゃんけんで、勝った方から好きなの選んでくの。」
これくらいで、こんなに小夏が喜んでくれるなら、本当に全部小夏にあげてもいいと思っていたのに、小夏は頑として譲らず。
その後、二人のじゃんけん大会が開催されたのだった。
「俺最初、彩と一緒に行ったのを怒ってるんだと思った。」
土産の菓子を食いながら、俺は小夏に言った。
「え?なんで?」
同じ菓子を食いながら、小夏が不思議そうに聞く。
「立花さんは、爽太くんの兄貴分なんでしょ?」
「うん、まぁ、そうなんだけど、さ。」
答えながら、俺はどこかモヤモヤとしたものを感じていた。
いいんだけど。
彩と俺の関係を、小夏はしっかり理解してくれて、信用してくれて。
ほんと、できた彼女だと思うんだけど。
でも。
いくら彩とはいえ、一応女だぞ?
ほんの少し位は、ヤキモチ妬いてくれても・・・・
っていうのは、俺のワガママなのだろうか。
「なぁ、小夏。」
「ん?」
「少しは、その・・・・嫉妬とか、したか?」
淡い期待を抱いて、俺は小夏に聞いてみた。
と。
「うん。」
小夏がコクリと頷く。
「えっ?!マジで?!」
喜んだのも束の間。
「わたしも、ライブ行きたかった・・・・」
本当に悔しそうに、小夏が肩を落とす。
「そっちかいっ。」
思わず突っ込む俺に、小夏は笑った。
「でも一応、それ、嫉妬だよな?」
「えー、こーゆーんじゃないんだよねぇ、わたしの希望は。」
「じゃ、どーゆーのだよっ?」
もう、どうしたらいいか分かんねぇよ。
ふて腐れる俺の頭に、小夏がポンポンと優しくタッチする。
「頭使って考えようね、爽太くん。」
ずるいんだよなぁ、その顔。
夏の太陽のような、キラキラした小夏の笑顔。
そんなこと言われたら俺、頑張るしかねぇじゃん。
だって、こんなに好きなんだから。
俺は、その太陽から隠れるように、小夏の体をそっと抱きしめた。
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