第61話竜人達大集合! デルタ・ウェイブライダ・ドダイ


「わー! ノルンさまぁー!」

「……?」


 たまにはボルに顔を見せておこうと竜舎を訪れると、見慣れない童女が足にくっついてきた。髪の間からちょこんと二本の角が見え隠れしている。どうやら竜人の子供らしい。


「すみません、勇者……ではなくて……こほん、ノルン様。子供のやったことだと思って、お許しください」

「君は……」


 次いで奥からやっていた青く長い髪の若くて綺麗な竜人の女性が頭を下げた。


「この姿でお目にかかるのは初めてですね! 飛龍のボルです! そして娘のガザです!」

「ノルンさまぁー! すきぃー!!」


 相変わらずガザは足に抱きついたまま、頬を擦り付けている。

 なんとも愛らしい姿に、胸がほっこりした。


「君たちも竜人になったんだな?」

「はい! この間、デルタ様に相談しましたら快諾してくださいまして。これでも全て、小さい頃に救っていただき、ここでの仕事を与えてくださったノルン様のおかげです。本当にありがとうございます!」

「役に立てたのなら良かった。これからもヨーツンヘイムの空を頼んだぞ」

「お任せください!」


 ボルは元気よくそう答え、大きな胸を揺らした。

 ノルンは何故か、そこに注目してしまい、戸惑いを覚える。


(最近の俺はどうかしている……むぅ……)


「く、来るなァァァ!!」

「だからなんで逃げるんですかぁ! せんぱーい!!」


 と、竜舎の外から、聴き慣れない男女の声がする。

 瞬間、ボルから冷たい気配が発せられた気がした。


「がふっ!」

「さぁ、捕まえましたよせんぱい!」


 外に出てみると竜人となったオッゴが、燃えるような真っ赤な髪の竜人の少女に押し倒されていた。


「今日こそは……ギャハァー……今日こそは!」

「こらぁ! ラング!! 何やってんの!! カァァァァ!!」

「ギャァァァァ!!」


 上着を脱ぎ始めた赤髪の竜人の少女――ラングへ、ボルがバインドボイスを浴び、吹き飛ばす。


「こ、このぉ! やってくれたなおばさん!」

「まだおばさんなんて言われる歳じゃないわよ!!」

「うっさい! いい加減諦めて、せんぱいと子作りさせろ! ババア!」

「この……こっちが下手に出てれば、つけ上がって……この小娘!!」


(まさかラングまで竜人化させていたとは……)


 こんなにポンポンと竜人を増やして良いのかどうか、甚だ疑問なノルンだった。


「せんぱいを独り占めするなババア!」

「渡さないわ! オッゴ君は大事な大事なガザと私のパパなのよ!!」

「ストップー! ストップ、ストップ! 二人ともストーップ!!」


 空から緑色の髪をもつ、ラングによく似た竜人の少女が、ボルとラングの間に割って入る。


「どいてお姉ちゃん! 今日こそはこのババアをぶっ倒してあたしが……がふっ!」


 緑の髪のラングにそっくりな竜人の少女――たぶん、ビグ――は眉間に皺を寄せて、長い尾でラングの頭を叩いた。

するとラングは顔をくしゃりと歪めて、泣き出す。


「ううっ……いきなり殴るなんて酷いよお姉ちゃん!」

「いっつも喧嘩ばっかり売ってるラングがいけないの! ボルさん、いつも本当にすみません! ちゃんと言って聞かせますので、お許しを!」


 ビグは鋭い眼差しのボルへ深く頭を下げる。


「ママぁ? ぷんぷん、めー!」


 トコトコ現れたガザがそういうと、ボルの目が丸みを取り戻した。

 そんな中、渦中の雄である、オッゴはそろーりそろーりと匍匐して、逃げ出そうとしている。


「ひゃあ!」


 そんな彼の前に、デルタが突然空から舞い降り、行手を塞ぐ。


「デルタ様!」


 ボルの声を合図に、竜人たちは一斉に姿勢を正し、傅いた。


「わぁー! デルタさまぁー! すきー!」


 しかし子供のガザはデルタに臆することなく、ノルンへしたように彼女の足へ抱きつく。


「こ、こらガザ!」

「構わん、ボル」


 デルタはガザを抱き上げる。

そして優しい笑みを浮かべた。


「可愛い……ガザはきっと良い雌竜人になる。我はそう確信している。これも全てオッゴの頑張りによるもの!」

「あ、ありがとうございます! 勿体無いお言葉です!」

「より励め、オッゴ! 作り、増やす! これ、我からの命令! 頑張る!」

「わ、わかりました……」


 デルタはガザを下ろすと、颯爽と踵を返す。

そして、小走りで、少し離れたところで竜人たちの様子を見ていたノルンへ駆け寄ってきた。


「おはよう、ノルン!」

「おはよう。オッゴ以外も竜人化させたんだな?」

「ガウッ! ここの飛龍、みな優秀! 我、一族に迎えてもいいと判断した! それもこれも、ここであいつら育て、教育したノルンの功績! 一族代表して、礼言う! ありがとう!!」


 飛龍達とは色々あったが、こうした結果が産めて心底良かったとノルンは思う。

 ふと、デルタが深く腰を折りつつ、少しずつ近づいてきていることに気がつく。

そしておっかなびっくりな様子で、尻尾を足に擦り付けてきた。


「どうした?」

「ガウッ……」

「?」

「我も、欲しい……」

「欲しい、とは?」

「ガザのような、子……」

「こ……?」

「ガァァァァ!!」


 突然吠え出したデルタは、いきなり飛び立っていった。


 尻尾を擦り付けるという行動。

 そして言動から、デルタが何を言いたかったなんとなく想像がつく。

 同時にリゼルのことが浮かぶのもまた確かだった。


「キャハー……ハァ……キャハー……」


 今度は傍から不穏な荒い息が聞こえてくる。

恐る恐る視線を寄せるとそこには、顔を真っ赤にして、息を荒げるビグの姿が。


「お、お前はビグだよな……?」

「そ、そうです! 管理人さんだ……鞭で打ってくれる管理人さんだぁ……」


 ビグはギラギラと目を光らせながら寄ってくる。

 引き気味のノルンは、その度に後ろへ下がって行く」


「管理人さんの愛情たっぷりの鞭が一番気持ちいいんだぁ……キャハー!!」

「ま、待てビグっ!!」

「ガァァァァ!!」


 飛びかかってきたビグの頭上から、咆哮が降り注ぎ、彼女を吹き飛ばす。

 そしてノルンの前へ颯爽と、デルタが舞い戻ってきた。


「オッゴなら良い! しかしノルンはダメ! ガァァァァ!!」

「す、すみませんでしたぁ! キャハー!!」


 賑やかなのは嬉しいが、色々と大変なことになりそう。

 そう思うノルンなのだった。

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