『そうかな?』

 

 通学路。

 


 その途中の公園の出口で、見知った人影を見つける。


 

 ノゾミの、クラスメイト兼、同じ委員会所属の女子生徒――。

 そしてのぞみの唯一の友人、すめらぎ愛海なるみだ。


 クセっ毛のローポニーな髪型に、クリっとした大きな瞳が特徴的な、美しいよりは可愛らしい感じの少女で、その雰囲気は、静かな月がノゾミなら、愛海は、元気な太陽といった感じだろう。

 

 愛海を待つのは、いつもノゾミの役割だったが、今日は時間がかかったせいで、逆に待たせてしまっていた。


 けれど、ノゾミを見る愛海の表情は、いつもと違って芳しくない。

 目を真ん丸にして、じぃ、っと品定めをするかのように、慎重だ。


 

 そして、ノゾミが目の前で立ち止まったところで、

「もしかしてノゾミ……ちゃん?」

 自信なさげに尋ねられる。


「うん、たぶん」

 

 すると、やっぱり!

 と、破顔一笑。



「たぶん、って何~? ノゾミちゃんでしょ? ノゾミちゃんだよね~? どうしちゃったの、その髪!? あとメガネは?」


「ちょっとね」  


「ええ、何々? ちょっと、って~?」


 愛海は、きっと少し、ハートがドキドキするような理由を想像したに違いない。

 でも、そんなハッピーな理由とは程遠く、ノゾミの声は弾まない。


「何でもないよ」


 そんな淡々とした言い方に、ノゾミの友人はすぐに真剣なまなざしに切り替えた。


「もしかして事故の影響か何か? 軽く事故った、っておばさんに聞いて心配してたんだよ愛海~」

 

「おばさん、ってうちのお母さんの事?」


「あ、いけない。今度おばさんって言ったら、グーで殴るって言われてたんだった」 

 

 てへ、と愛海は笑う。


「それより、話してると間に合わないよ」


ノゾミの言葉に、公園出口にある、花壇時計を見て、愛海は慌てた。


「あ、ほんとだ。やばい~」

  

 ノゾミは歩き出そうとして「ああ、待って待って」と呼び止められる。

 そして伸ばされた愛海の手が、ノゾミのリボンネクタイに触れる。

 ズレていたのか、調整してくれたようだ。

 

 よし、完璧。


 と愛海は満足そうな声を上げると、ぴょんと遠ざかる。


「リボンが歪んでおりましたよ~? ノゾミちゃん。慌てて出て来たでしょう?」


 そんな偉そうで無邪気な微笑に、ノゾミは少し嬉しくなる。


 愛海は、以前と変わらないままだった。



「うん、ありがとう」


「その髪も今日の放課後に、愛海が切ったげるね、バランスおかしいし」


「そう?」


「鏡ちゃんと見た~? ボッサボサだよ?」


「やっぱり、ハサミでバッサリ切ったのはまずかったかな」


「ノゾミちゃんて、どうしてそう、繊細そうに見えて大雑把なのかな……」


「ごめん……」


「まぁ、そういうボブっぽい髪型も、似合うね、ノゾミちゃんは」


「そうかな?」


「体はもう大丈夫なの?」


 そんなたわいのない話をしながら、二人は学校を目指した。

 

 事故のことを詳しく訊かれたら、なんて答えようか、考えながら――。

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