第六話・裏

 病室で一人になった幻一郎は孫の写真を眺めていた、しばらく顔を見れていない事に寂しさを覚える


(そういえばしばらく雪代君から幸の話を聞かないな)


 雪代咲は幻一郎が思うよりもしっかりと仕事の面倒を見てくれた。物覚えが早くて教え甲斐がありますと孫が褒められれば、幻一郎は嬉しくなり顔をほころばせた


 幸が母親の華道教室で講師をしているという話を聞き、それとなく母親との関係も探って欲しいと頼んでいたのだが、どうやら母親との仲はうまくいっているようで安心をする


 きっと幸なら完璧にこなすのだろうという期待と忙しすぎるのではないかという心配の気持ちで揺れていたが口を出すことはしなかった


 思い返せば幻一郎も大学時代は寝る間を惜しんで勉学に励み働いていたのだ。納得いくところまで走らなければ足を止められない気持ちも分かる、頼られたときに惜しみなくサポートをすればいいのだ


 晩ご飯をゆっくりと食べると瞼が重くなってくる、写真を眺めたり中身を覚えている本を読む他はやることが特になかった。会社の様子は気になるが、身体に負担がかからぬようにと幻一郎への報告や連絡は雪代咲に一本化されていた


 咲は幻一郎が直接会社の様子を確認したことを知ると、会長である事などお構いなく眉間にしわを寄せながら𠮟りつけた


 こっそり社内の様子を教えてくれた社員は間違いなく怒られてしまうだろうと申し訳なく思いながら、幸と雪代咲がいれば会社は今後も安泰であると幻一郎は確信していた


 とくに読みたいわけでもない本を読み終え、そろそろ寝ようと明かりを消そうとしたところで


 コンコン


 扉を叩く音が聞こえる


(誰だ?)


 面会時間はとっくに過ぎていた


(何か急な知らせでも入って雪代君が戻って来たのだろうか)


 扉がゆっくりと開かれる。幻一郎は何者が現れるのかと開かれる扉を凝視する


 姿を見た瞬間に幻一郎の目から涙が零れた、現れたのは孫の幸だった


「おぉ、おぉ、来てくれたのか。おいで、隣の椅子に座るといい」


 満面の笑みを浮かべながら扉の前に立つ幸に声をかけた


「大学はどうだい?楽しくやっているか?」


 尋ねるが微笑みを浮かべたまま幸は一言も返さない。白いワンピースを着た姿は、時折響子と重なって見える


「幸の静かで控えめ過ぎるところは心配だが、雪代君ならきっと力になってくれる。迷惑をかけてはならないと色々と貯め込んでしまっていたりはしないか?」


 風鈴の音が鳴る、幻一郎の瞼がゆっくりと閉じていく


「幸せに過ごしてくれれば、それでいいんだ」

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