第32話

「これはこれはカトリーナお義姉様、ご機嫌よう」


「フンッ! 馴れ馴れしく話し掛けるんじゃないわよ! この田舎者が! 田舎臭いのが移ったらどう責任取る気よ! 全く! あぁ嫌だわ! こんな田舎娘が義理とはいえ私の姉妹だなんて! あんたなんかずっと帰って来なきゃ良かったのよ! この王家の恥晒しが!」


 ビビアンがスッと前に出る。その肩をマチルダがガシッと掴んで引き留めた。


「恥晒しねぇ...そんな風に男を侍らせて端ない姿を見せ付ける方がよっぽど恥晒しだと思うけど。皆さんもそう思いません? まるで娼婦のようだって」


 そう言ってマチルダは周りを見渡す。だがさすがに王族を相手して、そんな失礼な言い分に同意できる者など誰も居ない。皆一様に顔を引き攣らせて黙り込む。


「なっ!? 言うに事欠いて娼婦ですってぇ~! アンタ一体何様のつもりよ!?」


 カトリーナが髪を振り乱して叫ぶ。 


「あら失敬。つい本音が漏れましたわ。ホホホ」


 そんなカトリーナを意に介さず、マチルダは涼しい顔でそう言った。


「こ、このお~!」


 カトリーナがマチルダに掴み掛かろうとした時だった。


「騒がしいな。何事だ!?」


 騒ぎを聞き付けてライオスがやって来た。


「くっ! あなた達、行くわよ!」


 形勢不利と見たのか、カトリーナは取り巻きの男どもを引き連れて帰って行った。


「お兄様、なんでもありませんわ。いつものことです」


 そう言ってマチルダはお茶会参加者に向かって、


「皆様、お騒がせして申し訳ありません。お茶会は終了とさせて頂きますわ。本日はお集まり下さいましてありがとうございました」


 ホストとして最後までしっかりと務めた。参加者は微妙な顔をしながらもそれぞれ帰途に就いた。


 マチルダは誰も居なくなってからやっとビビアンから手を放した。


「ビビ、さっきカトリーナお義姉様にカウンターを発動しそうになったでしょ?」


「なにっ!? そうなのか!?」


 王族兄妹にそう詰め寄られてビビアンは小さくなる。


「あぅ...す、すいません...」


「ダメよ? あんな嫌味くらいでいちいち反応しちゃ。私のために怒ってくれたんだろうけど、あんな腐ってても相手は王族だからね。私が止めなきゃあなた、不敬を問われる所だったわよ? これからはカウンターを制御できるように訓練なさいな」


「は、はい...」


 それは以前、ライオスにも言われていたことだ。嫌味に対して暴言を吐くんじゃなく、嫌味を返せるようにならないとダメだと。

 

 ビビアンは気を引き締めて訓練に励もうと心に誓った。


 

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