第26話
バレットはビビアンのクラスをそっと覗き込む。
黒板の隅の方に今日の日直の名前がある。ビビアンだった。バレットはツイてると思った。
日直なら放課後に学級日誌を職員室に届けるはず。そのタイミングならマチルダも離れるだろう。そこを狙う。
アマンダと違ってバレットは、マチルダの正体を知っていた。伊達に筆頭公爵家で育っていない。
だから先程、柱の影から覗いていた際、アマンダがマチルダに不敬な発言をした時は気が気じゃなかった。
別れても尚、というか無理矢理別れさせられたからこそ、バレットのアマンダに対する想いは、消えるどころか更に燃え上がっていたのだから。
だがそれも、そのすぐ後にマチルダが発した言葉により、急速に冷え切ってしまった。まさかアマンダが噂を流していた張本人だとは夢にも思っていなかったからだ。
アマンダがそんな女だとは思わなかった。別れて正解だったとバレットはそう思うようになっていた。全くもって勝手な男である。
もう自分にはビビアンしかいない。ビビアンとの婚約が無くなれば、以前ビビアンから口撃のカウンターを食らった時に言われた通り、廃嫡されるのは間違いない。父親からも同じことを言われた。
なんとしてもビビアンとの婚約を継続しないと。そういった悲壮な決意を固めて、ビビアンのストーカーのような真似をしているという訳だ。
◇◇◇
放課後になってビビアンのクラスを見張っていると、目論見通りビビアンが一人で教室から出て来た。バレットは隠れていた物陰から姿を現す。
「ビビアン、久し振りだな...」
「...バレット様...少しお痩せになりました?」
ビビアンの声が固い。
「あぁ、そうかもな。お前に会えなくて寂しかったから...」
バレットは哀れみを誘うように弱々しく応じる。
「...ご冗談でしょう? アマンダさんとお間違えなのでは?」
だがビビアンは歯牙にも掛けてくれなかった。
「んなぁっ!? そ、そんなことは無いぞ! 俺は元々あんな女なんか本気じゃなかったんだからな! お前以外の女に目を向けたりするはずがないだろう!」
「...本当にそうなんですか?」
「もちろんだとも! だからこれからはお前のことをもっと大事に」
「そんな!? ひ、酷いです、バレット様! あれだけ私に愛を囁いてくれたクセに!」
「あ、アマンダ!? ど、どうしてここに!?」
なんのことはない、バレットがビビアンをストーカーしていたように、アマンダもバレットをストーカーしていたのだ。
「...どうぞお二人でごゆっくり...」
そう言ってビビアンはその場を後にした。
後ろからバレットの「ビビアン、待ってくれ~!」という叫びが聞こえるが、もちろん待つ訳が無い。
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