第21話

「ライオス殿下、それはどういう意味ですかな!?」


 ヘンリーは息子であるバレットの態度を不審に思ったのか、ライオスの方に尋ねて来た。バレットに聞いても当てにならないかも知れないと思ったからだ。


「バレット殿はここ最近、アマンダとかいう男爵令嬢に夢中になっているんだよなぁ? ビビアンを自分の家に匿ったりなんかしたら、彼女との仲がギクシャクしちゃうよなぁ?」


 ライオスはわざと面白がっているような口調でそう言った。


「なぁっ!? き、貴様ぁ! まさか浮気しとるのかぁ!?」


 ヘンリーが唾を飛ばしながらバレットを詰る。


「ち、違います! か、彼女は転校して来たばかりでまだ右も左も分からないから、親切に教えてあげていただけです! そ、そこに他意はありません!」


 バレットは必死になって言い訳する。


「ほう。親切ねぇ」


 ライオスは侮蔑した視線をバレットに送った後、懐を探ってなにやら小さな黒い箱を取り出した。


「ライオス殿下、それは!?」


 ヘンリーが訝しみながら尋ねる。


「これはな、隣国のあるスキル持ちが発明した機械でな、録音機と呼ばれている」


「録音機とは!?」


「呼んで字の如くだ。音を録音しておくことが出来る。そして録音した音を再生することも出来る。こんな風に」


 そう言ってライオスが箱のボタンを押すと、


『その女...もといビビアン様は、こともあろうにバレット様に暴力を振るったんですよ!』


 というアマンダの甲高い声が聞こえて来た。それを聞いたバレットの顔が真っ青を通り越して真っ白になった。


 そう、それはあの日、アマンダが謂われなき冤罪をビビアンにふっ掛けようとした時の模様を録音したものだったのだ。


『わ、私はビビアン様に虐められていたんです!...』


 バレットが顔面蒼白になっている間も再生は続く。


『ウソ吐いてるんです! きっと私とバレット様が仲良くしてたんで焼き餅を焼いたんですよ! 信じて下さいライオス様! わ、私、本当に怖かったんですぅ~!』


 この辺りからバレットは尋常じゃない量の汗を掻き始めた。そして、


『ご、ゴメンなさ~い!』


 アマンダが退場した所で録音は終わっていた。


「以上だ。何か申し開きはあるかな?」


 ライオスは敢えてのんびり尋ねた。バレットはガタガタ震えて言葉も出ない。


「ライオス殿下...」


 ヘンリーは怒りでワナワナ震えながら言葉を絞り出した。


「此度の件、愚息から事実関係を聞き出し、調査して然るべき手を打ちたいと思いますので、今日の所はひとまずお暇してよろしいでしょうか?」


「あぁ、構わない。存分に調べてくれ」


「有り難きお言葉。では失礼致します...来いっ!」


 ヘンリーはバレットの首根っこをひっ掴んで引き摺るようにして退出して行った。


 それをライオスは苦笑しながら見送った。

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