第22話 万能付与魔術と嵐の夜。


「ところでルーソンさん、ご用件をまだ聞いてませんでしたね」


 俺は話を切り出す。


「ああ、それなんだけどね。マリク、君が王都を離れたという事は…この国に残る理由はないという事だよね?」


 ルーソンさんは穏やかな顔で問うてくる。ああ、お見通しですか…。


「ええ、まあ…。修行の一環だと思って残っていたんですがね。まあ、ハッキリ目が覚めましたよ。って。まあ、今すぐじゃないにしても…」


 国を出るつもりですよ、言外にそう告げる。


「やはりねえ…」


 ルーソンさんは軽く天を仰いだ。


「なら私の用件は簡単だ。君に挨拶に来たんだ」


「挨拶?」


「商人はね、人を相手に物を売り買いをして利を得る事が出来て、商人と名乗っていられる。私はね、君がこの国を離れれば遅かれ早かれそれが叶わなくなると思っている。商人としてそれだけは避けないといけない、そこでだねこの国を離れる前に一稼ぎして自由都市に戻ろうと思ってね」


 ルーソンさんは笑顔のまま話した。


「この国を離れるんですか?」


「ああ、君を追放するような国だ。いずれ立ち行かなくなる。その綻びは今夜か、明日の朝にかけてか…見え始めるだろうね。そこで悪いんだけど…」


「分かりました、何かお探しですね…」


「それと今晩泊めて欲しくてね」


「さすがルーソンさん、嵐が来る事を予測してましたか」


「この時期は毎年起こるからね。何日か前から雲行きと川の水位とか見てればだいたいの見当はつくよ」


「さすが冒険商人ルーソンさん、旅慣れていますねえ」


 そう言って俺達は嵐が来る前に出来る事をやっておこうと立ち上がった。



 その日の午後…。村には冷たい風が吹き出した。ぴゅうぴゅうと音がするような風だ。穏やかで暖かな陽気が一転、肌寒いものになっていく。


「ルーソンさん、戻りました」


「おお、お帰り。台所を勝手に借りているよ」


 そう言ってルーソンさんは手際良く料理を作っていた。


「さすがですね、俺には真似できないや」


「こればかりは歳の功かな。どうせ同じく食べるなら美味いに越した事はないからね」


 茹でたり蒸したり潰したり、ルーソンさんは何やら工夫をしての料理。見てるだけで美味いものが出でくると期待できる。


「ところでそっちの収穫は?」


「森で胡桃もどきを集めておきましたよ。今夜の暴風雨にやられてきっと実が駄目になってしまうでしょうから」


「ふふ、手が早いねえ」


「村の連中には昨日も言ってやったんですけどね。腹を空かせてるなら胡桃もどきでも取っておけって…。まあ、一日経って取りにいかないようなら連中には不用かも知れないので拾っておきましたけどね」


「それに嵐じゃあ…」


「はい、雨風で地面に落ちたらすぐに地虫に食われちゃうでしょうからね」


「ははは、まさにを見るにびんだね。マリク、商人になってもやっていけるよ。…おっ、障壁に水滴がついたようだね、雨だ」


 水滴が窓ガラスにつくようにマリクが展開した障壁に雨粒がつき始めた。


「思ったより降るのが早いね、これから夕方だと言うに…」


「この時間から降るとなると荒れますね、こりゃあ…」


「まあ、大丈夫なんだろ、この障壁?」


「大丈夫ですよ。たとえ雷が落ちても」


「それなら安心だ。なら酒も持ってきているからゆっくり話そうじゃないか。これからの事とかさ」


 ルーソンさんは荷馬車の方に向かう、明るいうちに酒瓶を取り出しておくのだろう。俺はあまり飲めないんだけどね、そうは思いながらも付き合う事にしたマリクであった。


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