第20話 マリク、怒る!子供をダシにするな!
故郷に戻って三日目、俺は夜明けと共に起き出しライ麦の植え付けを始めた。
農作業は地道に根気良さが求められる仕事だ。しかし、やったらやった分だけ報われるのもまた事実だ。
日照り続きは死活問題だが逆に不足するのも良くないし、雨もまた足りないのも多すぎるのも良くない。丁度良いってものがある。
家の前にたき火と言うにはちょっと立派かなと言うくらいの簡単に石を組んだかまどを作る。そこに昨日の夜は家の中で、今朝からはこのたき火の上に鍋をかけている。弱火でいい、ゆっくり熱を加える。
感覚的には朝の九時と言ったところか、誰がいる訳でもないから黙々とライ麦の種を蒔いた。その作業が終わり、『うーん』と一声上げてずっと屈めて作業していた腰を伸ばし、家の前にある椅子代わりの丸太に腰を下ろす。
横には大きな切り株。時に
「それでこれが…」
俺は昨日の夜からじっくり火を通していた鍋のフタを開ける。十二時間以上煮込んだのはすじ肉だ。
肉にも色々な部分がある。だが、柔らかく味わいが良い部分は高級品だ。仮に牧畜をするような農村でも、美味しく口当たりの良い身肉の部分は滅多に口に出来ない。
だから農村では牛の硬く筋張った部分…、例えば
すじ肉はとにかく固く、歯触りが悪い。だが、長時間じっくりと火を通すととても柔らかな口当たりになる。
今日はスープにはせず、煮込みのようにした。
高級肉のようにいかないが、すじ肉ならではの美味さがある。工夫をしたり手間をかけたりすると食べにくかったものが独特のトロリとした口当たりの美味さを持つようになる。
誰が最初にこうやって食べ始めたんだろう、凄い事だと思う。どんな仕事でもそうだ、
ライ麦の植え付けも終わったし、既に植え付けてある小麦もジャガイモの生育も順調だ。作物が育っていくのを見るのは楽しい。
食事が終わったらどうするか…。師匠もまだ帰ってこないようだし、ひたすら付与魔法を使って何か作ろうか。
「小麦が収穫出来ればパンが作れるようになる。それまではジャガイモがメインだな」
すじ肉の煮込みとジャガイモの塩茹でを食べながら付与魔法でどんな道具を作るかを考える。
手近なところで農機具か、あるいは師匠から預かっている道具に何か付与魔法を施そうか…。そんな事を考えていたら何やら村人たちがやってくるのが見えた。
「はあ…、また面倒事か…」
俺は手を止められるのが目に見えていたので、腕輪をはめた手を振りかざし畑に水をやった。そしてこの村全体にかけていた
およそ3キロ四方の村。その全域にかけていた強化術を俺の畑…、それも小麦のスペースだけに集中して施している。
どのくらいの効果が出るのか確認するには時間が必要だ。まあ面倒な事を言ってくるだけの奴らの相手をしてやる義理はないのだが、その待っている間に村人達の相手をしてやるかと考えたのだ。
『聖女にも万に一つの誤りあり、愚者にも万に一つの真言あり』という
だとすれば、その万に一つの真言…。いや、その
□
「お腹すいたー!」
「何か食べたいよー」
家の前にやって来た村人達。その一列目には子供を並ばせ空腹である事を口々に叫ばせている。
二列目はその母親など、そして三列目には昨日もやって来ていた男達が並ぶ。おそらくは村の全人口に近い人数が来ているのだろう。
「腹を空かせた子供が可哀想だとは思わないのかー!!」
男達を中心に平たく言えば俺に食べ物を寄越せと叫んでいる。俺はその声に構わずジャガイモを、そして鍋から直接すじ肉の煮込みを
「自分だけ食べてねえで子共に食わせろ!」
そんな事を言っているが子供に一口でも分けたが最後、俺も、私もと群がって来るのは目に見えている。
ジャガイモを食べ終わり、すじ肉の煮込みはまだ残っているので少し水を足して再び火にかけた。
「やい!自分だけメシ食いやがって!困っている
村人の一人が言い放った事に他の奴らも追従した!そうだそうだ、人でなしなどと悪行雑言の限りだ。
さすがにこの発言には怒りを抑えられない!
「黙るがいいッ!このクズどもがッ!」
俺は大声で叫ぶと同時に右手を真横に振るった。すると『ばりいいぃぃんっ!』とガラスが粉々になるような音を立て道と俺のジャガイモ畑が接している部分の障壁が消滅した。
俺が作った障壁だ、途中で解除する事は術者本人なら可能だ。だが、魔力の供給が一瞬で途絶えた為にその反動は大きく大きな音や衝撃を生む。
そのいきなりの事に村人達は目を見開き息を飲む。そして一瞬遅れて村人達は吹き飛ばされ地面を転がった。
村人達が吹き飛ばされたのは、俺が障壁を解除したからだ。最初家の四方にだけ張っていた障壁だが俺は上面、つまり天井部分にも障壁を作った。こうする事により中は防犯だけでなく気温なども急激に変化しにくくなるようだ。
障壁を解除した事で、中と外の空気が一気に混じり合ったのだろう。障壁内の空気が爆発的な勢いで外に流れ出たのだろう。まさに荒れ狂う暴風となって村人達を吹き飛ばしたのだ。
「何が子供が可哀想だ?どの口がそんな事を言うっ!だったら自分達で食わせれば良いだろうがっ!?それに今日は食えたとして明日は、明後日は?どうするつもりなんだよ!また明日も来て腹が減ったとここで
転がっている村人達を睨み付ける。さらにその先では木立の陰からこちらを覗くようにしている村長達がいた。
「こんな事をしている間に男どもは森にでも行って食えるもでも取ってこい!
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