第18話 村人ざまあ。ゴメンで済む話だッタよね?

 家の前….。部屋の中で煮炊きをすると何かと匂いが室内にこもるので、家の外に椅子を出し俺は夕食の準備をしていた。


 湯を沸かした鍋に干肉ほしにくを放り込みスープに、そして芋を適当な大きさに切り油を熱した鍋に投入。

 煮るという調理はよくするが油で揚げるのはなかなかに珍しい。と言うより油がそもそも貴重である。庶民ではなかなか目にする機会は少ない。


「でも、芋を単純に揚げただけでこんなに美味しいなんてなあ…」


 ジャガイモを揚げたものに塩を振り、干肉のスープを盛り付け食べる。こんな単純な調理だがこれが美味い。これも我が師テンコから魔法以外に教えてもらったものだ。

 小さな頃は食べる機会もそれなりにあったが、成人してからはほぼ無いに等しいらしい。それを非常に残念そうにしていたのを思い出す。


 農村の夜は早い、日が暮れないうちに夕食を済ませ後片付けをするのが一般的だ。そして日が暮れたら早めにやすみ、日の出と共に働き始める。


 早寝早起き、これなら明かりの為に油や薪を使う事もない。燃料はタダではない、特に油は高値がつく。余程用心深いとかでなければ農村で持っている者は非常にまれだ。


 もっとも今使っているのはいわゆる食用油だ。より高級品の為、さらに高値がつく。もちろん調理以外にも明かりの為に使う事も出来る。いずれにせよ普通の農村ではなかなかお目にかかれない贅沢な夕食だ。



 昨日は小麦、今日はジャガイモの植え付けが終わった。明日は何をしようか…、ライ麦でも植えてみようか…。あれは小麦より作物の価値基準としては下に見られる事もあるが、食べてみれば決して下ではないと思う。単純にそれぞれをパンにした時に差があるからそう思うのだ。

 

 それぞれ特徴があり、それに合う料理や酒を添えると真価を発揮すると俺は思っている。よし、丁度良い機会かも知れないしライ麦の植え付けをやってみよう。


 そう考えて俺は明日はどのあたりをライ麦畑にしようかと考えていると、道の向こうから一団が見える。

 誰もがすすまみれ、殺気立った様子だ。やがて俺の家の前にやってくると先頭の男が口を開いた。


「おい、マリクッ!!テメェ、よくも!」


 なんか昨日も今日もやたら人が来るなあ…。

 こういうのを師匠が何か耳慣れない言葉を言っていたっけ…。だっけ?


 でも、コイツら…きゃくじゃないしなあ…。



 俺の家の前、敷地に面した道に村人が集結した。


 だが、無理に敷地に押し入ってこようとはしない。昼間、畑を荒そうとした時に懲りたのだろう。


 手が出せないなら口を出す、それが何も無い者の常套手段じょうとうしゅだん、ぎゃあぎゃあと口々にわめいている。


 しかし、当然そんな事をしても何も生まない。相手にしなければ良いのだ。話に応じるから何もしなくて良いものを、十のうち一とか二の要望を聞いてやる羽目になる。

 ゴネどくというやつだ。何も代償や対価を支払う事無く、まんまと利益をせしめるのだ。


 だから徹頭徹尾、相手にしない事。これが唯一の正解であり最善手だ。


 そういう訳で俺は村人どもに付与魔法エンチャントの一つ『沈黙サイレンス』の弱体化術デバフだ。対象に文字通り『沈黙』の状態異常を与える。


 たちまち連中は酸欠の魚のように口をパクパク動かしているだけの存在になる。敷地の外の雑音が消えた。これで静かな夕食の再開と洒落込むか。


 本来なら十分だが、もう少し芋を食べようか。俺は昨日収穫した家の裏庭で半ば野生化し勝手に育っていたジャガイモのうち、一つの小ぶりな物を手に取った。

 

 俎板まないた代わりにしている木の切り株の上にそっと置いた。とん、とん…。包丁で1センチ弱ほどの厚さに輪切りし、そのうちの一個に串を差した。

 その串を持ってジャガイモを熱した油に投入する。


『ジャッ!ゴポゴポゴポッ!』


 たちまちジャガイモの表面が泡立つ。油は水より遥かに高い温度に熱されている。その高音にジャガイモに含まれる水分が一気に沸点に達する。ジャガイモからは全力疾走下直後の大型動物の鼓動のような力強い衝撃、それが串を持つ親指と人差し指に伝わってくる。


 しばらくして良い感じに揚がったので油から上げ塩を軽く一振りして口に運ぶと先程とはまた違う食感に俺は舌鼓したつづみを打つ。


「やっぱり師匠の教えてくれたは美味いな」


 師匠と何回か試した事のある串揚げ、やはりこれは美味いものだ。それに揚げながら食べると言うのが良い。やはり熱々あつあつのところをというのが良い。


 そうやって食べていると妙に粘っこい視線を感じた。視線の元を辿ると村の連中だった。


「ああ。迷惑でしかない雑音おまえらだったから、沈黙させたらすっかり存在を忘れていたよ」


 そう言って『沈黙』を解除してやった。すると口々に文句を言っていた村人が文字通り食い入るように俺が食べようとしているジャガイモを見つめていた。


「おい、何か言いたい事があったんじゃないのか?だが、またうるさくしたらまた声を出せなくさせるぞ」


 そう言ってやると奴らは顔を見合わせていたが先程とは少し変わり、全員が無秩序に好き勝手を言うのではなく数人が勝手な事を言うのに変わった。


「やいっ!よくも俺達全員の家を…」

「やり返してきやがって!!」


  やれやれ…。まずはコイツらの認識を改めさせる事から始めるか。


「まず言っておくが…」


 俺は座ったまま次のジャガイモ串を油に投入しながら村人に再び視線を向けた。


「俺はただお前らにだけだ、お前らの放火しようとした火をな。やり返しの…、つまり火を付けたのはお前らだ。そのあたりをんじゃねえ、恨むなら火を付けた自分たちを恨むんだな」


「ぐっ!だ、だがッ!同じ村に住む全員の家が焼け落ちたんだぞっ!良いか、全員だぞ!俺達の怒りが分かるかっ!?マリク!」


「そうか、なら形だけでも詫びの一言でも言ってやるか。おう、悪かったな。これで良いな?」


「なっ!?ふっ、ふざけんなっ!そんなんで許されると思っ…」


「許すんだろ?」


 俺は平然と言ってやった。


「お前ら、言ってたじゃないか。…ってな。あんまりウジウジ言い続けるのは男らしくないともな。ホレ、だからさっさと許せ。男らしくねえぞ?」


 満面の笑みを浮かべ晴れやかな気分で村人達を見つめて言ってやった。




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