第11話 村人たちにざまあ2。お前たち底辺に落ちるが良い。


「そ、そんな…」


 俺の家に火を着けたリクソがガックリとうなだれる。他の松明を投げつけていた奴らも同様、大人なら自分のした事に責任を持たないといけない。


 だが、まだ元気な奴らもいる。石も松明も投げてない残った奴らだ。


「調子に乗るな、無能野郎ッ!」

「そうだ、この村の何の役にも立ってなかったクセに!」


 まだ罵倒する元気があるなら遠慮はいらないな。そう思っていると、意気消沈していた村長やマケボやオボカの父親たちもそうだそうだと罵倒してくる村人たちの尻馬に乗っている。


「無能に役立たずか…。好き勝手に言ってくれるなア。え?お前ら」


 俺は周囲を見回しながら言葉を続ける。


「そう言えば村長、随分と良い物を着ているな?他の奴らも村長ほど良い物じゃないが、それでも随分と新しい」


 何を言い出すんだと村人たちがこちらを見た。


「俺がこの村で暮らしていた十年前じゃ思いもよらない。あの頃は何年かに一度…、長ければ十年近くしないと新しい服なんか買えなかったよなあ。去年、新しい服を買ったのは村長の家だけだった…みたいにな」


「それは俺たちが努力したからだッ!芋しか採れないような土地をだんだんとライ麦、そして小麦を作付さくづけできるように…」

「どうやって?」


 村人の一人が自分たちの成功譚を語ろうとしたところで俺はそれをさえぎった。


「どうやって肥沃ひよくな土地でないとしっかり育たない小麦を採れるようにしたんだ?なにか努力した事があるなら言ってみるが良い」


 俺は村人たちを見据えながらそう言った。



「ただ種をいただけだよなあ、そしたらいつの間にか芋より少し生育条件が厳しいライ麦が…。そして五、六年前くらいか、良い土でないめた育たない小麦の収穫が出来るようになった。んでニ年か三年前か…?少し寒い春先に暖かい所でないと満足に芽吹きもしない早蒔きの小麦を育てるようにして、刈り取りの終わった畑に今度は豆とかを育てる。上手くいけばもう一回…芋か?採れるもんなあ」


「そうだ!オラたちが努力して…」


「何が努力だ、出来る訳が無い。やせた土地でそんなマネなんかはな…。昔は豆と芋を作ったら穀物はそれで終わりだった。教えてやる、この村が豊かになったのは俺が村の土地に強化術をかけていたからだ」



「何を馬鹿な!そんな事が出来る訳が…」


「そう言い切れるのか?この村が豊かになり始めたのは俺が師匠の元に修行に出た後からだ。そもそも師匠が俺を見出した理由は8歳の俺が強化術を裏庭の畑で使っていたからだ。だいたい不思議だろう?十歳(とお)にも満たない子供の俺がちゃんと税を納めていた。普通に考えてあり得ないだろ?」


 村長は思い出したのか表情を変えた。


「思い出したようだな、村長。非力な子供に出来る作業の量なんて限られてるもんなあ。耕せる畑の広さにも限界がある。だから俺は考えたんだよ、小さい畑でも多くの収穫を得るには沢山採れるようにすれば良いと…。あの頃、村は貧しかったから他の誰にも頼れなかった。それぞれの生活くらしがあったからな、とてもヨソの家を助ける余裕は無かっただろう」


 他のどの村人を頼れなかった事、それ自体は恨んではいない。仕方がなかった事は理解している。


「だから自分でどうにかするしかなかった。それからだよ。…それからは無意識に俺は畑に強化術(バフ)をかけていたよ。根付きを良くし収穫をますような強化術をな」


「だが、それがこの村となんの関係があるだ!?」


 マケボの親父が分からないとばかりに声を上げた。


「まだ気付かないのか?俺が師匠の元で師事し、成長していくにつれこの村での収穫がどんどん良くなってきている事を。ロクに服も買えない、ひどい時には餓死うえじにが出るような村が小麦だけでなく色々収穫出来るようになっている事にな」


「そんな事がある訳無い、ウチの賢者、オボカの魔法ならあるかも知れないがなあ!」


 村人もそれに同調する、どうやら意地でも俺を無能者にしたいらしい。


「そんなに俺は役立たずか!?なら、上等だ!身をもって知れ!!ここまでされて黙っていられるか!!俺は今この時をもってこの村への強化術バフを解除する!」


 俺がそう宣言した瞬間、ザザザザザッと草原を獣が駆けてくるような音がした。そして俺の体に魔力が入り込んできた。この村にかけていた強化術を解除した事で常時失われていた魔力が再び戻ってきたのだ。これなら前よりさらに強い付与魔術(エンチャント)を行使出来る。


「もう俺に用は無いな?ならさっさと立ち去れ。もう遅いと思うが家が火事なんだろ?早く帰った方が良い。まあ、自分で着けた火だ。自分でをしないとなあ?」


 そう言って俺は俺は手で犬をシッシッと追い払うような早く帰れという仕草をした。



 エンザ村では村長の家に続き、四軒の家が火事で焼け落ちた。死者が出なかった事は不幸中の幸いだ。


 焼け出された住人はとりあえず付き合いの深い家などに泊まった。


 そして夜が明け村人の生活が動き始めた頃…。


「そ、村長!大変だ!」


 焼け落ちた家の庭で鍋一つで出来る麦粥むぎがゆすすっていた。

 そんな時に駆け込んで来たのは若干日当たりの悪い場所に畑を持つヨネーズだった。日当たりが悪い為、春先は特に余り暖かくならないので早蒔きの小麦の種が蒔けない。だからコイツの小麦の収穫はこれからだったなと村長は思い出していた。


「なんだ、朝から騒々しい!」


 村長は機嫌の悪さを隠そうともせず、ヨネーズに言い放つ。しかし、ヨネーズもそんな事を気にしてる場合じゃないとばかりに村長に村で起きているいへんを伝えた。


「む、麦が…、畑の小麦がどんどんしおれてきて…」


 エンザ村の地獄の始まりであった。

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