第12話 伝説のライブ

高校3年の夏。地元のバンドの盛り上がりはピークを迎える。高校生を中心に7つのバンドが集まり市民会館大ホールでのライブは行われた。

Revolutionがトリを飾る。幕を隔ててステージの上に立つの私たちは満員で埋まった客席のエネルギーを感じていた。今までとは客数が違う。1000人規模のライブだ。幕の向こうからでも人の圧力を感じる。


準備していたエックスのワールドアンセムが流れる。ゆっくりと上がっていく幕。目の前にはステージ前に押し寄せた観客。そして歓声。そう。この感覚。胸の高鳴り。解放される前のエネルギー。誰かがロックはエネルギーだと言ってた。ロック会場は演じるバンドとお客さんでエネルギーの渦が発生する。お客さんの数が多く、バンドとの一体感が大きければ大きいほどその渦は大きい。


ヒロのカウントで曲は始まった。ブルーブラッド。BOOWYから始まったバンドブームは、様々な個性的なバンドをメディアが取り上げ、そして才能あるバンドは一気に人気が出て、そうでないものは淘汰されていった。その中でエックスが与えた衝撃は大きかった。あのビジュアル、スピード。誰もがそれまであんなバンド見たことがなかった。


ブルーブラッドが終わり、次はガラッと曲調が変わりBOOWYのライクアチャイルド。私はハンバッキングPUのギターからシングルコイルPUのギターに持ち替えた。ワイヤレスのスイッチを入れる。

・・・⁈

音が出ない!


会場は1曲目の余韻を残して次の曲を待っている。私はこの日のライブの為にワイヤレスシステムを準備していた。広いステージを目一杯動き回るつもりでいた。音が出ない原因も分からず17才のギタリストはただ冷汗。会場からは「どうした?このままいこうぜ!」そうだ。まずはハンバッキングPUのギターに持ち替えろ。この日のために買ったワイヤレスを諦め、シールドをアンプに挿した。

BOOWYを弾くには歪みすぎのギターでライクアチャイルドは始まった。


ライブはこの日出演のバンドの中で最高の盛り上がりで終わった。ラフィンノーズのゲットザグローリー。マサがステージ右のスピーカーに立った時、私はステージ左のスピーカーに立ちたかった。それはワイヤレスシステムの不調で出来なかった。それ以外は完璧。Revolutionのライブで最高のパフォーマンス。そして会場の盛り上がりも最高だった。



ライブ翌日の朝。いつもの食卓。「昨日のこと新聞に出てるぞ。」出勤前の父が言った。新聞には『若さを爆発させた暑い夏の日』と題して昨日のライブが取り上げられ、私達の写真が載っていた。地元での高校生バンドの盛り上がりは、この日のライブに記者の足を運ばせていた。

嬉しさ半分。あとの半分は心配だった。「学校にバレる。」

禁止されてたわけではない。ただその心配はよそに、私達の情熱は先生達を黙認させていたようだった。

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