第26話 ようやく

「ようやくマスク着用が、個人判断になるんだね」

「私たちの職場では、まだマスクは必要だけどね」

「それでも、たまには外食や旅行なんかも行けそうじゃない?」

「大変だったもんね、今まで」


 私とちーちゃんの働く、高齢者施設での会話だ。

 振り返れば、この感染症で振り回された数年だった。

 特にこの夏は、クラスターが発生したものだからそれはもう大変だった。

 陽性者対応もしなければいけないし、まだ感染していない人を守らなければならないし。物理的にも心理的にも隔離というのは相当なストレスで。

 クラスターが収束するまでの三週間はみんな疲れていた。

 収束後も、二度と起こさないよう予防に神経を使っている、今もなお。


「旅行かぁ、行きたいねぇ」

「行きたい行きたい」

 ちーちゃんと家でそんな会話になる。

「私たちの場合は新婚旅行になるんじゃない?」

「それ、やばっ」

 何がヤバいのかと思って、ちーちゃんの顔を見て安心した。嬉しいってことのようだ。


「その前に引越しじゃない?」

「そうだね」

 ちーちゃんの、家での花嫁修行も無事に終わりーー職場のクラスターやら何やらで半年ほど長引いたけれどーーようやくお母さんのオッケーも貰ったし、新居探しもスムーズにいった。

 あとは引っ越すだけだ。


「暖かくなってきたしね」

「春は新しく何かを始める季節にピッタリだね」

「そうだね、ちーちゃん」

「なに、ひーちゃん」


「好き」

「ん、私も」


「どんな世の中になっても、それは変わらないから」

「これからも、ずっとね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る