第25話 わたし、ユウレイになったよ。

 凪斗なぎとくんはジャンプをすると、ユウレイになったわたしの手を「ギュッ!」とつかんだ。


「ミコ! お前は俺が護る! 絶対に死なせない!!」


 凪斗なぎとくんは、下をむいてさけんだ。


「ミコはまだ、っていない!

 俺が護る! ぜったいに向こうにはかなせない」


 風水ふうすいくんがおどろいた。


「ウソ! 凪斗なぎと、なんで空中に浮いてるの?」


「ミコの手をつかんでいる! 俺がミコが上にくのを、ひっぱってくいとめている!」


 相生そうじょうくんが凪斗なぎとくんに確認した。


えるんだな? 〝火車かしゃ〟の血を引くお前にはえるんだな?

 ミコ様のユウレイが!」


「ああ、える! バッチリえる! ミコは今天井に浮いている!

 俺のことをじっと見ている!! 体を治せば生き返るかもしれない!!」


 凪斗なぎとくんは、わたしの手を「ギュッ!」っとにぎった。強く強くにぎってくれた。とってもあったかい。


 お父さんは、凪斗なぎとくんを見てうなずいた。そしてとっても冷静に、相生そうじょうくんに向かって話しかけた。


相生そうじょうくん! 一刻も早く無菌フィールドを構築してくれ! ミコをそこに移して、傷の治療をする!」


「わかりました! Hey! オルカ!」

『なんですか? 相生そうじょう

城頭土じょうとうど! サイズは八畳間! 大急ぎで!

 フィールド構築した後は、未神楽みかぐら先生のアシスタントを!」

『OK!』 


 相生そうじょうくんは、テキパキとふわふわと浮かぶ蛍光カラーのイルカに指示をだした。

 風水ふうすいくんは、薬箱と裁縫セットを持ってきて、わたしのとなりに座ると、


「ミコちゃん、ごめんね!」


と言って、わたしの着ている服をビリビリとやぶいた。(結構力持ち)

 そして、ビニールの手袋をして、消毒液をとりだすと、わたしの口元と、ムネの傷口を消毒した。

 わたしの傷口はびっくりするくらいちっちゃかった。わたし、こんなちっぽけなキズで死んじゃったの?? あ、でも、心臓になダメージって言ってたから、それが原因なのかな?

 わたしがあたまをぐるぐるさせていると、蛍光カラーのイルカがつぶやいた。


城頭土じょうとうどの処理が完了しました。

 ゲートを開きます』


 蛍光カラーにかがやくイルカは、瑞子みずこちゃんの家のリビングの、おっきなテレビに向かって光をはなった。

 おっきなテレビは、まるでプロジェクターみたいに「ぼぅ」っとひかって、真っ白な部屋を映した。


土行結界どぎょうけっかい! ビルダー八卦はっけ! 失礼致しつれいいたす!」


 相生くんは、すっごい早口でつぶやくと、お父さんに向かってさけんだ!


未神楽みかぐら先生! おねがいします!」


桑柘木そうしゃぼく!」


 お父さんが叫ぶと、瑞子みずこちゃんの家のリビングは、葉っぱにつつまれた。つつまれたと思ったら、葉っぱから糸がふきだして、たおれているわたしの体を糸でグルグル巻きにした。お父さんは、糸でグルグル巻きのわたしを抱えて、プロジェクターに写っている、真っ白な部屋にとびこんだ。

 相生そうじょうくんのそばでフワフワとうかんでいた蛍光カラーのイルカも、お父さんのあとを追って、プロジェクターの中に入っていった。


「Hey! オルカ!」


 お父さんの声が、テレビから聞こえてきた。

(本当にどういう仕組みなんだろう)

 

『なんですか? 未神楽みかぐら先生』

「治療の手分けをしたい。私は心臓の縫合をするから、オルカは筋繊維の縫合を。そのあと桑柘木そうしゃぼくの糸で心臓をしばって人工マッサージを行う。ペースメーカーをたのむ!」


『OK! 処理を実行します』 


 蛍光カラーのイルカがつぶやくと、わたしをグルグルまきにした糸がシュルシュルと伸びて、蛍光カラーのイルカのさきっぽにまきついた。


 お父さんは、ポケットから小さなあおみどり色のカシューナッツを取り出すと、


「Hey! ミニオルカ!」


って言った。


『ナンデスカ? 未神楽みかぐらセンセイ』

「ミコの心臓を映して!」

『OK! ショリヲジッコシマス』 


 小さなカシューナッツは、蛍光カラーのイルカになって、プロジェクターに映った真っ白い部屋一面に、糸でグルグル巻きのわたしを映した。そして、ぐんぐんとズームアップして、わたしの心臓を映した。


木行縫合もくぎょうほうごう! つなげで八卦はっけ! 御免!』


 お父さんは、なんだかカッコいいポーズをとると、わたしが糸がシュルシュルとほどかれていった。わたしのムネの傷は、糸でキレイに縫われていた。

 お父さんは、つづけざまにかっこいいポーズをとった。


木行反魂もくぎょうはんごう! そむいて八卦はっけ! 八百万やおよろずの神よ。自然のことわりに逆らうことをおゆるしください!」


『準備が整いました。

 心臓マッサージを開始します』


 ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……。


 テレビの中から機械的なリズムの電子音が、聞こえてくる。


「反応は?」


 お父さんが蛍光カラーのイルカに聞いた。


『生体反応ありません。

 心臓マッサージを続けますか?』


「……ああ」

『OK!』


 ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……。


 わたしは、機械的な音を流しているテレビをずっとながめていた。

 凪斗なぎとくんに「ギュッ!」って手を握られながら、ずっとながめていた。


 でもね。


 ユウレイになったわたしの体は……少しずつ少しずつ、上へ上へとフワフワと浮かんでいった。

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