休憩時間に体育の準備をすることに意義を唱えたい!
おそらく最も授業を集中して受けているであろう一限が終わり、休憩時間に入る。しかしクラスは誰一人その休みを享受しようとするものはいなかった。それどころかいそいそと次の授業に向けて準備を始める。これは俺たちが真面目で勉学に励もうということではない。ただそうせざるを得ないからだ。
次の時間は体育、つまり俺たちは次の時間までに体操服に着替え、速やかに集合時間にまでに運動場まで向かわなければならない。
ここで一つ俺は言いたいことがある。休憩時間というのはその時間の通り休憩するための時間である。つまりその時間は何をしてもいいはずなのだ。だが、実際のところはどうだろうか?俺たちはこうして次の授業のために行動するだけでその時間は潰えてしまう。つまり実質的に俺たちには休憩時間などは与えられていないのだ。これを俺は問題としたい。労働法的に言っても、休憩時間に業務に関することをやらすとそれは労働とみなされ賃金が発生する(実際どうなのかはさておき)。ならば俺たち学生の仕事はというと大人は声を揃えて学業だという。ならばこの体育の授業を準備する時間も学業のために使われている時間だと言っていいのではないだろうか?そして学業のために使った時間だというならば、それは大人の社会でいう労働のために使った時間だと言える。ならばそれは労働法などの趣旨からしても違法であるのではないか!俺はそれを声を大にして言いたい!
「どうした?またクスリでも決め込んでバブル光線でも履いている奴にしか出来ない思考なんかに付き合っている暇はないぞ。さっさと着替えろ」
今日もまたなかなかにブラックな言葉が出てくる。出てくる。本日も蒼太は絶好調のようだ。
「失礼なことを言うな。俺はただ正当な権利を主張しているだけだ」
「だいたい労働法は労働者に適用されるものであり、労働者の要件に当たらない俺たちには関係ないだろうが」
まぁそれを言われると確かにそうだ。労働者の要件をどうにか解釈して当てはめても無理だろう。だが、俺はそれでもおかしいものはおかしいと言いたいのだ。
「というより、休憩時間を増やせと言いたいのだろ?」
「その通り。それなりに付き合いがないがだけあるな」
「まぁそれなりにな」
いつものノリでお互いに返しあう。実にいつも通りである。そしてその横で面倒くさそうに体操服を着ている潤もいつも通りと言えるだろう。
「そもそも体育があること自体に俺は異議を唱えたい。本当に体育は学業に入るのか?」
ぶつぶつと文句を言う潤。
「運動は健康を維持するために必要なものであるのと同時に適度な運動は勉強の効率をもあげるものだぞ」
「蒼太のいう通り。だから俺も運動部に所属していないながらも運動はしっかりとこなしている」
「このハイスッペク人間どもめ……少しはできない奴の味方になれ」
恨めしそうにそう睨まれるが、俺たちは一応着実に努力してきた賜物なのでそう言われる筋合いはない。
「おいおい、俺たちは努力して力をつけてきたんだ。むしろお前の方こそ、あまり勉強していないのに理系科目はしっかりとできるんだから天才型はお前だと思うのだが?」
「そうだそうだ」
潤は別に頭が悪いわけではなく理系もほとんど勉強なしに高得点を取れるのだから、文系科目も勉強さえすればそれなりになるポテンシャルを秘めているはずだ。
「うっ、まぁそれはそうだが」
そして潤は蒼太の反論に返すことができなかったのか口をつぐんでしまう。
「ほら、早く行かねえと先生に怒られる。怒られると面倒だ」
「へいへい」
潤も観念したのか先ほどよりは急ぎ目に準備を整え、俺たちは急足で運動場へ向かう。
今日の体育の授業はサッカー、そして俺たちは二年ということもあり、すでにそれなりに授業を受けていたという理由から大きなコートを使って2チームに分かれて試合をする。すなわちただただサッカーをするだけの回ということだ。そうするとサッカー部を中止に実にやる気が満ち溢れており、動きも本気だ。蒼太はこの学校の中ではトップクラスの運動能力を誇るためにその能力を存分に発揮し、相手からボールを奪い取って行く。
「俊」
そして前にいた俺に蒼太は鮮やかにパスをする。せっかくもらったパスであるから、俺もそう簡単に奪われるのは癪だからそのままドリフトし、前に進む。幸いなことか相手はやる気はあまりない相手であった。おそらくは文化部またはほとんど活動していない運動部かわからなかったが、日頃運動をしているおかげで遅れをとることはなかった。そしてさらに前に進むと仲間A(残念ながら名前は覚えていない)からパスをしろと催告があったので俺は素直に応じてパスを決める。
「おっしゃ!喰らえ!」
実に元気な掛け声でその仲間Aはシュートを決めるが、狙いが甘かったのかボールはゴールから逸れて外へ出て行く。それを受けて相手側の人間が走りながらボールを取りに行く。球技系でボールが飛んで行くと面倒だよね。わかるわかる、俺絶対行きたくないもん。
そして再び試合が再開され今度は相手側が攻撃側に回り俺たちは懸命にボールを取ろうと試みる。それに対し相手側は何が何でも渡さないという意思を示すために力一杯ボールを宙に蹴り上げる。学生間の素人サッカーでは案外よくある光景だ。相手に渡さないべく賭けに出る行為だ。そしてその賭けは案外敗れ去るものだ。今回もサッカーボールは虫高く飛び上がりそのままバウンドしながら体育館まで転がってしまった。あぁこれでまた誰かが取りに行かなくてはならないな……
などと他人事のように見ていると俺のところに視線が集まる。その視線には蒼太や潤も含まれていた。
……これは俺が取りに行かなくてはならないパターンですか?
だが、この中でボールから一番近いのは俺であるからその視線が嫌がらせというよりかは暗黙の了解からくるものであることは俺にもわかった。こういうときわざと逆らうことも俺は結構好きだが、今回は大人しく従って取りに行くとしよう。
俺はそのまま早足でボールを取りに向かった。
「あったあった」
サッカーボールは予想以上に飛んで行ってしまったようだ。予想以上に探すのに手間取った。早く行かないと待ちくたびれているだろう。まぁ正直それはどうでもいいが、わざとダラダラ行って嫌がらせをするほど心も小さくないのでさっさと向かおう。
そう思いボールを拾い戻ろうとすると、体育館に目がいってしまった。ちょうど窓から覗くことができてしまったからだ。
そこでは女子が体育をしていた。同じクラスメイトかと思ったがどうやら三年生のようだ。そこには奏さんもいた。
嫌な言い方にはなるが、群れることが好きな学生らしくみんな数人のグループでワイワイ楽しそうであった。そこに一人ポツンと奏さんがいた。
どうやら学校もあまりうまくいっていないようだ。まぁあまり関われてこなかったのが原因なのだろう。どこか寂しそうだ。あれだけ美人で性格も悪くないのだから普通に仲良くしてくれる人は多いのに、タイミングとか色々悪かったのだろう。
だからと言ってここで俺が声をかけるともれなく授業中の教師に睨まれるので俺はその場をスッと後にした。
因みに体操服の奏さん、なかなか綺麗でした。
「遅いぞ」
半ば強制的にボールを取りに行かされ、戻ってきた時にかけられた言葉は感謝の言葉ではなかった。それに対し俺は少々イラつきを覚えるが、まぁ他の要因に気を取られて遅れたのは事実であるからそこは甘んじよう。
「悪かったよ」
俺は素直に謝罪をする。すると特に誰かが再開を合図したわけでもないが、皆が定位置につくために自然と試合は再開されるものだと認識した。こういう空気は時には便利なものだよなと思いながら、俺は両手でボールを持ち頭上まで持ち上げ、力いっぱい味方に向けボールを投げ飛ばす。するとボールにつられるように敵味方関係なしにボールに群がり始め、実にその場の密度が高まる。本来サッカーでそこまでボールに群がるのはよろしくないのだが、学生間でやるサッカーなんてものはこんなものである。だが、一部はその群がりに参加せずに傍観を決め込んでいる人間もいる。潤はそのうちの一人だ。
尤も潤は作戦があって行なっているというわけではなく、ただただやる気がないからあんな密集地に行きたくないという気持ちがあるのだろう。他のものもそう見える。
まぁこれは多少仕方ないことだ。これを受けて運動部がしっかりやろうぜと言われても、こっちからすれば他の座学で対して真面目に取り組んでいないのに何を言っているんだという反論をしたくなることがある。
まぁ運動部の全員が全員そうであるとは言わないが、俺が短い人生の中ではろくに勉強はしないくせ、体育になると真面目に受けるようにという人間が多かったというだけである。なのでこれはお互い様であると俺は思っている。俺もこんなことを思いながらも、授業を真面目に受けている方が珍しいし、人のことはとても言えたものではないからな!
「俊!ボールがいったぞ!」
正直俺はというと運動自体は嫌いではないし、動くことは健康的にいっても素晴らしい。ならばこんな存分に動かせる機会を逃すのももったいない。あまりクラスメイトとは仲良くはできていないが、この時ぐらいはしっかりと体を動かそう。別に普段喋らない人間とチームになろうが俺は気にしないしな。俺はコミュ障ではない、ただ普段喋らないだけであるからな。
俺は蒼太から受け取ったボールを見事受け止め、先ほどボールに群がっていたせいかゴールまで字ガラ空きだったから。思いっきりシュートを打つ。
―――まぁ、思いっきりクロスバーにぶつかって何処かにボールが飛んでいきましたけどね!サッカー部じゃないし、仕方ない仕方ない。
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