第17話 シンデレラ

デリヘルに限らず、キャストが風俗で働く理由は様々だ。

一番多いのは手っ取り早くお金を稼ぎたいタイプ。ブランド物を買いあさるキャストもいれば、ホストに貢ぐキャストもいる。地雷嬢はいわゆるこのタイプが多い。言い方は悪いが、仕事をなめているから、接客にもそれが出る。中には、いざやってみると指名がとれるのが嬉しくてめちゃくちゃ頑張るキャストもいる。


次に多いのが、学費を稼ぎたいタイプ。大金を稼ぎたいというのは一番目と同じだが、目的意識がはっきりしており、真面目なタイプが多い。大体数年で辞めていく。

まなつさんのようにデリヘルで働きだした後に一念発起して資格を取ろうとするキャストもいる。


そして2番目と同じくらい多いのが、シングルマザーだ。こちらの女性も生活がかかっているので、仕事は真面目にするキャストがほとんどだ。ある程度年齢層が高いのも特徴だ。


瑠璃さんもそんなシングルマザーの1人だ。年齢は20代後半、人当たりの良い、人気嬢の1人だ。


多くのキャストは仕事を終えたら、事務所のあるマンションの駐車場で降りて自分の車に乗って帰るか、自宅もしくは寮まで送るのが基本だが、瑠璃さんは例外だ。


シングルマザーの彼女は仕事を終えたら、夜間保育所で降りて子供を迎えに行くのだ。家は近いのでそのまま子供を抱っこして歩いて帰るらしい。



その日は遠方での仕事を終え、保育所に瑠璃さんを送る途中だった。


「最近、子供が出勤前に行かないでって言うのよね・・・。」


瑠璃さんの子供は7歳。今までそれがなかったのが不思議なくらいだ。


「今までは夕方過ぎくらいには寝てたんだけど、最近は寝なくなっちゃて・・・。」

「7歳なら九時くらいまで起きてるお子さんも多いですからね。」


子持ちのキャストにはよくある話だそうだ。

夜に母親がいなくなることで情緒が不安になる子供も多いだろう。


送迎で夜の街を走っていると、子供を抱っこして保育所から出てくる女性をよく見かける。場所柄を考えると殆どが夜のお仕事の人だろう。



「もうそろそろ潮時かな・・・。」

「それぞれご家庭の事情がありますからね・・・。」



その数日後、その日は暇だったので、シンデレラの事務所で池永店長と話していると、社長がやってきた。


社長は部屋のドアを閉めるて(待機所と事務所は同じ世帯なので秘密の話の時はドアを閉める)、神妙な顔つきで話し出した。


「瑠璃からシフトの時間を減らしたいって相談されたの。そう遠くないうちにやめることも視野に入れてるみたい」


池永店長は少し驚いた後に横眼で私の方を見る。事情が事情だけに一介のドライバーの俺が聞いてよい話ではないだろう。


「じゃあ、自分は車にいますので仕事が入ったら連絡くださいね。」

そう言い残してその場を離れようとすると、社長からストップがかかる。


「羽根田君ちょっと待って。今、夜間保育を使ってるキャストってどれくらいいる?」

「そうですね、10人くらいかと・・・。」

「瑠璃以外は皆自分で子供を迎えに行ってるのよね?」


「そうですね。どこの保育所かまではわかりませんが・・・。」


「そう・・・。ありがとう。今度ちょっと仕事をお願いをすることがあるかもしれないので、その時はよろしくね。」


何か悪い予感がする・・・。そう思いながら俺は事務所のある部屋を後にした・・・。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

かぼちゃの馬車は今日も行く @yongmoon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ