第三十話 守くん、お姉さんに話しかける

「えっと、確か向こうの方に人の集まる場所があったんだよね」



 モンスター退治の人がいろいろなことをするための建物、

本部と呼ばれる場所に、守くんは一人でいました


 昨晩アミーお姉さんに提案された通り、

お姉さんに頼らずお仕事を完遂できるよう挑戦するつもりです


 そのためにはまず、半分見習いの自分と一緒にお仕事してくれる人を

探す必要があるため、人の集まる場所へと来ていました



「あそこで探せばいいんだっけ・・・、うう、なんだか緊張してきちゃった・・・」



 見知らぬ人に自分から声をかけるという

この世界へ来てからほとんど経験してないことに

守くんは少し尻込みしてしまいます


 それでも、やってみると言った以上その言葉を守るため、

自分を励ましながら人を探します


 そして話しやすそうな人を見つけ、一緒にお仕事をしたいと誘ってみるのですが・・・



「おっ? なんだこの間の試験に合格した新人か、初めて見る顔だな、

ああ、まだ一人じゃ見回りもできないんだろ? いいぜ、じゃあ最初は後ろで索敵や魔石の回収しながら

こっちの動きを・・・、え? どっちも使えない? あ~・・・、また今度な?」



 比較的優しそうなお兄さんに声をかけてみますが

補助的な魔法が使えないことを理由に断られ・・・



「へ~、キミみたいなちっちゃい子でも合格できたんだ~、

で、新人だから組む人が必要なわけなのね?」


「でもごめ~ん、私らもうノルマ間に合ってるし~、

どっちかと言うと前に出て戦える人と組みたいんだよね~」


「というわけで~、機会があったらまた声かけて~」



 比較的優しそうなお姉さん二人組に話しかけますが、

もう新人と組む必要はないと断られ・・・



「あ~? なんだお前、俺と組んで欲しい?

ダメだダメだ、こっちはこれから遠出して強いモンスターを倒すんだ、

危ないから新人なんぞ連れていけるわけがねえ」



 強そうなおじさんにも聞いてみますが、

見回りよりも危険なことをすると断られ・・・



「何よ? 一緒に仕事? こっちは夜の見回りを終えて休んでるところなの、

帰って寝るんだから邪魔しないで」



 その近くにいた水を飲んでいるお姉さんには、

もう仕事が終わった後だと断られてしまいました



「うう・・・、困ったなぁ、誰も一緒にお仕事してくれない・・・、

お勉強させてくれる人を見つけるのってこんなに大変なんだ・・・」


「ずっとアミーお姉さんが一緒に来てくれたから知らなかった・・・、

他の人もこんなに苦労してるのかなあ・・・」


「もしかしてアミーお姉さん、いっつも僕と一緒にお仕事して、

いろいろ教えてくれたから疲れちゃったのかも・・・」



 あまりにもうまくいかないためか、守くんは弱気になって

悪い想像までしてしまいます


 一度がっくりと肩を落とし、溜息を吐いてからもう一度顔をあげると、

不意に一人の女性が目に入りました


 厳格そうな雰囲気で何かを眺めており、人を待っている様子もなく

これからお仕事へ向かうように見えます


 どこか近寄りがたい雰囲気を感じるものの、

守くんは試しにその人へ声をかけてみようと考えました



「あ、あの・・・、ちょっといいですか・・・?」


「・・・・・・」


「あの・・・、僕、一緒にお仕事してくれる人を探していて・・・、それで・・・」


「・・・む? 君はもしかして私に話しかけているのか?」


「は、はい・・・、そうなんですけど・・・」


「そうか・・・、で、用件は?」


「えっと・・・、あの・・・、僕、まだ見習いなので

一緒にお仕事してくれる人を探しているんです」


「おや、見習い? 君のような子供がそうなのか・・・、待てよ?

子供・・・、すると、君が例の大型モンスターを倒した新人というわけかな?」


「えっと・・・、試験の時に倒しましたけど・・・、

どうして知ってるんですか?」


「最年少記録とまではいかないが、それなりの子供が何年かぶりに大型モンスターを倒し

試験に合格したと幾人かの間で噂になっているんだ、なるほど君がそうか」


「そ、そうなんですか・・・、それで、まだ見習いだから一緒にお仕事してくれる人を

探してるんですけど・・・」


「ああ、そういえば新人にはそういうノルマがあったな、

大型モンスターを倒すだけの実力があるなら声をかければすぐ誰か見つかるだろう」


「あの・・・、それが・・・、誰も一緒にやってくれなくて、

それで、お姉さんの姿が見えて、声をかけてみたんです・・・」


「むむ? すると君は私と一緒に組んでみたいというわけか、

はっはっは、それならそうと早く言ってくれれば良かったのに」


(それ、何回も言いました・・・)



 その女性は非常にマイペースな人なのでしょうか、声をかけてもなかなか会話が進まず

守くんも困ってしまいます


 ですが、一緒にお仕事をすることに関しては拒んでいるわけではないらしく、

好意的な言葉が返ってきました



「私で良ければ付き合ってあげようか、まだ今期のノルマも残っていたような気がするし」


「い、いいんですか? ありがとうございます・・・♪」


「ただ、私の戦い方はちょっと特殊だからそう教えられることはないし、

行き先もこちらで決めさせてもらいたいんだが、それでも構わないかい?

もちろんモンスターの巣へ乗り込んだりとか無謀なことをするつもりは一切ないが・・・」


「た、たぶん大丈夫です、なんとかやってみます」


「いい返事だ、じゃあよろしくお願いしよう♪」



 女性はそう言うと立ち上がり、右手を差し出してきます


 握手を求めているのだと気付いた守くんは咄嗟に手を取りました


 彼女の手は、自分の手よりも当たり前のように大きく、

そしてずっと無骨な感触がします


 更に、背丈は自分より遥かに高く、上の方で縛った長い髪を腰まで垂れ下げているうえ、

胸部に携えた乳房も極めて大きく、顔を見上げると守くんの高さからでは

どうやっても視界に入ってしまうほどでした



「私の名はセレスティナ・エシュミー、まだ4階級相当の戦士だが、

いずれはもっと上にいくつもりさ」


「よ、よろしくお願いします・・・、あ、僕は守って言います」 


「マモルね、覚えたよ、それじゃあ行こうか」



 セレスティナと名乗る女性は、そう言うと受付に向かい

二人一緒に街の外へ出る手続きを手早く済ませます


 それが終わると早々に歩き出したので、

守くんも早歩きで着いて行きました


 これが新たなるお姉さん、セレスティナさんとの出会いでしたが、

この出会いをきっかけにどのような事態が訪れるのか、二人はまだ知る由もありません・・・


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