第17話 半分!?
「で、その半分がないとどうなるわけ?」
エバァがジュベールに聞いた。
ジュベールは、少し考えるようにして左手を顎にかけて悩むポーズをとった。
「ふむ……」
そのまましばらく沈黙が続いた。
その沈黙に耐えかねたエバァが
「ちょっと、なんなのさ。早く言ってよ。気になるだろ?」
とジュベールを促した。
「そうだな……」
ジュベールはそうつぶやくと、まだ迷っているようだったが口を開いた。
「特に、これといった問題は無いように思えるな」
それを聞いた全員が何故か安堵の溜息をもらす。
僕もそれに混じって、まぁ問題は無いのならいいのだろうと安心しかけた。
ところが、次の瞬間その空気は変わった。
ジュベールの付け加えた一言によって。
「ただ、この本を正しく使うことができないということと、6番目の役割が果たせないだろうことを除いては」
ジュベールが言った瞬間に皆の顔が強張る。
一体どうしたっていうんだ?
そんなに深刻なのか? この本が読めないと?
6番目の役割ができないと??
でも、僕は6番目なんかじゃないと思うんだよね。
だから、きっとどこかに別の6番目がいるんだよ。
そうだよ! そいつを探せばちゃんとした役割ってのも果たせるんじゃないのか?
そのとき、
「なんだって?」
エバァがつぶやいた。
「それじゃあ、この世界は……」
ベルミラが半分泣きそうな表情になっている。
「そう……ですか……」
レオンが一瞬、苦しそうな表情を浮かべて顔を背ける。
『バカな……』
サイアスは信じられないというニュアンスを声に含ませながら、つぶやいている。
ただ一人、トルキッシュだけが全然動じてない雰囲気で言った。
「なんだ、なんだ、なんだ~? お前ら、今からそんなこと決め付けてんじゃねぇよ。
まだ、わかんねぇだろうが!! それとも、ジュベールのおっさん、あんた確信できる証拠でもあんのかよ?」
「お……おっさん?」
ジュベールがトルキッシュの言葉を聞き咎める。が、トルキッシュは気にしていない。
むしろ、腕をくんで余裕の態度を示している。
ジュベールは怒りを抑えた表情で口を開いた。
「確信と言えるかはわからないが、これだけは言える。この本は6番目の魔力に反応して目覚め、6番目の魔力に反応して術を発動する。
そして、本を持った者の魔力によって、文字を紡ぎだす。
しかしながら、この本は魔力が弱いと効力も弱くなる。
普通は、その者に答えを授ける文章を紡ぎだすはずの本が、魔力が弱いと答えの文章としての意味合いが曖昧になる。
章平くん。君はこの本を目覚めさせた。だが、同時に文章を見て『わからない』と言った。
それは、つまり6番目特有の魔力を微量保持しているが、この本に見合うだけの魔力が存在していない証だ。
6番目に魔力が微量なんてことは通常有り得ない。だから、半分だ。
半分6番目。
すなわち、本を正しく使うことも、6番目の役割を完璧にこなすこともキミには無理だということだ」
………………………………………は?
いや、意味ワカリマセン。
とりあえず、なんか半端モノだと言われた気がするんだけど……。
別にこの本読めなくても、生活に支障が出るわけじゃあるまいし……。
だが、その言葉でその場にいた僕以外の全員がうな垂れた。
いや、トルキッシュだけは違う反応をしていた。
しばらく何事か考えていたと思ったら
「なんだ。そんなことか」
とあっさり言い放ったのである。
「そんなことかって……」
エバァがトルキッシュに向かって言うと、トルキッシュは
「そんなことだろうがよ?」
と平然としている。
「でも、トルキッシュ……」
今度はレオンが落ち込んだ様子でトルキッシュを見て言うと、
「なんだよ? レオン。お前まで落ちこんじまって。らしくねぇぞ? 魔力がたんねぇ?
そりゃ、訓練が足りねぇからだ! 俺様が一から鍛えなおしてやるよ。
だ~いじょうぶだって。なんとかなる。っていうか、なんとかするんだけどな?」
トルキッシュがワッハッハと豪快に笑った。
その顔になんだか、頼もしさを覚える。
レオンが少し微笑んだ。
そして、
「そうですよね。今、そんなことを言っても始まらないですよね?
たまには、流れのままに任せてみるのもいいかもしれません」
と言った。
だが、その後にレオンが低くつぶやいた言葉が気になった。
みんな気づいてないみたいだったけど、僕は聞いてしまったんだ。
「もう動き出してしまっているし……」
とつぶやくレオンの声を……。
いったい、何が「動き出している」のだろう。
妙にその時のレオンの顔が深刻なのが気になった。
「さぁてと。少々仕事をしたら、また眠くなってしまった。それでは、諸君。
また、気が向いたら会おう」
ジュベールがよく通る声で言った後、紳士らしく会釈をした。
「え。ちょっと、待って!」
エバァが言うより早く、ジュベールはそのまま忽然と姿を消した。
「行ってしまいました……」
ベルミラがつぶやいた。
後には、立ち尽くした僕たちが残った。
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