第27話 27、千の入学試験
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翌朝、千が工事現場に着いた時、既に分隊は整列して待っていた。
敷地内の草は既に枯れかけていた。
千は馬車の屋根に立って兵士に言った。
「今日は校舎の基礎工事を行う。校舎は5棟作る。校舎を建てる場所の四隅には白旗が立ててある。そこには土台の石がある。その土台の石は決して動かしてはならない。ここから見て左側から順に第1小隊から第5小隊が工事を行う。基礎工事はおそらく初めての方法だと思われるから指示書の通りに行ってくれ。指示書は10番目から14番目の各馬車にある。簡単に言えば、石灰石と粘土と珪酸石と鉄鉱石を焼いて砕いて石膏を混ぜた粉に水を加えると固まる。その粉が入った袋が馬車に積まれている。その粉と砂利と砂を良く混ぜて水を加えて泥状にして鉄筋の入った枠に入れる。水は昨日掘った井戸から採れ。泥は数時間で固まる。馬車には基礎工事の資材が載っているから各小隊は各1台の馬車の資材を使えばいい。基礎工事には大量の砂利と砂と水が必要となる。砂利と砂は道の反対側に小山になっている。第6小隊から第8小隊は砂利と砂を工事の小隊に運べ。手伝ってもいい。第9小隊は敷地の周辺5m間隔で杭を立てよ。杭の穴は昨日の井戸掘り器を使え。杭は15番目の馬車にある。第10小隊は今日は休んでいてもいい。昼食の準備をするだけでいい。必要なら手伝ってもいい。わかったか。」
「わかりました、司令官様。」
「作業を始めよ。」
校舎は3日目には完成し、4日目には資材を積んでいた馬車は分解され別棟の資材小屋の屋根となった。
5日目に兵達が到着した時、新しい馬車が置かれており、学生宿舎の建築と井戸の小屋などの周辺の整備のための資材が準備されており、兵士は指示通り働いた。
6日目には芝生の種が捲かれ敷地周囲の柵には一本の鋼線が張られた。
7日目で千の作った学校は完成した。
5連棟の校舎と1棟の学生宿舎と頑丈そうな資材小屋と太めの2本の柱が立っている入口があり、一夜で育った一面の芝生が植わっていた。
七日目の夕刻、兵達は千の馬車の前に整列した。
「皆の者、良く働いてくれた。予定通りの完成となった。これで学校の建設は終了する。城に帰って通常任務に就け。伊井分隊長、これで臨時司令を止める。分隊を指揮せよ。」
「了解しました、司令官。質問してよろしいでしょうか。」
「許可する。」
「昨夜までのように見張りの兵を残さなくてもよろしいのでしょうか。」
「見張りは必要ない。誰も何物も簡単にはこの地には入って来られない。兵達も気をつけよ。無許可で門を通ろうとすれば電撃を受けて死ぬ。無許可で柵を通ろうとしても電撃を受けて死ぬ。馬のような大型動物もウサギのような小動物も同じである。明日には多くの野生動物の死骸が柵の周辺に。・・・そうだな。このままでは野生動物がかわいそうだ。村の者も命を落とすことになる。伊井分隊長。私はもう1日臨時司令を続ける。まだ残っている布小屋にこれまで通り見張りの兵を残せ。明朝9時に残りの兵をここに集合させよ。柵と門を構築する。わかったか。」
「わかりました、司令官。」
学校が完成し周平が金平を連れて見に来た。
「立派な学校ができたな。それもたった8日間でできた。5つの井戸もある。」
「伊井分隊長から聞きました。完璧に準備されていたようです。それと不思議なことがあったそうです。」
「どんなことだ。」
「粉と砂と砂利を混ぜた泥が半日で堅い石の土台になったこととか辺りに密生していた雑草に液体を掛けると一日で枯れてしまうとか芝生の種を蒔いて翌日には足下のような芝生が出たらしいのです。それと、最初は門は二本の柱だけで周囲の柵は鉄線一本が張ってあっただけだったそうですが千様は勝手に通ると電撃を受けて死ぬから注意するようにとおっしゃられたそうです。」
「どれもすごいな。この場所は周囲の雑草地と同じだった。千様が行ったことはどれも戦いに応用できそうだな。立派な門と周囲のごっつい柵は電撃の危険を避けたためだろうな。千様は優しいな。」
その時、空から熱気球が降りて来た。
籠に乗っていた千は綱を持って飛び降り、籠を地面の高さまで引き下ろしてから綱を井戸の柱に結わえてから周平達に言った。
「周平様、金平様、こんにちは。学校を観に来られたのですか。」
「こんにちは、千様。立派な学校ができましたね。」
「兵士の方達にお手伝いしていただきました。山から周平様が見えましたので急遽(きゅうきょ)やって参りました。」
「そうか、ここは万さんの山から見えるのですね。」
「はい、水脈の豊富なこの場所は幾分低い位置にあります。周囲からは簡単に見ることができます。」
「密偵の話しですか。」
「十日後にはこの場所で入学試験があります。どれだけの人がどんな人が集まるかは分りませんが密偵も入っている蓋然性は高いと思われます。ここに参りましたのは対処の方針を伺っておこうと思ったのです。密偵を見つけ出すのは容易です。もちろん学生にはしません。密偵を捕らえるのか放置するのかを周平様にお聞きしたかったのです。どうしたいですか。」
「千様はどうお考えでしょうか。」
「入学定員は50名です。密偵は補欠にして居所と名前を控えておけば今後の情報制御に役立つと思われます。偽の情報も与えることができます。捕えれば新しい密偵が派遣されるし、捕えられなければ新しい密偵は派遣されません。」
「密偵は捕らえず補欠にしておきましょう。どのように選考されるのですか。」
「そうですね。歩かせるだけで選考はできますが何か試験のようなものをしなければ納得できないでしょうね。五人ずつ机の前に座らせ誰にもわからない同一の問題を出しましょう。」
「どんな問題なのですか、千様。」
「周平様にも秘密です。10日後に分ることですから。」
「私にも分らない問題なのですか。」
「申し訳ありません、周平様。周平様が答えを分っているのかいないのかはわかりません。」
「分りました。4月6日を待ちましょう。」
「ありがとうございます。周平様、お願いがあります。この学校を作った伊井分隊を当日お借りできないでしょうか。人員整理をお願いしたいと思います。」
「もちろんいいですよ。兵士は武装させて朝の9時にここに集合させます。」
「ありがとうございます。周平様。」
千は周平に静かに近づき周平の耳元に美しい唇を近づけ何かを囁(ささや)いた。
周平はにっこりして言った。
「そうか。確かに誰にも分からんだろうな。」
4月6日、受験生は十時頃から集まり始め正午には五百人に達した。
兵士は受験生を5人ずつの組にして代表に番号が書いた紙を渡した。
正午になると最初の5人の受験生は教室内に設えた5つの机を前にして腰掛けた。
机には墨と筆と紙が置いてあった。
「私が試験官である。問題を言う。答えを前の紙に描け。問題は『世界の形を十秒間で描け』である。描け。」
5人の受験生は直感でそれぞれ書いた。
「兵士、回収せよ。」
「分った。兵士、左から2番目の者を布小屋に連れて行き居所と名前を記録してそこで待たせよ。他の者は帰宅してよい。兵士、次の者達を呼び入れよ。」
試験は一組が2分程度かかり、百組が終わるのに三時間近くかかった。
住所と名前を記録した者は65名であった。
千は布小屋の65名の合格者の前に立って言った。
「この学校の学生は50名が予定されている。15名は補欠である。補欠の名前は布小屋の外に貼ってある。補欠の者は帰宅しても良い。欠員ができたら学生にするかどうかは私が決める。50名の合格者は4月9日の朝の9時にここに集まれ。宿舎生活をするからそれなりの心の準備をせよ。身一つで来ても良い。当分家には帰れない。以上だ。質問はあるか。」
「海穂国の荒波と申す。質問します。試験問題は全ての組に同じだと推測しております。答えは何だったのでしょうか。」
「荒波殿か。答えは一通りではありません。大陸の形を描いてあれば勿論合格にします。この星である丸を描ければそれも合格にしようとします。でも世界は主観です。自分の世界を描いた者も合格にします。要は自分の周りの世界をどのように捉えているのかが問題なのです。荒波殿は私の能力の一つをご存知です。試験の真意が那辺(なへん)にあるのかをお考え下さい。」
「分り申した。ありがとうございます。」
「他にあるか。なければ解散。」
千は密偵の15名を含む65名の名簿を持って山に帰って行った。
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