第5話 5、盗賊退治4

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 万は荒れ寺の山門の前に馬車を止め、大声で叫んだ。

「おおい、だれか居るかい。」

返事はなかった。

「おおい、だれかいるかい。重蔵さんて言う人の仲間の人はいるんかい。」

「おめえはだれだ。」

一人の男が刀を持って荒れ寺から出てきた。

もう一人の男も山門に続く塀の陰から周囲を気にしながら出てきた。

「あんたら重蔵さんのお仲間かい。」

「そうだ。おめえはだれだ。」

「わしゃあ猟師だ。村から山に向かう途中だ。道の途中で重蔵さんて言う人から伝言を頼まれたんだが、ほんとにあんたらでいいんかね。」

「わしらは重蔵の知り合いだ。どんな伝言だ。」

 「猟師は疑り深いんでな。何か証拠は無いかい。重蔵さんの二つ名はなんて言うんだい。」

「なにい、貴様。図に乗るなよ。」

「怖い人みたいだな。そうかい。」

万は御者台の横に立ててあった銃を取り出し、一人に狙いをつけた。」

「わしゃあ猟師で鉄砲を持っているんだ。素直に質問に応えないと痛い目に合うぜ。」

万は山門の横の土壁に二発を発射した。

土塀は崩れ落ちた。

「この銃は威力が強いんでな。土壁のようになりたいかい。それにこれは8連発だ。残りは6発だ。どうする。」

「悪かった。木枯らし重蔵が通り名だ。」

「最初からそう言えばいいんだ。そっちの一人。こっちに来て山門の前に並びな。どうにも信用できねえ。来るときは馬車から離れて通るんだぞ。」

 二人の男は山門の前に並んだ。

「これで一発で二人を倒せるな。刀を鞘に納め地面に置きな。」

二人は万を睨みながら刀を足下に置いた。

「それでいい。重蔵さんには『馬がだめになったから迎えに来てくれ』と伝えてくれと言われた。米俵を積んだ馬が倒れて重蔵さんは足を折ったらしい。わかったかい。」

「わかった。それだけか。」

「もう少しあるんだ。わしゃあ、重蔵さんから駄賃をもらってねえ。あんたら駄賃になるものを持ってるかい。」

「銭なら少しはある。」

「そうかい。銭でいい。でもあんたら恐ろしい人達みたいだから注意せんとな。怖い動物は動きを制約しなくてはだめだ。近づいたら襲われる。」

 万は御者台から紐を二本取り出し、二人に向かって投げつけた。

「紐で互いの手首を結(ゆ)わえてくれ。右手は右手と、左手は左手とだ。紐は長いから動きには困らないだろう。外すときはすぐに外せる。」

二人はぶつぶつ言いながらも互いの手首を結わえた。

「それでいい。あとは腰に吊るしてある手ぬぐいで一人は目隠しをしてくれ。一人はそのままでいい。」

変な命令だと思いながら一人は目隠しをした。

「それでいい。いつでも目隠しは外せるしな。それでこの綱を二人を繋いでいる紐に結わえてくれ。」

万は御者席から長い綱を二人に放り投げた。

目隠しをしていない一人が綱を紐に結わえた。

「さて、銭のある所に案内してくれ。変なことをするなよ。ま、死にたければしてもいいけどな。」

 万は馬車を降りまだ残っている綱の端を握り、銃を二人に向けて小脇に抱えた。

二人は荒れ寺に入って行き、伽藍のある大広間の隅から胴巻きを取り出し、銭を1掴みして万に投げつけた。

「これでもういいだろう、くそ猟師。」

「たちが悪い男達だな。そんなお礼の仕方はないだろう。」

万は銃を男達の横の床に発射した。

床には大きな穴が開いた。

「あと5発だ。銭を拾う間、お前達を縛っておくからそこの柱の前にすわんな。」

二人は万を睨みつけながら大広間の柱に背をつけて並んで座った。

万は持っていた縄を持って二人の回りを廻り二人に何重もの縄をかけた。

 「これで動きを制圧したわけだが動物と同じことをしなけりゃならんだろうな。それをすると静かになるんでな。」

万は懐から袋を取り出し二人の男に後ろから被せた。

それから持っていた手ぬぐいを縦に二つに裂いて袋の上から目隠しをした。

「どうだい、見えなくなると不安になるだろう。動物は大抵これで静かになるだ。声を出したら袋の上から猿ぐつわをかますぜ。声を出さんこった。」

万は辺りに散った銭をゆっくり拾った。

「銭を投げるなんてなんてやつだ。胴巻きも貰っていくからな。」

万は一人の男の懐から胴巻きを引き出した。

「おや、匕首も隠していたんかい。これももらっていくぜ。」

「くそ野郎、覚えておけよ。」

「しゃべると猿ぐつわをするって言っておいたよな。口を開けな。匕首で開けてやろうか。」

万は二人の服を匕首で切り裂き、丸めて袋の上から口に押し込み、切れ端で猿ぐつわを完成させた。

 「さて、これでいい。しばらくこうしていてくれ。」

万は馬車に戻って長い綱を持って来た。

「今から綱できつく縛るだ。かなりきついんで苦しいかもしれんが、我慢してくれ。」

万は綱を輸送結びにして思いっきり引いた。

綱は二人の胸に食い込み二人はうめき声を出した。

万はもう一人の懐からも匕首を取り出し、荒れ寺の外に出て二人の刀を拾い上げ馬車にしまった。

御者台の隅から弾を3発取り出して銃に装填し、馬車を道の方に進めた。

 皆がひそんでいる林に着くと松助、竹蔵、梅吉の3人は十字弓と馬を引いて現れた。

「どうだったい、万さん。」

「手下の二人を捕まえた。弓から矢を外していい。弦はまだ引いたままにしておいてくれ。今から賊を縛り上げ米俵を馬車に載せる。銭は全部かどうか分らんが取り返した。賊は前と同じように目隠しをしてあるんで安心だ。前と同じで声を出してはならねえ。」

「わかった、馬も連れて行くかい。」

「そうしてくれ。寺にはまだ二頭の馬もあるはずだ。3人は帰りは馬に乗ってくれ。寺の米俵は馬車に積む。賊もしばって馬車に転がしておく。残りの馬は馬車の後ろに繋いでおく。途中で賊の頭を拾って同じように馬車に転がす。米俵も馬車に載せる。馬の死体は鞍を外して穴を掘って埋める。わかったかい。急がないと夕方になってしまうからな。」

「万さん、馬の死骸を貰えないだろうか。馬肉はうまいし、皮も役に立つから。」

「わかった。そうしてくれ。残った馬に載せてもいいし、村に戻ってから取りに来てもいいだ。」

「了解。」

 3人と万は無言で行動した。

二人の賊のうめき声は止まなかったが、馬車に投げ込まれた後は静かになった。

万達は夕方になる前に村に着いた。

村長に経過を説明し、後の処理を村長に委ねた。

万は二頭の馬を馬車に繋いで山の自宅に戻って行った。

十字弓は松竹梅のそれぞれに1丁ずつ与えた。

松助が持っていた2個の爆竹は御者台の下に格納した。

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