第32話 お嬢様とパンツ

「ゴクゴクゴク……プハァ!生き返るわぁ」


 目の前にいるのは公爵令嬢のはず。だが、どう見てもおっさん……


「あの……どうして僕を呼んだんです?」


「はぁ?そんなの私が休憩するための口実よ、口実!ずっとむさ苦しいパーティ会場にいてたまるかっての!クソぉ!ジジイがエロい目で私をみやがって」


 おお、怖い。急に怒りだした。彼女は令嬢の形をした爆弾だろう。パーティ会場で見たお淑やかさのカケラも見事に感じさせないお嬢様の本性にはホムラも感服だ。


「はぁ……それにしても、僕と2人でこの部屋にいて大丈夫なんですか?別に何かするつもりはないですけど、何かあった時は」


「ふん、出来るもんならやってみなさいよ!ぶっ殺してやるわ。出てきなさい、カルミー」


 誰かを呼ぶお嬢様。気がつくとホムラのすぐ隣に黒装束の人物が立っていた。あまりのことに驚きつつも、ホムラの身体はすぐに杖を抜いて構えていた。


「失礼します。私は、お嬢様の警護をしているカルミアーラ。杖を下げて頂けると」


 口元を覆っているマスクを取り、女性が素顔を出す。


「あ、すみません!突然現れて驚きました」


 すぐに杖を下げる。


「ふふんっ!どーよ、驚いたでしょ?」


 なぜかドヤ顔をしてくるお嬢様。なんか人が驚いたのを楽しんでいる様だ。


「いえ、しかし子供とは思えない反応速度ですね。並のものであれば反撃を喰らっていたかもしれません。初めてこれを見た時のエミーシャ様は、ソファから転げ落ちる位でしたので、貴方の反応は素晴らしい」


「な、なんでそれを言うのよ!」


 おいおい、さっきまでドヤってた調子はどこに行ったのか。


「初めまして、ホムラ・レーミングと申します」

 

 お嬢様は無視して挨拶をしよう。


「ご丁寧にどうも。先程も名乗りましたが、カルミアーラです」  


 なかなか機械的な印象を持つ女性だ。しかし、全く気配を感じなかったしかなりの腕のものだろう。



(エミーシャ様っていつもこんな調子なんですか?)


(はい、外部の者がいる時は気を張っていますが、なかなかの暴言っぷりに当主様も手を焼いておられます。私も転職先を探したい所です)


(ドラゴンより厄介ですよ、多分。僕は、ドラゴンと戦う方を選びますね)


(私もです、その方が気が楽だ)


 この人とはなかなかに気が合いそうだ。つい、ヒソヒソと話しをしてしまう。


「聞こえてるわよぉぉぉぉぉ!誰がドラゴンより厄介で楽よ!」


 と言いながら立ち上がり近くにあったリンゴを掴み握りつぶす。10歳の女の子の握力じゃない!


「身体強化のスキルを持ってらっしゃいます。殴られると多分痛いです」


 ブンッと音がして、カルミアーラの気配が消える。逃げやがった。


「私の拳、味わってみるかしら?クソガキ!」


「あはははぁ、リンゴ味がしそうですね〜なんて」


 直後、エミーシャが一気に間合いを詰めて飛び込んでくる。殴られる!


 バチィン!


 と音がなりホムラの魔力障壁がエミーシャの拳を阻む。それでも拳を撃ちつけようとしてくるので恐ろしい。


「あのー、謝ったら許してくれたり?」


 ここは自分が大人にならなければ収集がつかない気がする。


「土下座よ、土下座しなさい!」


 なかなかに屈辱的な要求をしてくる。しかし、仕方がないだろう。


「わかりましたよ。謝りますって、はい、すみません」


 土下座を決める。魔力障壁に拳を撃ちつけすぎて怪我をされても敵わない。大して価値のない頭なので下げておこう。


「あーハッハッハッ!ようやく立場を理解した様ね」


 高笑いを決め込みながら足でつついてくる。もう少しでパンツが見えそうだ。もしかすると、ドレスの下は履いてないかもしれないが、履いている可能性もある。


「えっとー、いつまでこうしてれば良いんですか?」


「反省が足りないんじゃないかしら?下のものらしく、足でも舐めれば許してあげるわよ」


 靴ではない様だ。足ならばありがたい。早速、行動に移す。


「では、失礼して」


 エミーシャの靴をすぐに脱がせて、足を舐めようとしてみる。あれ?自分変態じゃね?と思ったが、変態とはエルメティア先生や、落とされた元神様のことであって自分ではないなと考え直す。


「な、何すんのよ!」


 驚きながら飛び上がるエミーシャ。そして、その瞬間をホムラは逃さなかった。


 ホムラはしっかりとドレスの中を捉える。



(あれは……、まさか!熊さんパンツだとぉ!)


 自らの身体に電撃が流れた気がした。それだけ今目にしたものは衝撃的だったのだ。


「な、何すんのよ!この変態!」


「足を舐めろと言ったのはエミーシャ様です。靴を舐めろにするべきだったと愚行します」


 見た感じだけ冷静に返事をするが、頭の中は別のもので埋め尽くされていた。


(熊さん、パンツ)



 魔物とは別に動物も存在しているが、それが可愛くデフォルメされていた。これは転生者からもたらされたものであることは後に知ることになる。


 まぁ10歳ですし、可愛いと思います。貴族令嬢も履くとは思っていませんでしたが。



(パンツといえば……一回、洗濯物の中にエルメティア先生の際どいパンツがあったな……いつもあんなの履いてるのかな?)


 なんて思い出す。




「お父様に言いつけてやるわ!」


 エミーシャが怒った様子で言う。むむ、それは避けたい所だ。ならばこちらも対抗させてもらう。


「エミーシャ様が熊さんパンツ履いてることを、みんなにバラしますよ!」


「な、なんで知ってるのよぉ!わざわざ、カルミーに頼んで買ってきてもらったのにぃ!」


 自分で墓穴を掘っていく。なんだか、このお嬢様面白い人だな……と思い始めるホムラだった。

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